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8.ベリンジャーの誤算


8.ベリンジャーの誤算



 そして翌日。やってきたモランゴとモランガの様子が、明らかにおかしい。俺様に惚れていたはずのモランガは、挨拶もそこそこにバルボラのご機嫌をうかがっている。モランゴにいたっては率先して雑用をこなし、俺様ではなくバルボラに逐一報告している。

 そして何より異常なのが、ふたりがお互いを意識している様子だった。その距離感はまるで付き合いたての恋人のようで、見ているこっちが恥ずかしくなる。もともと仲のいい兄妹だったが、さすがにこれは行き過ぎだ。原因は調べずとも分かる。あの女だ。


「おい、バルボラ」


「あらぁ、ベリンジャー。おはようさん」


「お前、モランゴたちに何をしたんだ?」


「はて? 何のことかしらねぇ?」


 バルボラは例のごとく、大げさに肩を竦める。人の神経を逆撫ですることにかけては、本当に超一流だ。あー、マジでぶん殴りてぇ!


「とぼけるな。アイツらの様子がおかしいのは、お前の仕業だろう」


「アタイはアンタの言う通り、あのふたりと仲良しになっただけじゃあないですか。夜のベッドで3人仲良く、ねぇ?」


 バルボラが舌なめずりしながら、艶めかしい視線を俺様に向けた。俺様は得体の知れない恐怖を感じ、半歩だけ後ずさる。バルボラはその機を逃さず、俺様に体を寄せてきやがった。


「アタイを追い出そうとしても無駄ですよ。なんたって、あの子たちはアタイの虜ですからねぇ。アンタもこの大事な時期に、パーティー解散なんて憂き目には遭いたくないでしょう? だったらアタイと仲良くすることですよ。ま、チームワーク最優先のアンタには、言うまでもないでしょうがねぇ?」


 バルボラは勝ち誇った笑顔を見せてから、日雇いのポーターに指示するモランゴに近寄っていく。モランゴはだらしない顔でバルボラを迎えながら、もたつくポーターをどやしつけた。


「ベル、どうすんのよ」


 リリアが心配そうな顔で、俺様に話しかけてくる。


「このダンジョン攻略が終わるころにはあの女も身の程を知り、泣いてこの俺に許しを乞うことになるさ。だから心配するな。俺に任せておけ」


「そう? だったらいいけど」


 パーティーの乗っ取り。あの女は最初からそのつもりで、このリヴルの末裔に入ったんだろう。まあ、ここまでは見事にしてやられたと、褒めてやってもいい。

 だがこの程度で俺様に勝ったつもりでいるんだったら、それは大きな間違いだ。俺様を誰だと思っている? 勇者候補筆頭にして次期国王最右翼の男、剣豪ベリンジャー様だぞ! 貴様のようなクソビッチに、足元をすくわれていい存在じゃないんだっ! 格の違いを見せつけて、俺様の足元にひれ伏させてやるから覚悟しておけっ!!




 しかし俺様たちは、思いっきり出鼻をくじかれた。


「ねえ、ベルっ! これも想定内なの⁉」


「もちろんだともっ!」


 もちろん想定外に決まってんだろうが! まだ2階層だってのに、何だよこの魔獣の群れは? いくら下級魔獣だからって、こんだけウジャウジャいたら前に進めやしねぇ。


「そりゃあそうですよねぇ。魔獣使いはそのレベルが高ければ高いほど、魔獣を引き寄せちまいますもんねぇ。下級魔獣を近づけない希少スキルを持ったお人がパーティーにいてくれれば、話は別なんですがねぇっ!」


 バルボラが使役する邪龍が、黒い炎を吐き出す。一帯の魔獣が一瞬で焼き払われ、俺様たちは束の間の休息を得ることができた。


「クソっ! 一体どうなってやがる! おい、ポーター! ポーションよこせっ!」


「はっ、はいっ!」


 ポーターは連れている馬に載せた荷物袋から、ポーションを取り出そうとした。しかし魔獣の群れに囲まれ過ぎたせいか、馬が怯えてなかなか言うことを聞かない。


「何をモタモタやってんだっ! ノーマンなら言われなくたって、絶妙のタイミングで必要なアイテムを取り出してたぞっ!」


「すっ、すみませんっ!」


 尚ももたつくポーターを、モランゴが小突く。馬といい、ポーターといい、最悪の使えなさだ。どうやらハズレを引いちまったらしい。


「ねえ、ベル。今日のところは、ここで切り上げたほうがいいんじゃない?」


 疲れた顔のリリアが、そんなことを言い出す。


「何を言ってるんだ? まだ2階層じゃないか」


「だからよ。既にこの時点で、普段の倍以上の体力と魔力を消耗してるわ。このままだと、最下層まで進むための物資が足りそうもない。ここは一旦仕切り直したほうが……」


「俺たちはリヴルの末裔だぞ? そんな格好悪いことできるはずないだろう。第一、どうして今回に限って物資が足りないんだ? いつもなら、多すぎるくらいに準備してるじゃないか」


「……ノーマンよ」


「何だと?」


 ちっ、またノーマンか。もううんざりだ。


「アイツは気弱で臆病者だったけど、そのぶん慎重だった。だから攻略予定のダンジョンは可能な限り下調べしたうえで、必要になるであろう物資の倍近くを準備してたのよ。もちろん馬3頭分以上の働きができる地龍がいてこそだけど、それだってノーマンが飼いならしていたからだし……」


「分かった分かった。分かったから、もうアイツの話はしないでくれ」


「それで、どうするつもりですの? ベリンジャー」


「……仕方ない。俺が前衛を務めて時間を稼ぐから、魔獣の群れはリリアとバルボラが交代で焼き払ってくれ。モランゴは攻撃中のふたりを援護。モランガとポーターは後方支援に集中してくれ。分かったな」


 バルボラは意味ありげにニヤついているが、ほかの3人は神妙に頷いた。

 ん? 3人?


「おい、ポーターはどこ行った?」


「アンタらがごちゃごちゃやってる間に、馬に乗って逃げちまったよ」


 バルボラの高笑いが、ダンジョン内に響き渡る。

 逃げたポーターを追いかけようとするモランゴを、必死になだめるモランガ。あーあー、いい雰囲気作りやがって。実の妹孕ませたらシャレになんねぇぞ? 

 リリアは俺様にしがみつき、必死に何かを訴えてるみたいだが、よく聞こえねぇからよく分からん。この女はなんだかんだとうるせぇくせに、肝心なことは自分で決めようとしねぇ。これで女王になろうってんだから、笑っちまうよな。

 で、俺様は愚にもつかねぇことを考えながら、アホみたいに突っ立ってる。俺様がこんな無様をさらすなんて、あってはならねぇんだが……どうしてこうなった?

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