7.ベリンジャーの野望
7.ベリンジャーの野望
「ねえ、ベル。何でアイツを追放したの?」
事が終わった後、リリアは決まってどうでもいい話をしたがる。このピロートークというやつが、俺様的には絶望的に邪魔くさい。だが無視したり適当にあしらうと、途端に機嫌が悪くなる。だから毎回仕方なく付き合ってやっているのだが、今回はいつもと少し様子が違った。
「ノーマンのことか。単に邪魔になったからだが、それがどうかしたか?」
「確かにアイツは、戦闘では足手まといだったわ。だけど真面目に荷物運びやってたし、商談もうまかったじゃない。ベルが言うから私も乗ったけど、あんな小芝居打ってまで追い出すことはなかったんじゃないの?」
「リリアの言うことはもっともだ。だが荷物運びなんてその都度雇えば事足りるし、商談なんかうまくなくても俺たちは金に困ってない。だったら非戦闘員をパーティーから追い出して、腕の立つ奴を新たに仲間入りさせたほうがいい。違うか?」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたい?」
「アイツ女の子にモテてたみたいだから、嫉妬したのかなって思ってね」
「ふん。バカバカしい」
ぶっちゃけて言えば、俺様は嫉妬していた。ノーマンは昔からなぜかモテる。聞けば母性本能をくすぐるタイプなんだとか。は? まったく意味が分かんねぇ。男は強くてナンボだろうが。
だから俺様は泥棒の汚名を着せてノーマンの評判を下げ、無能さを知らしめるために無理難題をふっかけた。この世は弱肉強食だ。強者が弱者をいたぶって、何が悪い?
「ところで新しい仲間って女なんでしょ? どう? 可愛い?」
リリアが体を密着させる。俺様は紳士なのでもちろん顔には出さないが、汗ばんだ肌がべたついて気持ち悪い。
「可愛いというより、色気があるタイプだな。てか何で強さより先に容姿を聞くんだよ」
「だって、愛人候補なんでしょ?」
「バカバカしい。俺はいつだってリリア一筋だよ」
「ふん。どうだか」
リリアはそう言うと、俺様に背中を向けた。拗ねたふりで俺様の気を引こうとするあざとさが鬱陶しいが、付き合わないわけにはいかない。俺様はリリアの腰に手を回し、首筋に唇を這わせた。
俺様には壮大な野望がある。それはこの国の王となることだ。壮大ではあるが、そう難しいことでもない。この国は伝説の勇者リヴルが建国した。だから代々王女が勇者を婿養子にとり、国王に祭り上げるのが伝統となっている。つまり俺様が勇者となって魔王を打ち滅ぼし、リリアと結婚すればいいのだ。
その第一歩として、俺様はどうしても勇者認定を受けなくてはならない。だからパーティーを強化する。リリアは野望実現のための大事な駒だ。浮気なんかで失うわけにはいかない。
「ねえ、ベル……さっきのセリフが本当だって、証明してくれない?」
俺は返事の代わりに、リリアを後ろから愛し始めた。
「何だと、ゴラァ! もういっぺん言ってみろっ!!」
モランゴがテーブルを叩きながら立ち上がった。荒くれ者が多く出入りする場所だけあって、酒場のテーブルや椅子は頑丈だ。馬鹿力のモランゴがぶっ叩いてもビクともしない。そしてそれと同じくらいビクともしなかったのが、向かいに座る新入りのバルボラだった。
紫がかった髪をかきあげ、のんびりとキセルをふかす。浅黒い肌には汗ひとつかいていない。色気のある、いい女なのは認めてやろう。だがそのすれた態度が場末の娼婦っぽくて、俺様的にはナシな女だった。
「だーかーらー。アタイは確かに新入りだが、アンタよりはるかに強い。だから雑用はアンタがやれって言ったんだよ、モランゴ。戦士なんて体力だけが取り柄のデクノボウなんだから、戦闘以外でも役に立たないでどうすんのさ」
「バルボラ。あなたが兄さんの何を知ってるというのですか?」
「ちょっと見りゃ分かるさ。確かに体は鍛えているが、器用さに欠けるから攻撃が単調。ゴリ押しで上がれる限界は、せいぜいレベル12までだろうねぇ。そしてお前さんは、回復魔法は大したもんだが、攻撃魔法はからっきし。当然バックアップに固定するしかない。だからアンタもレベル12止まり。そしてアタイはレベル14の魔獣使い。つまりアンタら兄妹は、アタイより雑用向きってことさ。違うかい?」
図星を指されて、顔を紅潮させるモランゴとモランガ。さすがにこれはちょっとヤバいかな。
「てめぇっ! 言わせておけばっ!!」
「やめろ、3人とも」
見るに見かねた俺様は、仕方なく仲裁に入る。それでもモランゴは攻撃姿勢を取り続けているが、一応思いとどまったのでよしとしよう。
「なあ、バルボラ。確かに君はレベル14の冒険者だし、その実力には期待している。しかし俺たちは、これからパーティーを組む仲間なんだ。そんな喧嘩腰で突っかかってどうする? パーティーっていうのは実力も大事だが、もっと大切なのはチームワークなんだ。もし馴れ合う気がないというなら、今ここで言ってくれ。そのときは残念だが、パーティー加入の話はなかったことにする」
リーダーらしいカッコイイ台詞を、ビシッと決める俺様。腕組みをして、何度も深く頷くモランゴ。熱いまなざしで俺様を見つめる、モランガとリリア。やはりパーティーに大事なのは頼れるリーダーと、従順なメンバーだ。
「悪者はアタイってことかい?」
「まあ、そうなるな」
バルボラは軽くため息をつきながら、肩をすくめた。何とも厭味ったらしい態度だったが、俺様は度量が大きいので見逃してやった。
「分かったよ。要はこの兄妹と、仲良くすればいいんだね?」
「ああ。そうしてくれると助かる」
バルボラは俺様の肩をポンと叩いてから、モランゴ兄妹に声をかけた。
「おふたりさん。嫌な思いをさせちまって悪かったね」
「まあ、分かればいいんだよ」
「そうですわね」
「お詫びと言っちゃあなんだが、ふたりに見せたいものがあるんだよ。親睦を深めるのも込みで、今からアタイの部屋に遊びに来てくれないかい?」
「そういうことなら、まあ」
「分かりましたわ」
話はすんなりとまとまり、バルボラとモランゴ兄妹は一足先に宿屋へと帰っていった。その背中を笑顔で見送っていたリリアの顔が、一転して険しくなる。
「ねえベル、あの女本当に大丈夫なの?」
「実力は折り紙付きだ」
「でもあの女、魔獣使いなんでしょう? あの傲慢な態度といい、トラブる未来しか思い浮かばないんだけど」
「言いたいことは分かるよ。まあ、明日のダンジョン攻略で様子を見て、使い物にならないようだったら切ればいい。その辺は俺に任せてくれ」
「分かった。頼りにしてるわよ、リーダー様」
頬を上気させたリリアが、俺様にしなだれかかる。抱いた肩が汗ばんでいて、気持ちが悪かった。
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