34.喧嘩両成敗
34.喧嘩両成敗
第二王女死亡のニュースは、瞬く間にリヴルノヴァ王国内を駆け巡った。人目を避けて町はずれの酒場で夕食を取っていた僕たちだったが、やはりここでもその話題で持ちきりだった。
『勇者候補を外されたベリンジャーが逆恨みして、ノーマンという新たな勇者候補を襲ったんだとか』
『隠しダンジョンでこそこそ戦ったのは、正攻法で勝つ自信がなかったからだろうな』
『呪術や魔道具まで使ったらしいぜ』
『跳ね返された呪術で、リリア様はお亡くなりになったんだってよ』
『リリア王女も、あんなろくでなしに騙されなければこんなことには……』
『しかしあのベリンジャーが汚い手を使っても勝てないなんて、ノーマンはどれだけ強いんだ?』
『ノーマン様が勇者になれば、きっと魔王を倒してくださるわ』
概ね事実が伝わっているのには驚かされたが、バルボラの言う依頼人が一部始終を監視していたとすれば納得がいく。
「でもバルボラの依頼人は、御主人様に敵対する人物ですよね? それにしては噂が御主人様に好意的じゃないですか?」
「確かにマスターを陥れようと思えば、いくらでも悪い噂をでっち上げられたはずだ。ここにきて、マスターに鞍替えしたのか?」
「クソビッチでも一応は王女様だぜ? 主殿に罪をおっ被せるより、オトシマエをキッチリ取るのを優先したんだろうさ」
3人娘の意見に耳を傾けながら、僕はリヴルの末裔について考えていた。ベリンジャーたちはダンジョンから戻ったその足で、王城に出頭した。しでかしたことの重大さや国民感情を考慮すれば、重い罪に問われる可能性は高い。それでも逃げも隠れもせずに自首した彼らは立派だし、勇者候補としての実績もある。少しでも情状酌量してもらえればいいのだが……。
「ノーマン様! いらっしゃいますか⁈」
物思いに耽っていたところ急に大声で名前を呼ばれ、僕はびくりと体を震わせた。恐る恐る入口付近に目をやると、息を弾ませたピエッタが辺りを見回している。この状況で身バレしたくない僕は、すかさず顔を伏せる。だけど僕の周りには、この上なく目立つ女性が3人もいる。当然ピエッタの目にも止まり、早足でこちらに向かってきた。
「こんなところにいらしたんですか、ノーマン様。大変です、ノーマン様。これを見てください、ノーマン様」
嫌がらせのように僕の名を連呼するピエッタ。僕は思いっきり顔をしかめながら、差し出された書類に目を通した。
『以下の者たちを、第二王女リリア=ポーリャ=リヴルノヴァ
死亡事件に関与した罪により処罰する。
・ベリンジャー=ゴールドブラッド……死刑
・モランガ=アルファス…………………死刑
・バルボラ=ソウザ……………………労役30年
・モランゴ=アルファス………………労役20年
・セシル=ノーラ=リヴルノヴァ……奉仕活動100日
・ノーマン=アーヴィング……………奉仕活動100日
・ジャチカーヴァ………………………奉仕活動100日
・キャンデリーナ………………………奉仕活動100日
・ヴォレッタ……………………………奉仕活動100日
以上 』
「……この裁定は、誰がどのタイミングで下したんですか?」
「事件の顛末の説明は、ベリンジャーのたっての希望により直接王の御前で行われました。そして全てを聞き終えた王は、その場で裁定を下されました」
「発表されるのは、いつ頃ですか?」
「明朝です」
「そうですか……わざわざありがとうございました」
僕はそう言ってから席を立った。3人娘が慌てて後に続く。取り残されたピエッタは何か言いたげだったが、結局何も言わずに僕を見送った。
その日の深夜、僕はひとりで王城に忍び込んだ。王の気配を頼りに寝所を探り当て、その枕元に立つ。
「ノーマンか。こんな夜更けに何用だ?」
王は僕が声をかける前に目を覚まし、静かな口調でそう言った。完全に気配を消していた僕に気づくなんて、やはりただ者ではない。
「驚かないんですね。さすがに肝が据わってらっしゃる」
「そんなことはない。しかし何の騒ぎも起こさず、ここまで辿り着けるとはな。ちなみにどうやった?」
「全員殺してきました」
「なんだと?」
百戦錬磨の王が、僅かに眉根を寄せる。ちょっとやり方が過激だったかも知れないが、極秘会談実現のため敢えてそうさせてもらった。
「ご心配なく。後でちゃんと蘇生しますから」
僕は霊峰ヒエイでの一連の出来事とリヴルの末裔との対決について、正直に全てを話した。王は最後まで一切口を挟むことなく、時折頷きながら聞き入っていた。
「事の真相は概ね理解した。それで、私にどうして欲しいのだ?」
「誤解を恐れずに申し上げれば、リリア様の身に降りかかった不幸は自業自得と言えなくもありません。加えて一連の出来事とベリンジャーたちの実績を考えれば、あまりに刑罰が重過ぎます。彼らの処分を再考して頂けませんか?」
「それはできん」
立場上、王がそう答えざるを得ないのは理解できる。かと言って常識的な手段でこの王を翻意させるのは、事実上不可能だろう。仕方がない。最後の可能性に賭けるとしよう。
「ではもしリリア様が生きているとしたら、どうですか?」
「……私を謀るつもりではないだろうな?」
鋭い眼光で睨みつけられながら、僕は説明を始めた。
「あの時、リリア様とモランガが使っていた一対の魔杖は、一見すると暴走しているようでした。しかし何者かが遠隔操作していたとすれば、話は違ってきます」
「どう違うんだ?」
「漆黒の大蛇が暴走した魔杖の力を利用したのではなく、魔杖の力で漆黒の大蛇を模した可能性が出てきます」
「つまり呪いが裏返ったと見せかけて、何者かがリリアを拐かしたと?」
「本当の狙いはベリンジャーだったのでしょうが、結果としてそうなったのではないでしょうか」
王は腕を組んで暫く考え込んでから、おもむろに口を開いた。
「それが事実であれば、処分を再考する余地はあるだろう。だがそれをどうやって証明するというのだ?」
「方法は至ってシンプル。リリア様を見つけ出せばよいのです」
「確かにその通りだ。しかしいるとすれば敵は油断のならない強敵だろうし、そもそも存在からして不確かなのだから、捜索は困難を極めるだろう。其方がどんなに強くて有能だろうと、そう簡単にいかないのではないか?」
「そこで僕から提案があります」
「なんだ? 言ってみろ」
「処分再考の前段階として、喧嘩両成敗にしてはいただけないでしょうか」
僕はその提案について、本気であることを強調した上で説明した。王は呆れながらも、提案を受け入れてくれた。
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