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31.因縁の対決


31.因縁の対決



 謁見の間に現れた王は、前回のざっくばらんな態度とは打って変わり、威厳に満ちた佇まいのまま玉座に就いた。その表情もまた厳しかったが、僅かに苦悩と疲労が滲み出ているような気がした。


「ノーマンよ。正直に申せば、この結果には失望している。もちろん其方たちのせいではない。全ては正しい情報を提供できなかった、この私の責任だ」


「王よ。それは違います。責められるべきは、情報収集・分析の統括責任者である私です」


「シューゴよ。最終決定を下したのはこの私だ。部下に責任をなすりつけるなんて格好悪い真似ができるか」


 王の毅然とした言葉に、レナード教皇は反論しなかった。おそらくだけど、レナード教皇は王のイメージダウンを防ぐために、敢えて口を挟んだのだろう。だけど忠臣であることと、信用に足る人物であることは全く別の話だ。


「其方たちは、置かれた状況下において最大限の努力をしてくれた。従って勅命クエストをクリアとみなし、正規の成功報酬を授けることとする」


「トゥバロン王。お言葉ですが、私はほとんど何もしておりません。なのに成功とみなされるのは、多方面から反感を買うのではないですか?」


「異論については、其方が勇者になった後の働きで払拭すればよい。それが可能だと信じればこその裁定なのだからな」


「えーと、それはつまり……」


「うむ。まだ細かな手続きが必要だが、其方を勇者に認定する。もちろん受けてくれるな?」


 王の言葉に、4人娘が色めき立つ。だけど僕は、素直に喜ぶことができなかった。


「誠に申し訳ありません。身に余る光栄ではあるのですが、少し考えさせては頂けませんか?」


 僕の言葉は、その場にいた全ての人々を凍りつかせた。王の決定に異を唱えているのだから、当然の反応だろう。だけどその決定が噓の報告書を基にして下されている以上、即答を避けたいのが僕の素直な気持ちだった。


「……分かった。では一週間の猶予を与えよう。色よい返事を期待しておるぞ」


 王は理由を一切聞くことなく、即座に了承してくれた。僕は申し訳なく思いながら、深く頭を下げた。



 謁見からの帰り道。それまで沈黙を守っていた3人娘が、口々に不満を漏らし始めた。 


「何も気にせず、勇者認定を受ければよかったんですよ。王様も言っていた通り、元はと言えば間違った情報でクエストを依頼したのが悪いんですから」


「ララの言う通りだ。報告書の件で気が咎めているのかも知れないが、レナード教皇が信用できないのだから仕方ないだろう」


「その通りだぜ。レナードのジジイが何考えてるか知らねぇが、母ちゃんを殺されかけた恨みは一生忘れねぇ。この落とし前は、絶対につけさせてやっかんな」


「…………」


 気持ちは分からなくもないが、セシルを前にしても物言いに遠慮がないのは、果たしていいことなのかね?


「言いたいことは分かったよ。悪いようにはしないから、僕に任せてくれないか」


 僕にこう言われたら、さすがの3人娘も黙るしかないだろう。とは言えどうするのが最良なのか、皆目見当がつかない。さて、どうしたもんかね。

 そうこうしているうちに、別荘が近づいてきた。どう答えるにせよ、そろそろ引き払わなくちゃな……などと考えていると、急にララが立ち止まった。


「御主人様。別荘に人の気配があります」


 ララの言葉に、その場にいた全員が頷く。その不気味な気配から察するに、ケチなコソ泥ではないようだ。


「マスター、どうする?」


「向こうは気配も消さずに堂々と待ち構えてるんだから、こっちも堂々と受けて立とう」


 僕はそう言ってから、玄関の扉を開けた。


「よう、ノーマン。王とのおしゃべりは楽しかったか?」


 リビングに陣取っていたのは、リヴルの末裔の面々だった。

 ソファにふんぞり返り、テーブルに足を投げ出しているベリンジャー。両脇にモランガとバルボラを侍らせ、ニヤニヤと笑うモランゴ。恨みがましい目で、僕を睨みつけてくるリリア。

 少し会わないうちに、随分とやさぐれたものだ。これじゃあまるで、チンケな盗賊団みたいじゃないか。


「あまり楽しいものじゃなかったよ。だからと言うわけでもないけど、勇者認定を保留にしてもらった」


「ほう。じゃあギリギリ間に合ったってことだな」


 余裕綽々といった風情でグラスを傾けるベリンジャー。どうやら、この期に及んでまだ勇者になれると思ってるらしい。相変わらずの自信家っぷりだが、ほかのメンバーまで賛同している所を見ると、それなりの根拠があるのだろうか?


「ベリンジャー。仮に僕が勇者認定を断ったとしても、代わりに君をって話になるとは限らないよ?」


「王だって人間だ。判断を誤ることもあるだろう。だが俺たちがおまえらより上だと証明すれば、さすがの王も間違いに気づく。心配は無用だ」


 どうやら根拠などなかったらしい。元々ベリンジャーとは気が合わなかったが、話までかみ合わないとは思わなかった。自己中心的な思考が染み付いてる奴には、きっと何を言っても無駄なんだろう。正直気が進まないが、避けて通れないなら仕方ない。


「それで、どうやって証明するつもりなんだ?」


「そんなの決まってんだろう? 直接対決だよ」


「1対1で戦うってことかい?」


「いや、パーティー同士の団体戦だ。魔王討伐を念頭に置くなら、総合力が最も重要だからな。5対5だから、人数的にも丁度いいだろ?」


 つまりベリンジャーだけじゃなく、メンバー全員が強くなったってことか。そのほうがこっちとしても有り難いけど、その自信が何とも不気味だ。


「構わないけど、そうなるとかなり大規模な戦闘になる。場所は慎重に選ばないと、自然災害級の被害が出るぞ?」


「それならいい場所を知ってる。頑丈で、人目につかないいい場所をな」


「ふうん。全ては手配済みってわけか」


「何だ、怖気づいたのか?」


 ベリンジャーは下卑た笑みを浮かべながら、チンピラのように安い挑発をしてきた。今までの経緯を考えるまでもなく、どうにも胡散臭い。だけどすぐに代替となる様な場所が用意できるはずもないし、かといって断るのは逃げたみたいで癪に障る。

 僕は決めあぐねて、4人娘に視線を送った。ララは優しく微笑みながら、キャンは引き締まった顔で、ヴォレッタは闘志むき出しで拳を合わせながら、セシルはやや険しい顔で僕に頷き返した。


「いいだろう。案内してくれ」


 こうして因縁の対決の火蓋は切って落とされたのだった。

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