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3.ララの正体


3.ララの正体



「何か様子が変ですね。どこか具合でも悪いのですか、御主人様?」


 ララはそう言いながら、僕の顔を覗き込む。ちなみに全裸のままでは目のやり場に困ると僕が言ったので、ララは体の一部を衣装に変化させてくれた。よくよく考えると全裸なのは変わりないんだけど、今は深く考えないことにしよう。


「いや、そんなことはない。大丈夫だ」


「そうですか? それにしては、顔が妙に赤い気がしますけど」


 それはそうだろう。美少女に全裸でのしかかられたり、急に顔を近づけられて頬を赤らめない17歳男子などいるはずがないじゃないか。


 それにしても、ララは本当に可愛らしい。


 緩くウェーブがかかったフワフワの金髪。たれ気味の碧い瞳には愛嬌があり、その実体がドラゴンであることを忘れてしまいそうになる。そして誰もが視線を送ってしまうであろう、立派な胸。リリアやモランガも美人でスタイルも良かったが、ララに比べたら脇役レベルでしかない。それほどにララの存在は際立っていた。

 だが今はそのことに注目している場合ではない。僕は呼吸を整えてから、ララに向き直った。


「改めて聞くけど、君は一体何者なんだ?」


「それでは改めて自己紹介しますね。私の本当の名前はジャチカーヴァ。皇龍王ドリスの娘です」


「ジャチカーヴァ……」


「あ、でも本名はあまり好きじゃないので、今まで通りララと呼んでくださいね」


「だがそういうわけには……」


「いいんです! 呼ばれやすいし、可愛いし、何より大好きな御主人様がつけてくれた大事な名前なんです! だからこれからも、ララって呼んで欲しいんです!」


 頬を紅潮させながら訴えかけるララに圧倒され、僕は何度も頷いた。ララは鼻を鳴らし、ドヤ顔で胸を反らせる。こういう仕草を見ると、やはりこの娘はララなんだと思えた。


「それで、ララもやっぱり神獣なのか?」


「そうです。私の実体は皇龍族の中でも最上位種とされている、オーロドラゴンです」


「僕は無学だから詳しいことが分からないんだけど、神獣にもいろんな種族がいるのか?」


「神獣というのは理性を持ち、神通力を使える生物の総称なんです。神獣はその身体的な特徴によって、皇龍族、聖獣族、霊鳥族、仙花族、海麟族などに分かれます。私のようなドラゴン種や爬虫類に似た神獣は皇龍族、先ほど私たちを襲ってきたシルバーファングのような、哺乳類に似た神獣は聖獣族に属します」


 名前から察するに、霊鳥族は鳥類、仙花族は植物、海麟族は海洋生物に近い種族なのだろう。それにしても、こんなにたくさんの種族がいるというのに、出会うことがほぼないのは何故なんだろう。単純に個体数が少ないからなのか、それともほかに理由があるのか……。


「ちなみにこの神獣の森は、いわゆる聖獣族の住処ってことでいいのかな?」


「そうです。ちなみに皇龍族の住処は、王国領の南に位置する神獣の渓谷と呼ばれる場所でした」


「でした? 過去形ってことは、もうそこには住んでいないってこと?」


「それは……」


 言いよどむララ。確かに皇龍族のお姫様であるララが、住処から遥か遠く離れた町の道端で、しかも地龍の姿で死にかけていたのだから、並大抵の事情ではないだろう。


「無理しなくていいよ。誰にだって、人に言えない事情のひとつやふたつあるものさ」


「でも、御主人様に隠し事なんて……」


「大事に思うからこそ、言えないことだってある。もし僕がそんな風に思われているのなら、むしろ嬉しいくらいだ」


 ララは、はにかむ様に俯きながら、首を縦に振った。どうやら納得してくれたようだ。


「でも、いつか必ずお話します。その時まで、待っていただけますか?」


「うん、分かった。気長に待つとするよ」


「ありがとうございます、御主人様」


「さっきから言おうと思ってたんだけど、その御主人様って呼び方やめてくれないかな」


「どうしてですか? だって御主人様は、御主人様ですよ?」


 ララは肩から力を抜き、ふわりと微笑む。ちくしょう、ほんとに可愛いな、コイツ。


「でもララは神獣で、しかも種族長の娘、つまりはお姫様だ。ただの人間でしかない僕が御主人様だなんて、どう考えてもおかしいだろ?」


「そんなことはありません。だって御主人様は、神獣なんか及びもつかないほど特別な存在なんですから」


「は? 魔力もない下民の僕が特別な存在?」


 神獣はその存在がシリアス過ぎて、ジョークの才能に恵まれていないのだろうか?


「では逆に聞きますが、先程シルバーファングの群れを撃退できたのは、なぜだと思いますか?」


「それは、ララがドラゴンに変化して……」


「じゃあ私がドラゴンになれたのはなぜですか?」


「それは……」


 瀕死のララを助けたいと、心から願った。そのとき不意に湧き上がってきた、不思議な力。あれは一体何だったのだろうか……。


「あれこそが魔力を持たない御主人様だけが持つ特殊能力、魔素浄化なんです。つまり御主人様は私たち神獣が長年にわたり待ち焦がれていた、恋獣使いに違いないんです」


「魔素……浄化? レンジュウ使い⁇」



「おい、貴様ら! 人様の庭に勝手に入り込んでおいて、のんきに世間話をするとは大した度胸だな!!」



 大事な説明の最中という絶妙のタイミングで姿を現したのは、長い銀髪をたなびかせた美少女だった。

 170cmの僕と同じくらいの身長に、スラリと伸びた長い手足。切れ長のグレーの瞳は涼しげで凛々しく、意志の強さを感じさせる。

 先程のシルバーファングを従えているところを見ると、彼女もまた神獣なのだろう。しかしどこか辛そうに見えるのは、僕の気のせいだろうか。


「すみません、キャン。久し振りの訪問が、こんな形になってしまって。ですがこちらにも事情がありまして……」


「言い訳は見苦しいぞ、ジャチカーヴァ。しかもよりにもよって、人間なんぞを連れ込みおって! いくら旧知の仲とはいえ、容赦はせぬぞ!! それから……」


 キャンと呼ばれた少女は四つん這いになり、体を深く沈めた。今にも飛びかからんとするキャンの動きに呼応して、ララも身構える。


「負け犬の遠吠えみたいなあだ名で、私を呼ぶんじゃない!!」


 キャンはそう叫ぶと……そのまま地面に突っ伏して、動かなくなってしまった。 

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