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29.一方その頃『リヴルの末裔』は(1)


29.一方その頃『リヴルの末裔』は(1)



「クソっ! どうしてだっ! どうしてレベルが上がんねぇんだよっ!!」


 モランゴは地面を拳でぶん殴りながら、恨めしそうにそう叫んだ。

 こいつはギルドでノーマンたちともめて以来、レベルを上げようと必死にもがいていた。ダンジョンに大量のポーションを持ち込み、ひたすら魔獣を倒しまくる。自分よりレベルの高い戦士のところに出向き、相手が音を上げるまで稽古をつけてもらう。モランガが泣きじゃくって止めるまで、不眠不休で鍛錬を続ける、といった具合に。

 しかしそこまで自分を追い込んでも、モランゴのレベルはひとつも上がらなかった。さすがに見かねた俺様が稽古相手を買って出たんだが、結局気休めにもならなかったようだ。


「モランゴ。強くなるには休息も必要だ。今日のところはこれくらいにして、モランガを安心させてやったらどうだ?」


「ふん。随分と余裕だな、ベリンジャー」


「何だって?」


「このままいけば、ノーマンはレベル20に達する。それも数年後とかじゃなく、恐らくは数ヶ月後にだ。もしそうなったら、お前は勇者になれんのか? 必死にもがいてでも強くならなきゃならんのは、俺よりむしろお前のほうじゃないのか?」


 そんなことは言われるまでもない。しかし俺様は無駄なことはしない主義だ。十分な実績を積み、マックスまでレベルを上げた今、もがいたところで何になる? 

 確かにノーマンは近いうちにレベル20になり、数字の上では俺様と肩を並べるだろう。だからといってアイツが勇者候補になるとは限らないし、そもそも俺様の立場が変わったわけでもない。比べる対象ができて俺様の偉大さが再評価されるのであれば、むしろ歓迎すべきことじゃないか?


「そんなことは、お前に言われるまでもねぇんだよ。知った口利いてんじゃねぇっ!!」


 俺様自身、冷静を保っているつもりだった。しかし俺様の口を衝いて出たのは、苛立ちを仲間にぶつけるような口汚い言葉だった。


「……すまん。じゃあ俺は帰るわ。今日は付き合ってくれてありがとな」


 しょぼくれたモランゴの背中を見送ってから、俺様は木の根元に腰をおろした。

 最近じゃ俺たちリヴルの末裔に対する国民の反応が、羨望の眼差しから愛想笑いに変わりつつある。勇者が必ずしも人気者である必要はない。だがいずれこの国の王になる身としては、決して喜ばしい状況ではないのは確かだ。

 信頼を回復させるには、ノーマンとの直接対決に圧勝するのが一番手っ取り早い。だが急成長したアイツの強さの秘密がよく分からないうえに、パーティーメンバーにはあのセシルがいる。こっちからつっかけて、万が一にも負ければ致命傷だ……仕方ない。奥の手を使うか。


「俺たちの無様を盗み見るのは楽しいか。バルボラ」


「何だい。気づいてたのかい」


 そう言いながら木の陰から姿を現したバルボラは、いつものように妖艶な笑みを浮かべた。相変わらず色気たっぷりで、相変わらず気味の悪い女だ。


「お前の可愛いモランゴは行っちまったぞ。後を追わなくていいのか?」


「あの子を慰めるのはモランガの役目さ。それよりもアタイは、お前さんのほうが気になってねぇ」


「気になるのは俺というより、俺たちの動向だろ?」


「はて、何のことかねぇ」


 いかにも怪しい言動を平然と行い、そして平然ととぼける。全くもって、食えない女だ。


「それで、俺たちにどうして欲しいんだ?」


「別にどうもして欲しくはないさ。仲間が困っているんなら、助言くらいはさせてもらうがね」


 あくまでも、とぼけるつもりらしい。まあいいだろう。利害が一致するのなら、乗ってやろうじゃないか。


「見ての通り、俺たちは煮詰まってる。助言があるなら、ありがたく頂戴するよ」


「そうさねぇ。現状を打破する手っ取り早い方法は、強力な武器や防具を手に入れることだろうね」


 伝説レベルの武器や防具は、ほぼ全てにおいて所有者がはっきりしている。中には現役を退いた冒険者もいて、伝手を頼って何度となく譲受交渉をした。しかしどの交渉も、にべもなく断られるか、無理難題もしくは法外な値段を吹っかけられるかのどちらかだった。使わないのに譲ろうとしない理由は、過去の栄光に縋ったり、優越感に浸りたかったりと様々だが、いずれにせよ入手困難であることに変わりない。


「俺たちが望むような装備は、そう簡単に手に入らない。役に立たない助言はやめてくれ。苛立ちが増すだけだ」


「そうでもないさ。魔道具だったら、伝説レベルの武器や防具と遜色ない逸品だって比較的簡単に手に入るじゃないか」


「魔道具だと? 勇者になるべきこの俺に、魔道具を使えと言うのか!」


 確かに魔道具を使えば、劇的に強くなれるだろう。僅かな魔力で、レベルを超越した力を発揮できるからな。使い続けると魔人に墜ちる危険性があるし、闇属性の限定だから弱点もハッキリしているのが難点だが、そこは腕の見せ所でもあるから大した問題ではない。

 一番の問題は、そもそも魔道具は魔族が作った装備なので、大前提として魔王にまるで効果がないということだ。つまり魔道具の力を借りて勇者になったところで、最大の目的である魔王討伐が果たせないのだ。 


「そんな意地を張ってる場合じゃないと思うけどねぇ」


「どういう意味だ?」


「今頃NAPの連中は、勅命クエストの真っ最中だ。これを無事クリアすれば、奴らは大量のクリアポイントだけでなく、申し分ない実績も手に入れる。もちろん国王の心証も急上昇するだろうね。これが何を意味するか、アタイが言わなくても分かるだろ?」


 ついこの前まで使いっ走りだったあのノーマンが、俺様を差し置いて勇者認定を受ける。そんなふざけた話が、あっていいはずがない。俺様の野望とプライドにかけて、それだけは絶対に阻止しなくてはならない。まずはノーマンを叩きのめして、後のことはそれから考える。確かにバルボラのいう通りだ。


「それで、有力な魔道具の在処は分かってるのか?」


「アタイの知ってる隠しダンジョンの最下層に、悪魔の名を冠した剣と斧を持った魔族が住みついててね。ソイツらを倒して武器を奪えば、NAPの連中にだって勝てるはずさ」


「いいだろう。いずれにせよ、ダンジョン攻略自体は無駄にならないしな。メンバー全員を集めて、明日にでも潜るとしよう」


「分かった。みんなには、アタイから伝えておくよ」


「ああ。よろしく頼むよ」


 バルボラはニヤリと笑ってから、一瞬で姿を消した。あの女の思惑通りに踊らされているのは癪に障るが、今は手段を選んでいる余裕はない。大丈夫だ。俺様なら絶対に上手くやれる。

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