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28.ヴォレッタの誘惑


28.ヴォレッタの誘惑



「さて。用事も済んだようだし、そろそろ帰ろうか」


 僕はそう言いながら立ち上がる。だけどヴォレッタの反応が鈍い。まだほかに用事があるんだろうか。


「その前に、ひとつハッキリさたいことがあるんだけど……いいか?」


「もちろんいいけど、何をだい?」


「主殿は、あたしのことをどう思ってんだ?」


 ヴォレッタの顔は真剣そのもので、冗談やごまかしを断固として拒否する意思を感じた。だから僕は、正直な気持ちを伝えることにした。


「僕にとってヴォレッタは、大事な仲間だよ」


「ジャチ姉やキャン姉よりも大事か?」


「仲間を大事だと思う気持ちに順位はないよ」


「じゃあ……女としてはどうだ?」


 契約が成立したのだから、当然ヴォレッタは僕に恋している。だからふたりきりの今、僕の気持ちを確かめたくなるのもまた当然のことだろう。


「ヴォレッタは性格や言葉遣いはアレだけど、とても可愛いらしいよ。でもそれはあくまで妹的な意味で、現時点で僕は君を恋愛対象として見ていない。まあ、将来的な可能性は十分にあるけどね」


「やっぱりそうか……」


 がっくりと項垂れるヴォレッタ。確かに超強力なライバルたちに囲まれた状況で将来の話をされても、何の慰めにもならないかも知れない。だけどこれが偽らざる僕の気持ちだ。それに現状を合わせて考えれば、それほど悲観する必要もない。


「まあ、当面はララやキャンともそういう関係になる予定はないし、そんなにガッカリしなくてもいいんじゃないかな」


「違う違う。あたしがやっぱりって言ったのは、主殿が勘違いをしてるって意味だよ」


「勘違いって、何を?」


「あたしはこう見えて、90年以上生きてんだ。つまり主殿よりあたしの方が、遙かに年上なんだよ」


 僕は純粋に驚き、目を丸くしながら瞬きをした。


「……マジで?」


「マジマジ。まあジャチ姉とキャン姉があたしを子供扱いするから、勘違いするのも無理ねぇけどな。神獣は1000年くらい普通に生きるから、確かに90歳はまだまだガキかも知れねぇ。でもジャチ姉たちだって、まだ180歳くらいなんだぜ? 自分らだってまだガキだろって話だよな」


 桁が違うから良く分からんが、倍も違えばしょうがないんじゃなかろうか。それより気になるのは……。


「だったらどうして見た目が子供のままなんだ? 神獣は人間より成長が遅いのかい?」


「これはわざとそうしてんだよ。この方が動きやすいし、何より母ちゃんと間違われねぇからな」


 ヴォレッタはそう言うと、住み処として利用している大木の幹に手を当て、生命力を借り始めた。するとヴォレッタの体が成長し、大人の女性へと変貌を遂げた。その姿はヴォレッタの言う通りアンリヤックに瓜ふたつで、何というか……物凄いボリューム感だった。

ていうか、何で裸になってるのかな?


「これが本来のあたしの姿だ。どうだ? これでもまだガキ扱いできんのか?」


 大人の色気たっぷりのヴォレッタが、僕ににじり寄ってくる。後ずさりしようと右足を引く僕。しかし踵が何かに引っかかり、僕は盛大にバランスを崩した。


「危ねぇっ!」


 ヴォレッタが咄嗟に僕の上着を掴む。しかし引っ張り上げる前にバランスを崩し、諸共床に倒れ込んだ。


「いててて……」


「主殿、大丈夫か?」


「ああ。何とかね」


「そうか。じゃあ、ついでにこのままおっ始めるとすっか」


 何を、と言う隙さえ与えず、ヴォレッタは僕の腹の上に飛び乗った。僕は床に倒れた状態のまま、奔放に揺れるたわわなおっぱいを見上げている……って、見惚れてる場合じゃない。この態勢を立て直さなくては……と思った時にはもう、僕の手足は蔦に絡めとられていた。さすが霊鳥王の住処に選ばれるだけあって、手回しがいい……なんて感心してる場合じゃない。このままではやせ我慢してまで守ってきた僕の貞操が……。


「こいつは邪魔だな。剝ぎ取っちまおう」


「ちょ……ちょっと待った!」


「待たねぇよ」


 全く抵抗できない僕は、されるがままに全てを脱がされてしまった。満足したヴォレッタは、僕に顔を近づける。ヤバい……これはいろんな意味でヤバイ。


「そんじゃあいくぞ。準備はいいか?」


「準備はギンギンにできちゃってるんだけど、ダメなんだって!!」


 ヴォレッタは僕の言葉に耳を貸さず、嬉しそうにおっぱいを押しつけてきた。そしていつものごとく僕の体に手足を巻きつけると……そのまま動かなくなった。


「えーっと、ヴォレッタさん……君は何をしてるのかな?」


「何って……性行為だよ。恥ずかしいから言わせんじゃねぇ」


「性行為って……やり方は誰に教わったの?」


「ジャチ姉だよ。性行為とは、好き合った男女が裸で抱き合うことだって……違うのか?」


 間違ってはいない。その知識がある人とない人で、解釈が変わるだけだ。僕は90年生きて尚無垢な心であり続けるこの恋獣が、たまらなく愛おしくなった。


「うん……間違ってないよ」


 僕はそう言ってから、ヴォレッタの頭を優しく撫でた。


「だから、ガキ扱いすんなって……」


「いいんだよ。ガキのままで」


「いいわけねぇだろが。あたしは主殿の一番になりたいんだ。いくらあたしが絶世の美女でも、ライバルももれなく美人だから差がつかねぇ。それでなくても出遅れてんだ。ガキ扱いされてるヒマなんざねぇんだよ」


「だからこそ、競合しない妹キャラがいいんじゃないか。僕の膝の上に乗ったり、一緒に風呂やベッドに入ったとしても、子供だったら許される」


「おお! なるほど!」


 一度世間ずれしてしまえば、もう二度と無垢には戻れない。いつか必ず知るのなら、別に今である必要はないはずだ。


「分かってくれたなら、暗くなる前に帰ろう」


「そうだな!」


 ヴォレッタは明るくそう言うと、フォイニクスに姿を変えた。戒めを解かれた僕は素早く服を着て、預かった星霊石を首にかけてからその背中に乗った。帰り道。やはりたった2度でその速度に慣れるのは難しかった。だけどいずれ慣れるだろうという手応えと、一抹の寂しさは感じることができた。


 この後僕たちは何のトラブルもなく、無事別荘に帰り着いた。だけどヴォレッタが自慢げに『主殿と性行為してきたぜ!』などと言ったもんだから、別荘内は一瞬で修羅場と化した。この顛末は話すと果てしなく長くなる上に、全編僕の愚痴になってしまうので割愛させてもらいます。

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