表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/35

26.ピエッタの報告


26.ピエッタの報告



 報告書を提出した翌日、私はレナード教皇に呼び出された。普段はほとんど緊張しない私だが、このときばかりはノックする手が震えた。


「どうぞ、お入りください」


「失礼します」


 レナード教皇はわざわざ立ち上がり、柔和な表情で握手を求めてきた。私は一礼してから、差し出された右手を軽く握った。その感触は印象そのままに柔らかく、その温もりは安心感を与える。しかしパルピーノ公爵の例もある。予断は禁物だ。


「ようこそ、ピエッタ二等書記官。どうぞこちらに」


 促されるまま、ソファに浅く腰を下ろす。教皇は報告書を手にしてから、私の正面に座った。


「お忙しいところ、わざわざお呼び出しして申し訳ありません」


「いえ。それでどういったご用件でしょうか?」


「この報告書についてなんですが……」


「何か不備がございましたか?」


「いやいや。報告書はとてもよくできていました。ですが確認すべき重要な部分が、いくつかありましてね。より詳細な説明と、参考までにピエッタ書記官個人の意見もお聞かせ願いたいのです」


「私の意見も、ですか?」


「はい」


「……かしこまりました」


 つまりは真偽を確かめるための、聞き取り調査だ。私の意見を聞きたがるのは、その意図を探るためだろう。私は気を引き締め、教皇の質問を待った。


「まずは霊鳥王アンリヤックについてお聞きします。報告書には半魔獣化した霊鳥王の魔素を、ノーマン=アーヴィングが浄化したとあります。間違いありませんか?」


「はい。間違いありません」


「半魔獣化という状態を、どの様に確認しましたか?」


「姿は魔獣そのものでしたが、娘のヴォレッタ姫とは意思の疎通が図れていましたのでそう判断しました。それにもし完全に魔獣化していたのであれば、ノーマン=アーヴィングの魔素浄化を受けて生きていられるはずがありません」


 想定していた質問に、用意していた模範解答で応じる。教皇はにこやかに頷いてはいるが、本当に納得しているかは分からない。


「なるほど。つまり魔素を浄化した時点では霊鳥王は瀕死状態で、ヴォレッタ姫が生命力を吹き込んで回復させた。そういう流れだったのですね?」


「はい」


「ヴォレッタ姫もしくはノーマンが、死者蘇生を行った可能性はありませんか?」


 やはり教皇は、ノーマンが死者蘇生に成功した可能性を疑っている。確証があっての質問だとすれば、実に厄介だ。しかしヴォレッタは、霊峰ヒエイに不審者が入り込む余地はなかったと断言した。パルピーノ公爵邸でカルバートを蘇生した件を突かれるとやや厳しいが、医師による死亡確認前だったのが不幸中の幸いだ。


「念のため、ノーマンと契約している恋獣の方々にも話を伺いました。そして死者蘇生に成功した神獣は、過去から現在に至るまで存在しないという証言を得ました。従って、いくらノーマンが恋獣使いだとはいえ、神獣にも成し得ない死者蘇生は不可能だと考えます。同じ理由でカルバートも死亡してはおらず、仮死状態だったと推測されます」


「ノーマンは、世界樹の葉を使ってはいませんでしたか?」


「確認はしていませんが、世界樹の葉の採取クエストをクリアしているので、所持していた可能性はあります。ですが世界樹の葉に死者蘇生の効果はありませんので、使ったとすれば霊鳥王の蘇生ではなく、カルバートの回復のためでしょう」


 どうしても憶測めいた物言いになってしまうので、説得力に欠けてしまう。しかし私は教皇の求めに応じて意見を述べているだけなので、むしろこれでいいはずだ。


「分かりました。では次の質問に移ります。ノーマンは、ヴォレッタ姫と契約を交わさなかったとあります。間違いないですか?」


「神獣が恋獣使いと契約して恋獣となるには、恋獣使いに恋をすることが絶対条件になります。しかしヴォレッタ姫はまだ幼く、恋愛感情をまだ理解していないご様子でした。従って契約したくてもできない、というのが実情のようです」


「ノーマンに契約の意思はあるのでしょうか?」


「帯同の誘いをかけたのはノーマンですので、そう考えてよろしいかと存じます」


 この辺りの回答は丸ごと噓なので、鋭く斬り込まれて上手く返答できるか不安だ。しかし不安を気取られれば、攻撃の隙を与えてしまう。私は努めて平静を装いながら、この質問が早く終わることを願った。


「なるほど。それでは最後の質問です。ここまでの質問に対する答えと報告内容から、今回のクエストは失敗とまでは言えないものの、芳しい成果を上げられなかったと判断せざるを得ません。彼らは納得すると思いますか?」


 早く終わったはいいが、今度は想定外の質問が飛んできた。私は脳味噌をフル回転させて、正解を探った。


「質問の意図が分かりません。そもそも彼らを納得させる必要などあるのでしょうか?」


「彼らが納得しなかった場合、その怒りの矛先が報告書を作成した貴方へと向けられる可能性があります。私はそれが心配なのです」


「私は事実を記述し、論理的な解釈をもって質問に答えただけです。この職に就いた以上、逆恨みは覚悟の上です」


「どうやら余計なお世話だったようですね。質問は以上です。お疲れ様でした」


「それでは失礼いたします」


 最後の質問の意図がいまいち分からなかったが、やれるだけのことはやった。後は教皇の出方次第だ。




「ゲン。君の感想は?」


「話の筋は通ってる。肝心な部分は噓だろうけどな」


 例によって音もなく現れたゲンが、嬉しそうな笑顔でそう答える。どうやら興味を持ったらしい。


「噓だとすれば、大量のクリアポイントを捨ててでも隠したい事実があるこいうことになる。それが死者蘇生であるならば逆の意味でも筋は通っているが、にわかには信じ難い話だね」


「まあな。だからこそ、すぐにでも確かめる必要がある」


「だけど私は、面前で噓を吐かれるほど信用を落としたようだからね。仕掛けるにしても、作戦は慎重に練らなくては」


「何悠長なこと言ってんだよ。オヤジが警戒されてんなら、外部の人間を使えばいいじゃねぇか。ラッキーなことに、ちょっと尻を叩けば鼻息を荒くして突っ込んでくれそうな奴がいるんだからな」


 悪だくみをしているゲンは、本当に楽しそうだ。義理の親子でも、日常を共にすると似てしまうのだろうか。


「いいアイデアだ。ならばこの件は、ゲンに任せるとしよう」


「よっしゃー! それじゃあ早速」


 言うが早いか、ゲンは姿を消した。結局私は名ばかりの親で、君たちの手を汚す存在でしかないのかも知れない。それでも君たちの幸せを願っていると言ったら、君たちはどんな顔をするのだろうか?

もしよろしければ、ブックマークと広告下の☆☆☆☆☆で応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ