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25.藪をつつく


25.藪をつつく



 真犯人を捕らえたことで、事件の全容解明は時間の問題と思われていた。だけど現実はそう甘くはなかった。


「彼らは依頼主の素性や目的を一切詮索しないという条件で、相場の倍近い報酬を受け取っていたそうです。なので聞かれたことは何でもペラペラとよく喋るのですが、大した情報は得られませんでした」


 僕たちはピエッタからの一報を聞き、分かりやすくガッカリした。

 ちなみに今僕たちは、王族が所有する町はずれの別荘に滞在している。機密保持や安全確保といった、もっともらしい理由は一応聞かされた。だけど毎晩セシルとピエッタが訪ねて来ては寝泊まりしていくことを考えると、単に彼女が仲間外れを嫌がっているだけなんじゃないかと僕は睨んでいる。


「神獣の森を襲った犯人もアイツらなのか?」


「彼らは地元に根付いた生活をしていましたから、長く留守にはできなかったはずです。それはないでしょうね」


 ピエッタの答えに、キャンが再び落胆する。


「そうか。私の復讐相手は、まだ野放しなんだな」


「ですがこれは、か細いながらも確かな糸口です。慎重に手繰り寄せれば、きっとキャンデリーナの復讐相手にも辿り着けるはずです。微力ではありますが、私もできる限り協力させて頂きます」


「あ……ありがとう」


 不仲だったはずのピエッタの申し出に、キャンは少なからず驚いたようだった。それはヴォレッタも同じだったようで、ピエッタから視線を逸らさずにキャンに囁きかける。


「キャン姉。アイツどうしちゃったんだ? 色ボケし過ぎて、脳の大事な部分が溶けちまったんじゃねぇか?」


「手伝ってくれるのは有り難いが、裏がありそうで素直に喜べないのは確かだな。見返りとして、セシルの性奴隷にしてもらう約束でも取り付けたのか?」


「キャンもヴォレッタも、そんなこと言うものじゃありませんよ。きっとピエッタは御主人様の凄さに触れて、改心したんです。確かに毎晩激しい喘ぎ声が聞こえてくるのは本当に羨ま……迷惑ですが、それはそれとして素直に喜べばいいんですよ」


 3人娘がヒソヒソやってるのを、ピエッタは真顔で受け流している。


「ところでノーマン様」


 そんなビミョーな空気を全く気にすることなく、ピエッタが僕に話しかける。まあ、セシルの気を紛らわすためにその身を捧げる健気さは買うが、もうちょっと周りの反応も気にしよう?


「な、何でしょうか?」


「ひとつ相談したいことがあるのですが、よろしいですか?」


「もちろんです。力になれるかは分かりませんが、できるだけのことはしますよ」


 僕は嫌味にならないよう気を付けながら、にこやかに返事をした。

 大嫌いだと宣言した僕に相談を持ちかけるのだから、よっぽどの事情があるのだろう。だけど僕は、意外と彼女が嫌いじゃない。なので社交辞令ではなく、喜んで相談に乗ることにしたのだ。 

 するとピエッタは考えを纏めているかのように少し間を置いてから、やや緊張した面持ちで語り始めた。


「この数日間、私はマデイラ一味に関する雑務に追われて、報告書を纏める暇がありませんでした。本来であれば一刻も早くと思うべきところなのですが、私は公然と先延ばしにできることを喜んでいました」


「らしくないですね。何か問題でもあるんですか?」


「はい。今回のクエストは、非現実的な出来事の連続でした。この事実を国民が知れば、良くも悪くもノーマン様の周辺が騒がしくなるでしょう。ある人は、ノーマン様を神として崇め奉る。またある人は、稀代の詐欺師として石を投げる。といった具合に」


「つまり人の能力や理解を超えた現象は、人を惑わせたり狂わせたりするということですか。まあ、あり得る話ですね」


「ですから私は迷ってしまうのです。本当に全てを報告してもよいのかを」


 僕は思わず首を傾げた。今までの話の流れは理解できるし、ピエッタが僕を心配してくれているのも有り難い。だけど全てを報告するのが職務である以上、そこに疑問を差し挟む余地はない。ピエッタは優秀な文官だから、当然そんなことは百も承知のはずだ。だとすれば、一体何を迷っているのか……。


「そうか。問題なのは報告内容じゃなくて、報告する相手なんですね?」


 ピエッタは黙って頷いた。


「意味が分かんねぇな。どういうことだ?」


 ヴォレッタの疑問に、僕が答える。


「つまりピエッタに今回の任務を与えた人物こそ、パルピーノ公爵にあらぬ疑いをかけた張本人なのさ」


「セシルが信頼を寄せている奴と、ピエッタに命令を下した奴が同一人物ってことか?」


「そういうことになるね」


 ララとキャンが同時に目を見開く。先に口を開いたのは、キャンだった。


「それってまさか、レナード教皇か?」


 ピエッタは黙って頷いた。

 レナード教皇が絡んでくるとなると、それでなくても混乱しているセシルに相談できるはずがない。だからピエッタは、レナード教皇とは何のしがらみもない僕を相談相手に選んだのだろう。


「それじゃあ、黒幕はレナードなのか!」


「現時点で断言はできないよ。実際レナード教皇が騙されていた可能性も、ゼロじゃないからね」


 つまりピエッタは、グレーな相手に手の内をさらすような報告をしなくてはならないわけだ。そりゃあ悩むよね……なんて他人事みたいに言ってる場合じゃない。もしレナード教皇がクロだった場合、既に2つも計画を潰した僕を放っておくはずがない。そうなれば僕は勇者ではなく、お尋ね者の認定を受けることになるだろう。


「じゃあどうするんだ? 真犯人は、今後も確実に神獣を襲い続ける。相手が誰であろうと、白黒ハッキリさせないままにはしておけないぞ?」


「キャンの言う通りだ。だけど仮にレナード教皇がクロだった場合でも、決定的な証拠でも突きつけられない限り白を切り通すだろう。だったら無礼を承知の上で、こっちもそれなりの対応をするしかない」


「分かりました。こちらから持ちかけた相談でもありますから、全面的に協力させていただきます。それで、具体的には何をするのでしょうか?」


 僕のアイデアを基にして、ピエッタが計画を練り上げる。藪をつついて蛇を出す、なんて結果は本来願い下げだ。だけど今回に限っては、それが最良かも知れないと僕は思った。 

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