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24.真犯人


24.真犯人



「改めて自己紹介させていただきます。私は霊鳥王アンリヤック。この度は我が命を救っていただき、誠にありがとうございました」


 僕たちは霊鳥族が集会所として使っている広間に移動し、改めて礼の言葉を賜った。正装に身を固めたアンリヤックは威厳に満ち、そして神々しいまでに美しかった。ヴォレッタはその母親にそっくりなので、成長すれば見違えるほどの美人になりそうだ。まあ容姿はともかく、長となる立場を考えれば、あのやんちゃな性格はどうにかしないとね。


「それで、褒美なのですが……本当にこんな出来の悪い娘をお貸しするだけでよいのでしょうか?」


「出来の悪いって何だよ! まったく。命がけで助けてやったのに、何て言い草だ」


 口を尖らせて、尚もブツブツと文句を言い続けるヴォレッタ。まずはその言葉遣いから直さないと、多分聞き入れてはもらえないんじゃないかな。


「だけなんて、とんでもありません。貴重な戦力である可愛いお姫様ですから、大事に預からせていただきます」


 アンリヤックは優しく微笑んでから、静かに頭を下げた。ヴォレッタは頬を赤らめてから、文句を言うのをやめた。


「アンリヤック王。もし差支えがなければ、ひとつお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「私に答えられることであれば、なんなりと」


「既にご存知の通り、私たちは勅命クエストで霊峰ヒエイの調査とその解決を任されて来ました。魔素を持ち込んだ人物、またはその黒幕に心当たりはございますか?」

 

 アンリヤックは少し眉根を寄せ、ややためらってからその重い口を開いた。


「……はい、ございます。私が魔獣に堕ちたのも、その者の仕業です」


「そいつの名前も御存知なんでしょうか?」


「その者の名はカルバート。パルピーノ家の執事です」


 アンリヤックの答えは、ある意味予想通りだった。残念だけど、それが事実なら認めないわけにはいかない。


「やはりパルピーノ公爵が黒幕だったんですね」


「それは違います」


 だけどアンリヤックは、セシルの言葉を即座に打ち消した。


「どうしてそう言い切れるのでしょうか?」


「あの方は私たちと深い交流を持ち、実によくしてくださいました。あれほどに心根の優しい人間を、私は知りません。ですから私はあの方を信じます」


 セシルは尚も言葉を返そうとしていたが、結局口を噤んだ。神獣の王にそこまで信頼される人物が本当に悪人なのだとしたら、もう誰を信じればいいか分からなくなってしまう。セシルもきっと、そう思ったのだろう。



 僕たちはアンリヤックのもてなしを断り、一刻も早くパルピーノ公爵邸に戻ることを選択した。


「執事のカルバートを問い詰めましょう。それが一番の早道です」


「そうね……そうしましょう」


 ピエッタの提案は至極真っ当なものだったが、セシルの返事は気の抜けたものだった。


「心配してるの?」


 そんなセシルに、僕は問いかける。


「そうね。アンリヤック様が復活した様子をどこかで盗み見ていたとすれば、もう彼らは逃げてしまったかも知れないし……」


「そうじゃなくて、パルピーノ公爵が黒幕じゃなかった場合のことを心配してるのって聞いたんだよ」


「え? ああ……」


 セシルにパルピーノが黒幕だと教えたのは、信頼できる情報筋だと彼女は言っていた。つまりパルピーノの潔白が証明されることは、情報筋への信頼が根底から揺らぐことを意味する。


「そうね……そうかも知れないわ。彼が私に噓をつくなんて、夢にも思ったことがなかったから……もちろんそうと決まったわけではないのだけれど」


 つまり『彼』はセシルにとって、疑うことすら許されないような絶対的存在ということなのだろうか。だとすれば、かなり対象は限られてくるんだけど……。


「とにかく真相を解明しましょう。話はそれからです」


 パルピーノ公爵邸が見えてきたところで、ピエッタがそう締めくくった。



「何だか様子がおかしいですね」


 ララの言葉通り、屋敷の中が騒然としている。不穏な空気と嫌な予感。これは急がないとマズいかも知れない。


「緊急事態だ。ララ、門を壊してくれ」


「了解です」


 ララが頑丈そうな鉄の扉を、力ずくでアッサリこじ開ける。僕たちは中庭を抜け、屋敷の中へと走り込む。どうやら騒ぎの中心は、僕たちが通された応接間らしい。オロオロするばかりの使用人の間に割り込むようにして、僕たちはやっとのことで応接間に到着した。


「勝手に上がり込んで申し訳ありません。一体何があったんですか?」


 僕の目に最初に飛び込んできたのは、背中に深い刀傷を負って倒れている執事の姿だった。高価そうな絨毯はどす黒く染まり、その出血量からも絶命しているのは明らかだ。

 そして部屋の片隅には、血まみれのパルピーノが呆然とへたり込んでいた。


「パルピーノ公爵。一体何があったんですか?」


「ああ……ノーマン様。それが私にも何が何やら……」


 パルピーノから詳しい話を聞こうとした矢先、数人の男が応接間に入ってきた。先頭の目つきの鋭い男が、大声を張り上げる。


「殺人事件と聞いてやってきました。パルピーノ公爵はいらっしゃるかな」


「おお、マデイラ殿。よくぞいらしてくださった。カルバートが何者かに殺されて……」


「何者かに、ねぇ」


 マデイラは辺りをひと通り見回してから、窓際に落ちていた血まみれの剣を拾い上げた。そしてもっともらしい顔をして何度か頷いてから、パルピーノを見やった。


「パルピーノ公爵。カルバート氏殺害の容疑者として、身柄を拘束させていただきます」


「ちょっと待ってください」


「……誰だね、君は?」


「僕はノーマン=アーヴィング。冒険者です」


「私はマデイロ=マデイラ。この辺一帯の保安官をしている」


 マデイラはその鋭い目つきで、値踏みするような視線を投げてきた。僕は臆することなく視線を合わせる。


「ろくに実況見分もしないで公爵を容疑者扱いするなんて、少し乱暴過ぎませんか?」


「君に何が分かるというのかね。素人は口出ししないでもらおうか」


「そうですね。車椅子生活を送っていた公爵が、一刀で人を斬り殺すことができないことくらいは、素人の僕でも分かります」


「なるほど。ではこうしよう。パルピーノの指示を受け、君が殺害を実行した。これで文句はあるまい?」


 なるほど。つまりこの事件には筋書きがあって、どうあっても結論は変わらないというわけか。まさに絶体絶命。まあ、相手が僕じゃなければの話だけどね。


「どうも話がかみ合わないので、証人を呼んでもよろしいですか?」


「証人だと?」


 訝しげなマデイラを無視して、僕はカルバートの死体の近くにしゃがみ込む。そしてパックリと開いたままの刀傷に手をかざして、生命力を吹き込み始めた。絨毯の染みと化していた血液が体内に戻り、傷口が塞がっていく。

 そしてカルバートは、息を吹き返した。やってみるまでは半信半疑だったが、どうやら僕は本当に死者蘇生ができるようになったらしい。


「そんなバカな……」


 思わず漏らしたマデイラの声に、カルバートが反応する。


「マデイラ! 貴様よくも私を殺したな! この裏切者めっ!!」


 即座に逃げようとしたマデイラ一味だったが、屈強な5人娘を前にしては為す術もなく、あっさりと捕えられたのだった。

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