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泡沫に神は微睡む  作者: 安田 のら
二章 聖教侵仰篇
68/217

終 青は玄に憂い、白は朱を訝しむ2

 ――西部伯道洲(はくどうしゅう)、洲都小幣(こぬさ)

 神域、純景(じゅんけい)大聖廟(だいせいびょう)


 聖廟と呼ばれる大広間の中央で、その女性は不意に視線を上げた。

 向けられた先は、ただの虚空。


 その傍に控える年齢10辺りの少女も女性の仕草を追って視線を向けてみるが、その瞳に映るのは天井に設えられた格子模様のみ。


しろ(・・)さま?」


「――くろ(・・)め。女童(めのわらわ)の癖に一端(いっぱし)に荒れておるような、のう?」


「? ――あっ」


 返事を期待してのものではないのだろう。少女が首を傾げても応えずに、しろ(・・)と呼ばれたその女性は少女の後背に(かんばせ)を向けた。


 そこには30手前だろうか、疲れた表情をした女性。

 その姿を見止め、少女の表情が笑顔に綻んだ。


(かあ)さま!」


神楽(かぐら)しろ(・・)さまに能くお仕えしていましたか?」


「はい!」


 少女(神楽)の笑顔に苦笑を浮かべ、彼女の頭を掻い繰りに撫で回して応えの代わりにする。

 娘の笑顔に癒されはしたが、苦悩が消えるわけではない。溜息を漏らさんばかりの表情で、母親は神楽(かぐら)の隣に腰を下ろした。


 着物の襟に縫われた家紋が僅かに揺れる。


 鷹の羽紋の俵を囲み、尾を噛む虎の三つ巴。

 西部伯道洲(はくどうしゅう)を統べる四院。陣楼院(じんろういん)当主、陣楼院(じんろういん)(ほとり)であった。


「……ええ。水気の龍脈に不穏の影は差していましたが、遂に先日、瘴気が滲んだと」


「まあ、危うさはあったからのう。

 國天洲(こくてんしゅう)の様子はどうじゃ?」


「一時、堕ちかけましたが、(すん)で持ち堪えたようですね」


「成らば好い。くろ(・・)の事じゃ、暫くは大丈夫であろ。

 ――此方は此方で動けば、自ずと吉が出よう」


 伏せられた双眸はそのままに、しろ(・・)は鷹揚に微笑んだ。


 その姿は伏せられて覗くことの叶わない双眸を除き、髪の色から爪先までがその神名()の通りに白銀(しろ)を想起させる壮麗な容姿をしていた。


 年齢の頃は17・8辺りか。

 優し気な相貌であるが、その実、一筋縄ではいかない性格をしていることを、この場に立つ2人は良く理解していた。

 明察秋毫(めいさつしゅうごう)、智謀を以って万象を敷く真白の佳人。


 彼女こそは、西部伯道洲(はくどうしゅう)(あまね)く知ろ示す金行の大神柱。

 ――月白(つきしろ)であった。


「……動く心算(つもり)ですか?」


「然り。鈍感(のろま)あお(・・)に、足で遅れるのは気に喰わんしの」


「では、國天洲(こくてんしゅう)に様子を問い合わせます」


「そこまでは良い、時候の挨拶程度に止めておけ。

 使者には一ヵ月の逗留と、洲都の確認だけを命じよ」


「何も気付かれていないと勘違いされかねませんが?」


 使者を参じさせる目的は、大きく分けて2つある。

 意思の疎通と、此方が何かを知っていると教える釘差し(・・・)だ。

 釘差しの場合、もう少し派手に金子をばら撒かないと効果が薄れる可能性がある。


「それは無い。

 我が動くほどならば、より深刻になるのは壁樹洲(あお)珠門洲(あか)じゃ。

 向こうは陰陽師の絶対数が足りておらんからのう。元凶である國天洲(こくてんしゅう)に信が置けんとなると、頼れるのは央洲(おうしゅう)の陰陽省か伯道洲(我ら)しか選択肢が残らん。

 ――先触れが読めぬなら、どれ、我が観てやろうか」


 符易で良いかの。(たの)し気に呟きながら右の掌を(ひるがえ)すと、その指に色鮮やかな木符が5枚挟まっていた。


 赤、青、白、黒、最後に黄色。

 色とりどりのそれを暫く掌に遊ばせてから(おもむろ)に放り投げ、

 無造作に月白(つきしろ)の掌を離れた5枚は畳の上に呆気なく落ちた。


「さて、配置は、

 ――む?」


「あら?」


 ぱきっ。脆く微かな轢音と共に、黒と赤の木符が真っ二つにその断面を曝す。

 覗き込む月白(つきしろ)(ほとり)の表情が、困惑に染まった。


國天洲(くろさま)は分かりますが、珠門洲(あかさま)に何か関りが?」


「……さての。割れ方は瓜二つじゃから、無関係では無かろうが。

 左の角を剥きあわせかけているところを観るに、女童が二柱(ふたり)、牙を剥きあいかけておる」


「内乱ですか!?」


 思わず(ほとり)が上げた吃驚に、月白(つきしろ)は双眸を薄く開ける。

 純白の姿に混じる月白(つきしろ)の虹彩は、その神名()の通り月の淡いを宿したかのような金色の輝きに染まっていた。

 金色の虹彩。金睛(きんせい)と呼ばれるそれは、潜む邪気を暴くと云われている。


「……そこまでは行っておらんよ。じゃが、放置をすればそう(・・)もなろう。

 ――割れたのは僅かに黒符が早い、原因はくろ(・・)じゃな。方針は変えぬ方が良いか」


「直ちに國天洲(こくてんしゅう)へと使者を向かわせます」


 月白(つきしろ)の呟きに、(ほとり)が慌ただしく聖廟を去る。

 静けさを取り戻した廟の中央で、思考に耽る月白(つきしろ)を見上げる神楽(かぐら)は内心で疑問を浮かべていた。


 己が奉じる目の前の神柱(つきしろ)が、何よりも易占(うらない事)を好んでいることは知っている。


 だが易占とは、ただ(・・)人が神柱に神意を問う儀式だ。

 つまり月白(つきしろ)が易占を行うと云う事は、神柱(己自身)神柱(己自身)に何かを問うているという事実に他ならない。


「我が易占を揮うことが、そんなに不思議かの?」


 疑問が視線に溢れていたのだろう。再びに伏せられた双眸を神楽(かぐら)の方に向けて、月白(つきしろ)がそう口にした。


「も、申し訳ありません」


「好い。陣楼院(じんろういん)の子らは、幼心に必ずその疑問を浮かべるでの。

 ……(ほとり)もそうであった、恥じることは無い」


「はい」


「其方の思う通り、易占とは大神柱に神意を問う儀式である。

 確かに我だけ(・・)ならば、結果も見通せぬであろうさ。

 ――じゃが、他の神柱も関わるとなれば、前提が変わってくる」


 白地に金の縁をした盃を手に、月白(つきしろ)は変若水を口に含んだ。

 白銀に輝く粒子が一条、その口元を棚引いて虚空に散る。


「神柱は偽りを口にできぬ。そして易占には必ず、応えを返さねばならぬ。

 易占はの、難易を問わねば決して裏切れぬのじゃ」


「はい」


 よく解らないまでも、曖昧なままに神楽(かぐら)月白(つきしろ)に肯った。

 その仕草までも(かつ)て語って見せた陣楼院(じんろういん)の少女たちと同じで、彼女は(たの)し気に咽喉(のど)を鳴らす。


「く、ふふ。まぁ、其方も何れ解る。

 ――それよりも、気になるのはこの(・・)卦じゃ」


 一頻りに喉を鳴らし、月白(つきしろ)は鋭い眼差しで中央を指した。

 黄札がぽつりと、その先に一枚。


「落ちる位置に揺らぎが無い、他の符とも等間隔に離れておる」


「無関係なのでは?」


有り得ぬ(・・・・)

 ()00年前の内乱ですら、何らかの揺らぎは符に出た。

 高御座の媛(はは)さまめ。揺らぎが無いところを観るに守勢を決め込んでいるのか?

 ――よし」


 思考に決着を得たのか、月白(つきしろ)は一つ大きく頷いた。


くろ(・・)は、姉気取りのあお(・・)が手を出すであろうさ。

 ――為らば、我はあか(・・)を乱すか。序でに央洲(おうしゅう)に目を向ければ尚の事、善し。

 ――神楽(かぐら)や、もう直ぐ昼餉(昼食)であろ? されば――」




 月白(つきしろ)の願いに首を傾げながら、神楽(かぐら)は邸内を進んでいた。

 年季の入った檜の板が、彼女の歩みに鶯を想起させる軋みを()き上げる。


 キツキツ。小鳥と戯れる気分に、少女の口元は自然と綻んだ。

 ――と、


 進む向こう側に壮齢の男性(おとこ)が歩む姿を見止め、神楽(かぐら)の微笑みが大輪の笑顔と咲いた。

 歩む速度が小走りに、男性の下へと駆け寄る。


 年齢の頃は30を超えたばかりか、未だ若さを残す男性の表情が神楽(かぐら)の姿に柔らかいものへと変わった。


父上(ちち)さま!」


「――これは、神楽(かぐら)さま。(ほとり)さまなら執務室に御座(ござ)いますが」


「ええ、後で伺います。

 父上さまは暫くのご逗留ですか?」


「いえ。央洲(おうしゅう)との調停が終わりましたので、これより奈切領(自領)へと帰還いたします」


「そうですか……」


 滅多に逢えない父親との会話が直ぐに途切れ、残念そうに神楽(かぐら)は俯く。

 その様子に苦笑を一つ、少女の頭を掻い繰りに撫で回した。


 (ほとり)とよく似たその仕草に満更でもなさそうな表情を刹那に浮かべ、取り繕うように神楽(かぐら)は頬を膨らませた。


「……もう、私も10を数えたんですよ。流石に幼子扱いは止めてください」


「私にとっては、何時になっても子供です。

 ですが10になられたとは、早いものですな。神楽(かぐら)さまは昼餉に御座(ござ)いますか?」


「はい。――あ、そうだ。父上さまにお願いが有るのですが」


 ――昼餉に向かう途上にて、最初に逢うものへ命じよ。

 神楽(かぐら)の脳裏に過ぎるのは、月白(つきしろ)から願われた神託。


 滅多に逢えない娘からの、滅多にされないおねだりに父親である男性は目を瞬かせた。

 しかし久方ぶりの我儘と、快諾に頷く。


「なんなりと――」


 願いを受け入れてから、去ってゆく神楽(かぐら)の背中を眺めながら父親は首を傾げた。

 それは、随分と奇妙な願い出であった。


珠門洲(しゅもんしゅう)に使者として訪えとは、……また随分と奇妙な」

 少なくとも、未だ幼い娘が願うおねだりではないだろう。

 しかし幸いにも、奈切(なきり)領は珠門洲(しゅもんしゅう)の洲境である。向かうにはそれほどに手間も無いか、と思い直して踵を返した。

「久方振りに顔を会わせたいものもいるしな、丁度いい機会だ」


 その背に揺れるは、重ね花形車に撫子。

 八家第三位、弓削(ゆげ)家が当主にして陣楼院(じんろういん)(ほとり)を支える比翼。


 高天原(たかまがはら)()いて、最強と広く名を轟かせている、

 ――弓削(ゆげ)孤城(こじょう)であった。


 ――――――――――――――――


 其処は、陽の光も差せぬ山間の奥底。

 僅かに流れる瘴気を辿り、うねる闇が古木の合間を縫って泳いでいた。


 ―――ひた、ひた……ヒタ、卑詫(ヒタ)否唾(ヒタ)


 闇が総てを呑み込み静寂が生まれ、過ぎた後には何も変わらぬ薄暗い木立だけが残る。


 ―――()()


 ただ闇に潜める(わら)いが、木立の狭間を彩り消えるのみ。


「収穫、収穫。

 危ない橋を渡った甲斐があったというもの」


 アンブロージオ。否、波国(ヴァンスイール)の干渉は充分に目的として達成できた。

 神器の回収が叶わなかったことが心残りであるが、それはもう些細なことだ。


 神無(かんな)御坐(みくら)。思いがけない存在の登場に高揚を覚え、闇の中央に赤黒い三日月が刻まれる。

 闇をしてあらゆる策を無為にされかねない鬼札だが、準備段階でその存在がどの神柱に囲われているのかを知れたのが僥倖であった。


 それも(・・・)、火行の神柱とは。

 それだけでも、波国(ヴァンスイール)を使い捨てた甲斐が釣銭込みで有ったというもの。


 ―――()()()ィ。


 瓢箪(ひょうたん)のように(なまず)のように、歓喜から闇が大きくうねり波打つ。

 闇が(わら)うも、立てる音は虫の鳴き声よりも密やかに、


 ――やがて闇の姿は、余人が姿を覗かせたことすらない山稜の奥へと辿り着いていた。


 周囲に満ちるのは、正者に居場所と望ませぬほどに濃密な瘴気。

 闇が目的としていたここは、周囲一帯でも最大の瘴気溜まりの深部であった。


 ずるり(・・・)。闇の裡から人の姿が進み出る。

 その正体は波国(ヴァンスイール)珠門洲(しゅもんしゅう)を相手取り、(ひるがえ)弄にし尽くした神父(ぱどれ)と名乗る男。


「ヒ。人界の薄汚れた瘴気の方が、心地も好いが。

 ――泥土に沈むかの如き濃密な瘴気、生き返るのう」


 満足気に頷き、神父(ぱどれ)は大きく瘴気を吸って吐く。

 明らかにただ(・・)人に有り得ない所業、最奥の暗がりに潜む巌が蠢いた。


 ―――()


「……久シイナ。御大将トハ」


 巌が身動ぎをする度に、苔むした欠片がパラパラと地に崩れ落ちる。

 そこに佇む巌の正体は、年降りた強大な大鬼(オニ)であった。


「おぉ、おぉ。此れは此れは、童子殿。

 ――息災であったかね?」


「見テノ通リダ。数百年モ経テバ、瘴気ノ淵コソ心地ガ良イト漸クニ理解シタ。

 御大将コソ、如何ナ酔狂ダ? 潘国(故郷)ニ種蒔ト(うそぶ)イテイタダロウ」


幾年(いくとせ)前の話をしておるか。

 そちらは既に花の時も過ぎて、収穫を(たの)しむ真っ最中よ。

 ――お主、呆けが回っておらんか? 引き籠りも過ぎて、人語繰りが錆びついておるが」


人間(ジンカン)ニ遊ブノモ飽イタデナ。

 御大将モ珍シイ、瘴気ノ澱ハ御身ニ合ワント云ッテタデアロウ」


 確かに、妖魔が呆けとは。神父(ぱどれ)も人界に潜む年月が長かったか。

 自身が口にした的外れに、神父(ぱどれ)は肩を揺らして一頻り(わら)いに過ごした。


潘国(バラトゥシュ)も超えて、更に西まで足を運んでおったからのう。

 ――西巴大陸は、滅多に妖魔も出んほどに瘴気の淀みが薄い。

 如何な儂でも瘴気に喘ぐほど、あちらは恩寵も瘴気もありつけぬ無味な光景が広がっておった」


「ホウ」


「神域が閉じる。波国(ヴァンスイール)(いわ)く鉄の時代だそうよな。

 種蒔序でと潘国(バラトゥシュ)を勧めてやったら、面白いように入れ食いで群がってくれよった」


 財貨が銃火にその身を代えて、欲望が船となって潘国(バラトゥシュ)を目指す。その光景を思い浮かべ、神父(ぱどれ)ぬうるり(・・・・)(わら)う。

 序でに高天原(たかまがはら)に侵攻させるための駒も育ててみたのだが、此方は片手間も良い所の暇潰しであったので、そこまでは期待もしていなかった。


 しかし、遊びは思いがけない結果をくれた。

 アンブロージオという名であったか? あれは随分と思いがけない結果を遺してくれた。


 興味も薄れ始めた小者の名前に、それでも僅かな感謝と(わら)ってやる。


「ソウ云エバ先日ニ生成リガ二匹消エタガ、御大将ノ仕業カ?」


「おお、確かに。南限で遊ぶ前に華蓮(かれん)を突いておこうと思ってな、沓名ヶ原(くつながはら)の蛇めを叩き起こした。

 間に合わせの頭数も揃えたかったのでな、真国(ツォンマ)で修めた鬼道(グィタオ)で呼び込んだ。

 童子殿の気に掛けた個体かね?」


「成ッタバカリノ狂ッタ鬼ダ。

 所構ワズ、噛ミツイテクレタダロウ?」


 そこが(・・・)良いのよ。そう神父(ぱどれ)(うそぶ)いた。


 そうして暫くしてから尽きぬ話題に浸るも良いがと、神父(ぱどれ)は童子に向き合った。


「――さて、本題に入ろうか。

 神無(かんな)御坐(みくら)を確認した」


「今世デノ勝チ目ハ無クナッタナ、御大将ハ雌伏ト眠ルカネ」


 童子の驚きはそこまででも無かった。神柱が望む通り乱世の狭間に産まれるのは、神無(かんな)御坐(みくら)の宿命と云ってもいいからだ。


 だが、如何に難敵であっても、彼らには年月と云う絶対の弱点が存在する。

 劣勢を覆す神無(かんな)御坐(みくら)であれど、寿命の前には屈服するしかないのだ。


 しかし、


()。否よ、童子殿。

 時機とすれば、現在、此の時こそが最良なのだ。

 蛇が突いて、波国(ヴァンスイール)の侵攻に疲れた、現在、此の時が。

 加えて神無(かんな)御坐(みくら)は、火行のお手付き(・・・・・・・)よ。

 ここまでお膳立てが揃えば、今動かぬ理由が無くなる」


「フム」


 神父(ぱどれ)(わら)って、雌伏を否定した。

 それに、動かざるを得ない理由も生まれている。


「どうやら、命綱を看破したものがおるらしい。

 ――儂の信徒が総て奪われた」


「……嘘ノ神ノ吐イタ虚構ガ暴カレタカネ。

 一筋縄デハイカヌナ」


 『アリアドネ聖教』から『導きの聖教』を分派させ、教義ごと信仰を乗っ取る。

 その信仰こそが、嘘を象とする神柱(・・)たる神父(ぱどれ)を支えていた。


 『導きの聖教』が潰された程度では、信仰は無くならない。

 だがその絡繰りが看破され、一度でも教義に疑いが生じれば『導きの聖教』は崩れ去る。

 何故ならば、疑いこそが信仰の毒であるからだ。


 晶が看破した真実の剣は、正しく神父(ぱどれ)の急所を一突きにしていた。


「儂も余裕が無いのだよ、観経童子(かんぎょうどうじ)殿にも手伝ってもらおうかの。

 夜行じゃ、夜行じゃ。百鬼夜行じゃ。洲墜(くにお)とし、」

 一呼吸(いき)考えて、(かつ)滑瓢(ぬらりひょん)とも呼ばれた神父(ぱどれ)ぬうるり(・・・・)と哄笑に溺れる。

「――いやさ、神柱(かみ)堕としと興じようぞ!!」


 外海(とつうみ)より流れ着いた客人神(まろうどがみ)

 嘘を象とする悪神が、声高らかに次なる目的を謳った。


 ―――()()()()ィ、()ィ。

以上で二章、聖教侵仰篇を了とさせていただきます。

亀の歩みでしたが、ここまでのお付き合いありがとうございました。

以降、閑話を幾つか挟んだ後に、次章へと移る予定となっています。


三章の章題は巡礼双逢篇。

是非、よろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんと面白い 書籍との差異も含めて楽しんでます カクヨムでは違う名前でコメントさせていただいています
[良い点] ここまで面白かったです。 [気になる点] くろさまの伴侶として帰ってくるビジョンが見えない。 [一言] くろさまが不憫すぎて、このまま報われなかったらと思うと怖くて読み進められない・・・
[一言] このぬらりひょん、外海、偽り、信仰、ぬるぬるしてる感じ、やけにSAN値が削られそうな単語が羅列されてるなぁ いやー、こわいなぁこわいなぁ
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