序章:追い求めた末路-6
『お゛な゛が……な゛ん゛で……』
クートゥは瞠目します。何故自分はこんな状況にも関わらずお腹が空いているのだろう、と。
精神力に自信があるクートゥではありましたが、こんな化け物の姿に変貌してしまった現実を直視している最中で空腹感を感じるほど図太くはありません。
なのに、どうして?
『ぐははは。どうだ感じるだろう? 我等が神の片鱗を感じるだろう?』
『ごれ゛が……』
『ああそうだっ! 貴様が感じているその飢餓こそが、我等が神の片鱗である《暴食》の罪っ!! そして貴様が過ぎたる願いを叶えた代償だっ!!』
『あ゛、あ゛ぁぁ……。い゛や゛だ……い゛や゛だぁぁぁぁっっ!!』
クートゥは自分の腹を両手で抱き締めるように抱えると蹲り、寒気がするほどの空腹感をなんとか抑え込もうとします。
こんな事をしても意味はないのは分かっていました。ですが彼女は本能で理解したのです。
このままこの凄まじい空腹感に呑まれれば、自我をも呑み込まれて本当の怪物に成り果ててしまう。そうなればもうどうしようもない、と……。
しかしどれだけキツく己を抱き締めても、這い寄るような空腹感は治ってくれません。
『無駄だ無駄だ無駄だっ!! 抑え込めるわけがないだろうっ? 何せ貴様が感じている空腹感は紛れもなく貴様自身の欲望なのだからなぁっ!! 貴様が望んでいるのだっ!!』
『……どぜ……』
『あぁん?』
『わ゛だじを゛、も゛どに゛も゛どぜぇぇっ!!』
クートゥは叫びます。
もう何も望まない。強くなんてならなくていい。不死身なんていらない。
だから元の姿に戻してくれ、と。
ですが現実はそこまで甘くはないのです。
『戻る? まさか本気で戻れるなんて考えていないよなぁ? そこまで姿が醜く変わり果てているのに戻れるなんて考えていないよなぁ?』
『だま゛れ゛っっ!! わ゛だじを゛も゛どに゛も゛どざな゛い゛ど、ぎざま゛を゛ごろ゛じに゛い゛ぐぞっっ!!』
『俺を? 殺す? ぐはははははははっ!!』
声は今までで一番の大声で盛大に笑い上げます。心底愉快そうに、嘲るように。
『馬鹿を言うじゃないか化け物がっ!! 竜すら殺せず力に縋った貴様が俺を倒せるわけないだろう?』
『な゛、に゛……』
竜はこの世界で最強を恣にしている存在。自然を体現し、存在そのものが環境に影響を及ぼす人智を超えた生ける災害。
声はそんな存在である竜を「竜すら」と何を憚る事なく口にしたのです。
『貴様如きでは俺は倒せん。化け物になった今の貴様であろうとな。そもそも会う事すら叶わんだろう。俺は〝そういう〟存在だ』
『あ゛あ゛ぁ……』
『理解したか? 貴様はもう、どうしようもない。その姿のまま、死ねぬまま、一生己を疎み、周囲から疎まれ、潔く化け物として生きるしかない』
『あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……』
『嗚呼、愚かな愚かな魔族のクートゥ……。願わくば貴様が《暴食》の限りを尽くし、我等が神の礎とならん事を、切に……切に願っているよ。愚かな愚かな、化け物のクートゥ』
『あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!』
その絶叫には哀しみと絶望と、
そして湧き上がる飢えの渇望が滲んでいました。
自分でやっておいて何だが……
セリフ全部を濁音化するの大変っ!!
まあ、頑張りますけれど……。