急章:叶わぬ望み-22
それは小さな、極めて小さな一言でした。
しかしその小さい筈の一言にはまるで物理的な重量感を感じさせる程の重々しさがあり、耳にしたスカビオサとロドデンドロは思わず息を呑みました。
彼等の視線の先にあるもの。そこには先程から母だった物に縋り付いていたスターチスの姿があり、彼は振り返る事もなくただ同じように問い掛けます。
『ねぇ……。なんで……』
『あ、ああ……』
『なんで……お母さんを殺したの?』
スターチスのその質問を受けスカビオサとロドデンドロは閉口します。
何故ならどれだけ彼に〝殺さねばならない理由〟を説いた所で何にもならないと理解しているからです。
そしてその理由は身勝手な言い訳にも変質し、ただでさえ今のスターチスのメンタルがどれほどのものか推し量れない現状、かえって彼に辛い思いしかさせられないと、二人は理解していました。
『……お母さん。確かに悪いことしてたよ。多分ボクにも聞かせてない事、いっぱいあると思う。……でも──』
そこでスターチスは振り返り二人の顔を鋭く睥睨します。
そして最愛の母を殺した二人に対して見せた表情は……怒りや悲しみ、憎しみではなく。ただただ失望だけが彩られていました。
『お母さんはちゃんと会話、出来たんだよ? 少し聴き取り辛いけど、けれど普通に話して、笑って、悲しんだり出来たんだよ? なのになんで、話し合おうって、ならなかったの?』
確かにクートゥは怪物でした。人を食い殺し、攫い、人々を恐怖させる怪物でした。
けれども彼女には何とか繋ぎ止める事の出来た理性があり、我が子を愛する感情があり、そしていつまでも親子で生きていきたいという願いがありました。
しかしそんな彼女にスカビオサ達は何も問い掛けずに襲い掛かりました。
勿論、それが間違いであったわけではありません。人に害為す怪物を一刻も早く討伐し、弱き人々に安心と安全をもたらしたいという想いは間違っていません。スターチスもそれは分かっています。
ですがそれでもスターチスは納得出来ませんでした。
一瞬でも対話しようとせず、ただ害だからと刃を振るった彼等のその一方通行な〝正義〟に、彼は納得する事が出来ませんでした。
『…………ボクは』
『……』
『……』
『ボクは赦さない。話も聞かずお母さんを殺し、それを正しいって信じてるお前達を。ボクは絶対に赦さない』
瞬間。暖かかったそよ風達は、血生臭い腥風へと変わり果てました。




