序章:追い求めた末路-3
クートゥは困惑しました。
自分の後を付けて来ていた者が居たのならば理解出来る。同時期に偶然剣を求めてやって来た他の者であっても納得したでしょう。
ですが彼女の脳内に鮮明に響き渡ったのは、自分を「精霊」と名乗る存在からのアプローチ。それもその口振りを考えるに歓迎はされていません。
考えた末、無言のまま腰に佩ていた剣を抜き、恐らく声の主が居るであろう光の発生源へと警戒しながら進みました。
そうして辿り着いたのは少し開けた一室。何かの儀式をする目的の部屋なのか、部屋の中央には祭壇と思しき高台が設置され、その中心に件の光の発生源がありました。
そんな眩い光の源に対しクートゥは思わず見惚れていると、先程のものと同じ声が再び脳内に響きます。
『再度問う。我等が精霊のコロニーに何用ぞ?』
その声にハッとしたクートゥは警戒心をそのままに、一応会話を試みようと剣を抜いたまま念じるように返事をしました。
『私の名は「クートゥ」。この神殿にあるというなんでも願いを叶えてくれる剣を求めて遥々魔族の国からやって来た者だ』
そう挨拶混じりに答えると、祭壇中央の光が目を開けていられなくなるほどに光量を増し、クートゥは思わず目を庇うように背中を向けてしまいます。
瞼の裏から光が滲み、そこから光が漸く緩やかになったのを感じ取ったクートゥが少しずつ目を開けると、そこには祭壇に刺さる一本の剣があったのです。
『あれが……剣?』
その剣の風貌に、クートゥは首を捻ります。
何せそこに刺さっていたのは、一般的な形状からは異質に逸脱し、生々しさすら感じさせるものだったからです。
輝きは鈍く、まるで巨大な肉食生物の牙をそのまま刀身にしたかのように無骨で荒々しい凶悪な片刃の刀身。
柄を覆うのは鱗とも取れるような光沢を放つ長く細く尖った夥しい数の漆黒の毛皮。触れれば傷付き、手にした者すら傷だらけにしてしまいそうな程に攻撃的なその柄は、何やら躍動しているようにも感じられる。
そして柄頭に収まっているのは余りにも不気味な眼球。一つしか無いにも関わらず瞳孔が三つに分かれて蠢いており、血の様に真っ赤に濡れた虹彩には無意識に恐怖を駆り立てられる。
およそ剣と形容していいのかすら疑問に思う程に生物的で邪悪な様相の剣に、クートゥは身じろぎしてしまいます。
そんな彼女に対し精霊は____
『この剣は我等精霊を悪しき存在と誤認した者によって突き立てられし剣。この剣に込められし願いの力により、我等精霊は本来の役割を封じられてしまっている。引き抜いてはくれまいか?』
懇願する精霊に、クートゥは狼狽しました。