序章:追い求めた末路-2
女剣士クートゥが人族の国に向けて出立してから一月以上が経過しました。
半信半疑のままどんな願いでも叶えてくれるという、下手な御伽噺に出てきそうなある種面白味の無い剣を求め、不安を募らせながら遥か遠方へと目指したのです。
道中、彼女は様々な経験を積み重ねました。
食料を求めて立ち寄った魚人族の村で魔物を退治したり。
履き潰してしまった靴を買い替えに立ち寄った鬼族の町であらぬ嫌疑を掛けられたり。
同種族間で争いの絶えない獣人族同士の戦争に巻き込まれそうになったり。
高山病で倒れてしまった所をドワーフ族に助けられたり……。
クートゥはそんな旅の思い出を積み重ねる内、次第に追い求めている剣を手に入れる事よりも、旅そのものを楽しむようになっていきました。
『剣を手に入れ、天族との戦争に勝利した暁には再び旅に出てみよう。今度は一人ではなく、仲間なんかも連れたりして……』
淡い夢がぼんやりと芽生え始め、戦争に勝利した後の未来を想像し己を奮い立たせたクートゥ。
そんな彼女は長い旅路の末、とうとう人族の国へと到達しました。
しかし、クートゥを待ち受けていたのは人族達から向けられる魔族という異種族に対する無数の忌避の視線。
今まで旅をして来て受けた事の無い待遇に戸惑い、神殿や剣に関する情報は遅々として進みませんでした。
そんな状況に耐えながら、クートゥは同僚であるダロスから手に入れた情報を頼りに聞き込みや情報収集を進めていると、苦戦している彼女を見かね一人の青年が親切に声を掛けて来ました。
最初は警戒していたクートゥでしたが、周りと彼の温かな言葉との温度差に徐々に警戒心は氷解し、なんだかんだ数日と共にする内に互いに笑い合うようになっていたのです。
そうして獣人族の領地と人族の領地の国境付近に位置する深い森の中に例の剣が眠る神殿がある事を突き止める事に成功しました。
突き止めたクートゥは、親切な彼と再会の約束をするとその場で別れ、彼女は神殿がある森へと向かいました。
慣れない地理に悪戦苦闘しながら彷徨うように歩を進めたクートゥ。
その道すがら偶然彼女の上空を一体の竜が優雅に飛び去って行きました。
実際の竜を目撃し、改めて英雄になる事を彼女は決心し、更に一歩、また一歩と足を前へと運んで行きます。最早クートゥは剣の存在を疑っていませんでした。
地図を睨みながら数日を掛けて森へと辿り着いたクートゥは意を決すると、一切整備されていない腰の高さまで伸びる雑草や茂みを掻き分け進み、虫やら何やらが服や口の中に入ってしまうのを我慢しながら更に進みます。
数時間という時間を費やし捜索していると、唐突に足元の雑草がなくなり、剥き出しの地面が露出したいっそう開けた空き地が広がっているのに気が付きます。
目を見開きながら思わず口角を上げたクートゥの目の前には、苔むして朽ち掛けてしまってはいるものの、明らかに人の手で建造された石造りの神殿が聳えて居たのです。
その場で小躍りしてしまいたくなる感情に身を震わせながら、彼女はいそいそと神殿へと歩み寄ります。
瓦礫を退かし、暗い暗い神殿内に潜り込むと、目端に何やら光が放たれている事にクートゥは気が付きました。
アレは一体なんだ? 例の剣か?
そう訝しんでいると____
『只人が我等精霊のコロニーに何用ぞ?』
そう、脳内に声が響いたのです。