急章:叶わぬ望み-4
『ゴァァァッ!?』
クマの魔物の両腕断面から鮮血が噴き出します。
それはまるで彼岸花のように鮮やかで物々しいそんな血の雨を被ったクートゥは、口元に零した血を舐め取ると、切り付けたように鋭く口角を吊り上げます。
『いいにおい、いいあじ……。わだじはうんがいい』
そう言うとクートゥは両手を左右へ大きく広げながら姿勢を低くし、魔物へと四つの目で見据えると思い切り地面を蹴りつけます。
広げた両手は進行方向にある木々を巻き込みながら無理矢理薙ぎ倒し、蹴られた地面は抉れるように陥没。
自身と魔物との間にある短い距離を一気に詰めたクートゥはそのまま魔物の懐へと飛び込みます。
『づいでに、ぢぬぎも、やっでおごう』
クートゥはそう漏らすと片手を魔物の首へ、もう片方を逃げられないようにと胸へと力の限り食い込ませます。
『ゴ……ァァ……』
『いだだぎまず』
魔物の首に食い込んでいた爪は、クートゥが更に力を込めると耐え切れなくなり、様々な血管を断絶しながら頚椎を砕き、一瞬にして首を挟み切ります。
数瞬遅れ、首から先程の両前脚とは比べ物にならない量の血が噴き出し、クートゥはそれを迎えに行くように天に向かって巨大な口を開け、ゴクゴクと喉を鳴らしながら嚥下していきます。
『んぐっ……んぐっ……。っっはあ゛あ゛ぁぁ……。ゔん、おいじい』
ニタニタと笑いながら口元を適当に拭い、血が噴き出すのが治ってくると、腰に佩ていた太いロープを手に取り、魔物の両脚へと結び付けます。
そしてもう片方のロープの先端を、手頃な太い木の枝へ向かって投げ反対側へと通すと、そちらを引っ張って魔物を宙吊りの状態へ持っていきました。
流石のクートゥも四メートルはあろうかというクマの魔物をそのまま運ぶのは骨が折れます。
なのでこの場で簡単に解体を行い、持ち運び易くしようと考えたのです。
『もうずごじ、ぢをぬいで……。あどはでぎどうにがいだいじで、あのごがだべられないないぞうだげだべで、それがら……ん?』
簡単に解体計画を口ずさんでいると、彼女は背後に何やら気配を感じ、振り返ります。
そこには何が起きたか未だに飲み込めず、ただ目の前の怪物が魔物を計画的に解体する様子を眺めるだけになっていた剣士の姿がありました。
(あ……忘れてた。どうしよう……)
スターチスと出会う以前のクートゥであれば、彼も獲物と判断し、今頃クマの魔物の隣に似たような形で吊るしていたでしょう。
ですが今の彼女は暫く人間は食べておらず、目の前にある魔物という御馳走を前にして今更人間一人に対して大した食欲は湧いて来ません。
(このまま放って置こうかな……。ああでも解体の邪魔されたくないしな……。ここは脅かして逃した方が____)
『あ、ああ、あ……』
と、そんな事を考えていると、剣士は唐突に震えながらクートゥへ向けて姿勢を正し、そのまま地面に向かって真っ直ぐ頭を下げはじめます。
『……え?』
『ありがとうございましたっ!!』
『…………え゛?』




