序章:追い求めた末路-1
むかしむかし。数千年前の遥かむかし。
魔族の国に、一人の勇敢で花が好きで少しだけ欲張りな女剣士が居た。
名を「クートゥ」。当時の国内では剣の腕で彼女の右に出る者が無く、大の男相手でも難なく倒してのける程の武勇を誇る男顔負けの英傑であった。
そんなクートゥはある日。彼女が所属している剣士団の団員達が見守る中、国王によりとある大任の勅命を言い渡された。
『我が国の力を憎っくき天族共に知らしめるべく、竜を討伐し英雄となってみせよ』
クートゥはその勅命に対し勇ましい返事で以って答えた。
しかし、その内心に広がっていたのは不安と焦燥。
然さしもの勇猛果敢なクートゥも、まるで自然そのものを体現したかのような超生物である竜を討伐するというのは無理難題が過ぎる命令であった。
この国にかつて居た数多の猛者達でさえその難業を成し遂げられた者は少なく、彼女が知る限りでも二人のみ、竜を討ち英雄を名乗る事が出来たと聞いている。
間違いなく歴史に名が残るであろうその難業にクートゥは惹かれるモノを感じはするものの、しかし自身の実力を客観視し、現実的では無いと冷静に推察してもいた。
だがそれでも王からの勅命が下された以上逆らうわけにはいかない。
クートゥは何とかならないものかと頭を捻り、竜討伐への出立日までひたすらに模索していた。
すると出立日前日。剣士団の同僚の一人であったダロスが、一つの眉唾物な話を彼女へ持ち掛ける。
『人族の国にある神殿に、なんでも願いを叶えてくれる一振りの剣が、眠っている』
と……。
余りに都合の良い話に眉を顰ひそめたクートゥだったが、持ち掛けて来たダロスは彼女の同期であり親友。
家柄も良く、長い歴史を紡いで来た由緒正しい彼の家には数々の歴史的資料が眠っているらしい。
この都合の良い話も彼がそんな古ぼけた資料の一部を引っ張り出して見付けて来たようで、なんでも先祖がその神殿で神官をしていた人族と関わりを持っていたらしく、眠っている剣はその神殿の御神体であったという。
ますます都合が良いと訝しんだクートゥであったが、もし本当にそんな剣が存在するのであればきっと竜すら討伐出来るだろう、と真剣に考え始めていた。
それに最早猶予は無く、明日にでも出立しなければ来る天族との戦争に間に合わず、国王の意に背く形にもなりかねない。
既にクートゥに残っている選択肢は限りなく少なくなっていたのだ。
藁にも縋る思いでクートゥはその話を信用し、ダロスから例の神殿の在処を聞き出すとその翌日、竜討伐を名目にした神殿の剣探しの旅に出立したのであった。