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6.結界と過去の魔女

薬を届けたルーベリアに皆が感謝を口にしたが、やはり体の欠損に関しては後味が悪くその場にいるのが居たたまれなくなり足早に建物を後にした。

怪我をした者の妻だろう。幾分落ち着いたようでルーベリアに頭を下げてくれたが、掛ける言葉が見つからなかったのだ。

そして暗がりの中少々落ち込みながらルーベリアがパット達と共に村を少し歩いていた時だ。

「ん?」

「どうされました?魔女様」

急に足を止め後ろを振り返ったルーベリアにパット達が周囲を警戒する。

同じく振り返って見るが特に何も無く彼らは困惑気味に暗がりに目を凝らす。

ルーベリアはオタ村に入ってから気になる気配を感じていた。

それは今にも消えそうなくらい小さな気配で、自分でもよく気づいたと感心するくらいだ。

「何か気配が……」

「気配ですか?」

魔物の討ち漏らしかとパット達に緊張が走る。

武器を構えルーベリアを守るように五人が囲み辺りを探った。

「あ、すみません。魔物ではなくて」

自分の言い方が悪く無駄に緊張をさせてしまいルーベリアは恐縮する。

何かが空気中を漂うような。もし視認できるなら煙が風に乗って漂っているとでも例えるべきか。

感覚的なものは説明がしづらい。

それにルーベリア以外には感じ取れていないらしくやはりパット達は首を傾げている。

何となくではあるが気配が流れてきている方向を捉えそちらへと歩みを進めると、パット達は何も言うことなくそれに続いて歩き出した。


村への出入り口は二か所ありそこ以外は敵の侵入を防ぐ壁で囲まれている。

有事の際は入り口も簡単に門を閉ざすことができるようになっていた。

パットと数人の村人を伴って、小さな気配を辿ること数分。着いたのは壁の一画。

「この辺りから何か感じるんですけど」

ルーベリアが指差す方向を一斉に照らす。

見た目は特に何も変わらない防壁の一部。

ルーベリアは注意深く壁を隅々なぞり手で感触を確かめる。

大きな石を積み上げて粘土質の土で固められたそれは高さ三メートルほど。

今回の魔物襲撃で崩れてしまっている場所が散見するが頑張れば数日で修復可能だろう。

壁伝いに少しずつ歩いて見る。

そうして見つけた一際強い気配を感じる部分。

「この辺りを照らしてもらえますか?」

「はい」

明かりを向けるとそこは壁一面蔦で覆われていた。

蔦を剥ぎ取り壁を露わにしていくとルーベリアの腰の高さ辺りに、石に交じってそれははめ込まれていた。

屈んで顔を近づけて見た。

「これは、魔石ですね」

「魔石ですか?何故そんなものがこの壁に……」

ルーベリアが見つけたのは紛れもない魔石だったが、かなりの大きさだった。成人男性のこぶし程の大きさの魔石は初めて見る。

そして先ほどから感じていた奇妙な気配は確かにこの魔石からだと確信に至った。

ピリピリと皮膚に刺激が走る。決して痛いわけでは無いが気持ちのいいものでも無い。

「触っても、大丈夫、かな?」

恐る恐るまずは人差し指でツンツンと軽く突いてみたが特に何も変化は無い。

害になるものではないと安心し、今度は人差し指と中指で表面を撫でるように触れたときだった。

「!!」

「魔女様!」

暗闇の中、辺り一面を真っ白にするくらいの膨大な光量に皆が目を伏せる。

目を瞑っていても眩しい光を瞼越しにも分かり痛みを伴うほどで、当然目を開けることなど出来ずその場から動けない。

咄嗟にパットがルーベリアを抱き込み自身の体を盾にして魔石から距離をとった。

時間にすれば数秒の出来事。

だが至近距離で光線を浴びる形になったルーベリアの視界はそう簡単に戻らなかった。

「痛い……」

勝手に涙がこぼれ落ちる。それすらも痛く感じるのだからかなりの光を浴びただろう。

パット達は視界が戻っているようで周囲を警戒しながらルーベリアを気遣う。

漸くルーベリアが目を開けることが出来るようになったが、未だ視界はチラチラし、なかなか見えるようにならない。

「大丈夫ですか?」

「はい。もう少しで見えるようになると思います」

そう言いながらも、もし失明したらどうしよう、ポーションで治るのかとルーベリアは不安になっていた。多分特級ポーションさえあればなんとかなるだろうと自分に言い聞かせる。

「あの、今魔石はどうなっていますか?」

「仄かに青い光を纏っています」

パットが状況を説明する。

刺激的な光ではなく、淡くやさしい光を纏っており、時には明滅するように光り方に変化があるという。


数分後視界が戻ってきたルーベリアは恐る恐る魔石へ近づいた。

「試しに俺が触ってみましたが特にこれ以上光りません」

「えっ。触れたのですか?」

まさかの言葉に驚く。あんなことがあった後なのに。

「魔女様に何かあってはいけませんから」

さわやかな笑顔でパットが言う。

周りの皆も当然とばかりに頷く。

「はぁ、そうですか。ありがとうございます」

自己犠牲の精神が強すぎて素直に感謝を口にできないが、そんなルーベリアの心中などパット達は知る由もない。

気を取り直してルーベリアは再び魔石に顔を近づける。

触れるのはまだ怖いのでスキル【鑑定】を使うことにした。

と言うより、便利なスキルを持っていたことを失念していた。

鑑定をするとそれがどういったモノなのかが分かる大変便利なスキルなので、初見のモノには鑑定をかけて警戒するようにとアントンに言われていたのだが。

バレたら説教確実案件。絶対に内緒にしなくてはならないと心に誓う。

そしてスキルを発動すると、頭の中に情報が流れてきた。


[魔石] 

大量の魔力を内包した竜の心臓が石化したもの

結界魔法陣付与済 効果:00/70

権限者 アイリン


「アイリン……」

その内容に驚き思わず呟いた。

「魔女様、何か分かりましたか?」

パットの問いかけにも応えずルーベリアは思考する。

オタ村に来る前にグラウスが言っていた言葉。


――五十年ほど魔物の襲撃が無かった――


竜の心臓を媒介に魔物除けの結界魔法をオタ村の防壁に掛けていたとすれば今まで魔物の襲撃が無かったことにも頷ける。

そして、効果が0。それが意味するもの。

「パットさん」

「は、はいっ」

「魔物って普段は全く村に寄り付かないのですか?」

「いえ、たまに数匹村のすぐそばに来たりします。ですが村の中までは入って来ませんでしたし、それ位なら問題なく駆除してました」

パットの話を聞いて確信する。

この結界魔法は常時発動しているのではない。条件設定がされている。

「多分群れで村に押し寄せた場合結界で防ぐとかかなぁ。それで五十年の間に七十回防いでとうとう効果が切れたってところかしら?」

安全を考えて危険度の高い魔物十匹以上の群れが近づいたときに発動するようにしていたのではないだろうか。

そして回数制限がついているのは、常時発動させる結界魔法を付与できるだけの魔力を持っていなかった為の苦肉の策といったところか。

ルーベリアは魔石についての説明をパット達にすることにした。

権限者アイリンとは多分先代の魔女で間違いない。同名の別人ということもあるかも知れないがこれほどの結界を付与できる者はそうそういない。

おそらく先代魔女が五十年ほど前にこの結界魔法を魔石に付与したこと。回数制限があり効果がゼロになったこと。そのせいで今回の襲撃が防げなかったこと。

それから今回自分が結界魔法を付与し直すこと。

それらを簡潔に伝えるとパット達は涙を流して喜んだ。

「何か先代魔女から結界魔法について言伝とか無かったのでしょうか?」

「特に何も聞いていません。もし村長が知らなくもおばぁ達が教えてくれるはずなので」

平民の平均寿命五十五歳の世界で九十年以上生きる村の重鎮達。すでに正確な年齢は分からないという。

村の事なら何でも知っている生き字引のような存在だ。

因みにキアレ村で最年長は七十二歳のヨルム爺さん。朝から晩まで元気に畑仕事をしている。

そんなヨルム爺さんより更に二十は上の人とは一体どんな感じなのだろう。

「多分もう少しすると起きると思いますよ。早起きなので」

今は大体午前三時くらいなのだがもう少しということは、太陽が昇る前に起きるということだ。

朝九時ころに目覚めるルーベリアから見ると驚愕に値する早起きだ。

「いえ、付与が終わったら帰ります」

年寄りの話は長く、終わるタイミングが分からないのはヨルム爺さんで学習している。

嫌な予感がするので会うことはやんわりと断った。


改めてゆっくりと魔石に触れてみたがパットが言った通り目を潰すような光を放つことは無かった。光を放つ代わりに魔石の中からすうっと浮かび上がってきたのは魔法陣だった。

その魔法陣を見てルーベリアは顔を顰める。

魔法陣の公式に無駄がある。それから間違っている箇所も見つけてしまった。

「なんだろ。この無駄な感じ」

好奇心を擽られたが時間も時間なのでとりあえずサクッと書き換えた。

ルーベリアの予想通り公式には魔物が十匹以上の場合発動することが記されていたので、そこもさらっと書き換えておいた。


[魔石] 

大量の魔力を内包した竜の心臓が石化したもの

結界魔法陣付与済 効果:常用型(永続)

権限者 魔女


権限者は将来の事も考えて魔女とした。これで自分が死んだ後も次代の魔女たちでも簡単に直せるだろう。

「よし!終わり」

「お?おぉ!!」

ルーベリアの言葉を合図にしたかのように壁全体が一瞬淡く光を放った。

その幻想的な光景にパット達がどよめく。

「これでもう大丈夫ですよ」

「ありがとう。ありがとうございます!魔女様!」

歓喜の笑みと共に皆がまた勢いよく跪く。

「言葉だけでいいです!立ってください」

どうしてこうも跪くのか。

ルーベリアは狼狽えるばかりだった。

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