「好き」という言葉がなくったって、僕らは。
「好き」と伝えると、この関係が壊れそうで怖かった。
小学生の頃からずっとずっと仲の良かった君。
中学に上がってからも、高校に入ってからも相変わらずそばにいてくれて。
いつからか恋愛対象になったことも知らずに、君はいつも満面の笑みを僕に向けてくれていた。
幸せだったけど、つらかった。
つらかったけど、幸せだった。
この恋は成就しないんじゃないかって、悩んで眠れない夜もあった。
だから、思い切って二人きりのデートに誘った時、OKしてくれたのが嬉しかった。
いつもは仲の良いグループで遊ぶだけだったから。
君と一緒にめぐったショッピング。
君と一緒にまわった美術館。
二人きりで食べたランチもとても幸せだった。
でも、やっぱり「好き」って伝えられなかった。
友達以上にはなれても、恋人未満でしかいられなかった。
高校卒業したらこのまま離れ離れになるのかな?
そんなことを想像しながら「はあ」とため息をつく。
と、君はそんな僕にそっと手を差し伸べてきた。
顔を赤く染めながら。
恥ずかしそうに。
まるで握手を求めるかのようなポーズに一瞬戸惑うも、僕はすぐに察した。
「あ……」
慌てて握り返したその手はとても温かかった。
柔らかかった。
君の想いが手を通じて伝わってきた。
ぎゅっと握るとぎゅっと握り返してくれた。
その手はするりと僕のポケットにおさまった。
「うふふ」と恥ずかしそうに笑う君。
「えへへ」と恥ずかしそうに照れる僕。
「ありがとう」と伝えると「……うん」と答えてくれた。
そっか。
「好き」という言葉はなくとも、僕の想いはちゃんと通じてたんだ。
気づいてなかったのは僕のほうだったんだ。
それが嬉しくて。
幸せで。
天にも昇る気持ちだった。
僕はポケットの中の手をしっかりと握りなおした。
この手は絶対離さないと心に誓って。
お読みいただきありがとうございました。