塹壕内で囲まれて?
「降伏しないなら、それで結構だ? 騎士道精神に則り、降伏勧告はしたが、別に殺してからアンデッド化させても構わんのだからな」
「ぐ・・・この野郎、あ? 上から、手榴弾だっ!」
指揮官ヴァンパイア目と思っていたら、何で目の前に手榴弾が。
いや、それより即刻地面に伏せなければ。
「はっ? 手榴だっ!」
「逃げっ!」
『ドカンッ! ドカンッ!! ドカンッ!! ドカンッ!』
ヤバイ、周囲の様子が全く見えない。
土煙と炸裂音で、状況が掴めないぞ。
それに、フランシアは無事なのか。
「ケホッ! ケホッ!」
「まだ生きていたのか、これで殺してぬっ?」
立ち上がった、フランシアが土煙の中に見えた。
回転輪胴式拳銃を指揮官ヴァンパイアが撃とうとしている。
させるか、頭から戦斧を振り下ろしてしまえば。
「な、ななな・・・」
バタリと、指揮官ヴァンパイアは力なく倒れた。
アンデッドの弱点は、頭だ。
そこを、かなり重い戦斧に叩き潰されたのだ。
もう、これで悪さは出来ないだろう。
「フランシア、無事か?」
「ええ、命だけはね・・・はぁ~~上に銀機竜が飛んでいたのね?」
空を見上げるフランシアの視線を辿れば、確かに一騎の銀色は竜が飛んでいた。
今のは、あの銀機竜が助けてくれたのか。
お陰で、命拾いはしたが、これからどうしようか。
「痛っ!」
「フランシア、足をやられたな」
フランシアは、足に軽傷を負ったようだ。
爆音で気がつかなかったが、ゾンビ兵が銃を撃っていたようだ。
その流れ弾の一発が、彼女の右足を貫通させたようだ。
「歩けそうじゃ無いな」
「ええ、悪いけど肩を貸してくれる?」
フランシアに近づくと、手を伸ばしてきたので、その手を掴む。
「ここからは後方を目指そう、向こうには衛生兵も居たしな」
「そうして頂戴、これじゃ私は戦えないし」
俺は、後方を目指して行だす。
フランシアに肩を貸しながら。
この調子なら、第一塹壕線まで楽に行けるだろう。
『パンッパンッパンッ!』
『パンッパンッパンッ!』
何だ、また騎兵隊か。
いや、アレは騎兵隊であって騎兵隊じゃない。
あの黒い鎧は、黒騎士隊だ。
連中は、片手に騎兵拳銃《ロート9》を構えて撃ちながら馬を走らせてやがる。
「ねえ、置いて行ってよ?」
「アホ、んな事が出来るかってんだよっ!」
例え、黒騎士がどんなに強かろうと、フランシアを置いては行けないぜ。
「あははっ! 有り難う」
「喋っている暇があったら戻るぞ、さっきの塹壕の方が近いからな」
フランシアは、笑顔を浮かべ、それから真剣な顔付きに戻る。
どうやら、ヤル気を取り戻したようだ。
塹壕線まで、後少し。
段々と近づいてくる、黒騎士部隊だが、奴等はまだ撃ってきやがる。
『パンッ! パンッ!』
『パンッパンッパンッパンッ』
奴等、しつこいな。
だが、もう後は塹壕は少しだ。
『カンッ! カンッ!』
「うわっ! 危なかったぜ?」
俺の腰と肩を、騎兵拳銃《ロート9》の銃弾は突っついたが、平気だ。
この鎧は、ある程度頑丈に作られているからな。
遠距離からの拳銃弾くらいなら、軽く弾き返せる強度は持っている。
そのお陰で、弾は貫通しなかったぜ。
さて、塹壕内に入ったが、連中は・・・。
『ドドドドドドドドドドーー』
『ドドドドドドドドドドーー』
第二塹壕線の後方部隊も、黒騎士の存在に気がついたか。
軽機関銃や重機関銃を撃つ音が聞こえる。
その効果は薄いようだ。
連中自身の鎧もそうだが、連中の乗った馬も機械馬だからな。
あの鎧と馬の装甲は、重歩兵の塹壕鎧より、軽くて頑丈に作られている。
「うっ! まだ、こっちに来やがる? 後方部隊は無視するのか?」
「先に、私達を獲物として定めたのよ」
塹壕の中から外を見れば、黒騎士の連中は追撃を止めない。
フランシアは、塹壕内の地面に横たわり、両手に対戦車用銃を抱える。
「それで、奴等を殺ろうってか」
「一人くらいなら、確実に仕留められるわ」
フランシアは、まだまだ戦う積もりでいるな。
勿論、俺だって同じだぜ。
戦斧は、ここに置いて、周囲の死体を漁れば。
まだ原型を止めた、ゾンビ兵やスケルトン兵の死体。
奴等の腰に巻いたベルトには、柄付き手榴弾がある。
これを集めて、黒騎士の連中が来れば投げつけてやる。
「来たな、これでも喰らえっ!!」
『ドカンッ!! ドカンッ!!』
適当に投げた数個もの手榴弾は、何度も爆発を起こす。
それを喰らって、黒い機械馬達は慌てふためきだす。
「ヒヒーーンッ!」
「ぐわっ!?」
「うわぁっ!」
「ヒヒーーンッ!?」
何人かの黒騎士達は、炸裂した手榴弾の音に驚いた、黒馬から落馬する。
だが、それでも、他の黒騎士は塹壕内を目指して走ってくる。
「ヒヒーーンッ!」
「はぁっ!!」
塹壕を飛び越えた馬から、飛び降りる黒騎士。
奴は、落下の勢いを利用して、そのままロングソードを抜いた。
「ぐっ!」
『キンッ』
それを、俺は戦斧で受け止めたが、向こうの方が力が強い。
俺より小さな体躯なのに、どうやって力を出しているんだ。
『ドーーンッ!!』
「ぐわあーーーー!?」
黒騎士の奴は、肩から何かに貫かれて吹き飛んだ。
奴は、頭から塹壕の壁にぶち当たって倒れてしまった。
「この距離なら外さないわよ」
「フランシア、助かった」
今のは、フランシアが助けてくれたのかよ。
いくら、黒騎士でも対戦車用銃を喰らえば、ああなるだろう。
「安心するのは、まだよっ!」
「そうだな、他の連中も居るしな」
フランシアの言う通りだ。
今のは、一番前に居た奴を仕留めただけだ。
ーーそう思っている間に、塹壕内に連中が、ゾロゾロと走りつつ入って来たぜ。
「切り刻んでやるっ!」
俺は彼女を守るように立ち、黒騎士達を迎え討つ。
戦斧を抱えながら連中を睨むが、向こうも負けじと歩く。
ゆっくりとした足取りだが、連中は俺の出方を警戒して、中々襲って来ない。
「オラッ! 掛かって来いやっ!!」
黒騎士は五人、んで俺達は二人。
流石に、この数の差じゃあ負けちまうかも知れん。
が、しかし俺は諦めはしないぞ。
これでも、偵察隊の一員、つまりエリート聖騎士だからな。
黒騎士くらいは、何人居ようと、一人でも倒して見せないとな。
黒騎士を見ると。
バケツ型、コリント式と。
頭部を覆う兜に、着ている鎧も様々だ。
「貴様ら、よくも新入りを・・・」
ん、この女黒騎士、よく見れば死霊術師のようだ。
頭部を、スッポリと覆うキツツキ型の仮面。
冠型兜。
全身を包むローブ。
その下には、細身の体を守る鎧。
コイツが、黒騎士隊のリーダーか。
「奴は、新入りだったからな」
「我等の実力を侮るなよ?」
周りの黒騎士たちも、ヤル気だな。
さあ、来るなら来い。
俺の方も、準備万端だぜ。
「こっちから行くぜっ!」
「私だって、居るわよっ!」
『ドーーンッ!』
俺が前倒しの姿勢で走り出すと、その後ろから、フランシアも一発撃った。
「そんな攻撃くらい、先読みできるぜっ!」
「この距離なら、楽に交わせるっ!」
俺の振り回した戦斧は、軽く避けられてしまう。
フランシアの撃った、対戦車用銃の銃弾もだ。
「死ねっ! 聖騎士っ!」
「仲間の仇だっ!」
黒騎士は、左右から剣を振ってきた。
咄嗟に、俺は戦斧を両手で掲げて、奴等の攻撃を防いだ。
「今だっ! 私の魔法を喰らいなさいっ!」
「ぐっはっ!? うぅぅ?」
しまった、氷結魔法だ。
頑丈な鎧のお陰で、貫通こそ、しなかった。
その代わり、腹に打撃を喰らっちまったぜ。
「まだだ、まだ殺れる?」
「いえ、終わりよ? 後ろを御覧なさい」
「うぅ・・・私の事は気にしないで」
立ち上がって、直ぐに反撃しようと構えたが、黒騎士リーダーは不気味に嗤う。
奴の指差した方を見ると、フランシアが二人の黒騎士たちに拘束されていた。
人質か、全く・・・どこまでも卑怯な連中だぜ。
済みません、また第二話を間違えてました。
11月、16以降に見た人は気にしないで下さい。
今度は3000文字になってますので。
それと、第四話は短い文字数ですので。