蝉の鳴き声と問題集
木洩れ陽が地面に綺麗な模様を描き、蝉は鳴き、地を燃やすように照らす太陽だけどそれは毎年の事で飽きて来たところ。
その日、この奈良市内は今年一番の最高気温を叩き出していた。そんな中夏休み初日にして学校で補修をしにきている者がいる。
「夏休みだぞー何してだ俺達は。このバカヤロー」
「どうして棒読みなのさ、補習だよ、補修。緒々井」
三九度。
流石にニュースにも取り上げられる、その温度は外出は控えるようにと繰り返し放送される。それなのに学校は補修をしろと言ってくる。
「夏休みは楽しんだもん勝ちだろーがー、なんでこんな事してんだーよちくしょー!」
「馬鹿だから仕方ないよ、僕たちは」
先生に渡されたのは百ページにも及ぶ問題集だ。それを毎日やり、補習最終日にはテストをするらしい。
「駆だろうが馬鹿だろー」
高校二年生になった二人は学年で一番頭が悪い。この進学校に入学できたのもすごい事だ。
奈良県では一番と言っていいぐらい偏差値が高い学校。去年までは学年トップの座を駆と緒々井で争った。だが一年の三学期に遊びすぎたせいか今や二人はこんな様なのだ。
「蝉うるせー」
窓から見えるグラウンドでは、野球部の声とそれに負けるもんかと蝉が勢いよく鳴いている。少し山に囲まれたこの高校では、夏になると蝉の鳴き声で耳がおかしくなりそうになる。「まぁいいや。やろっか」駆はそう言い高校二年生の夏を楽しむ事にした。問題集と言う大きな壁を目の前に溜息をする。
蝉の鳴き声は消えることもなく、気付けば十五時を回っていた。
「あ、今日皆で集まるんだっけ?」
「もう問題集は明日にして、さっさと行こーぜ。やってらんねーよ」
そういう緒々井は真面目で駆より十ページも問題集が進んでいた。
「じゃあ、行くか緒々井」
「あぁ!」
そして二人は学校を後にした。
学校を出た二人は、友達が待つ三条通りのファミレスに向かう事にした。
アスファルトから感じる熱気と、太陽からの紫外線が肌にしみる。暑いとかではなくもはや熱いのだ。違うな、痛いのか。
歩道沿いに店が並ぶこの通り。歩道から見える店内で、そこは昔の駄菓子屋のような所もあれば、今から行くファミレスもある。そんな昔ながらの風景を見に来る外国人も多い。
「友南」
「は、どうしたんだ? 緒々井」
「いや、駆さ、あいつの事好きなんだろー告白しちまえー。夏は楽しめ。高校生活、青春をおくれー」
そんな事を淡々と言うが、そんな顔が真顔なのだ。何を考えているのやら。昔から駆の幼馴染みである緒々井と友南は保育園の時からの仲なのだ。
「いいじゃんか、俺は構わねーぞ。友南と付き合え。いい女だよ昔から、優しい可愛いそして胸もある!」
「いや、いいよ別に」
「何がだ? 胸か? 大事だぞ! そこは」
駆からすれば友南は幼馴染みの付き合い。恋愛対象としてみることはほぼない。確かに可愛いが一度は恋愛対象として見た事はあったが、やっぱり友南とは幼馴染みとして一緒にいたい。そっちの方が……。
緒々井は昔から荒っぽい性格、適当で雑。そして口調も良い方ではない。考える前に喋ることが多く、クラスメイトからは嫌われたりもしている。けれど頭がいい。腹の立つやつだ。
「緒々井こそ好きな子はいるの?」
「好きな子ってなんだよ、好きな子って。そんなのいる訳ないだろー、めんどくさい」
と言いつつも緒々井には好きなやつがいる。それは大凡検討がついている。それは駆の妹だろう。
この暑さで脳がやられそうだ。歩いて十分もすればファミレスがあるはずなのに今日はやたらと遠く感じる。そんな時は曲でも聴いて時間の流れを誤魔化す。テンションの上がる曲を聴けばあっという間に一曲が終る。そうすれば時間の流れなんて操れる。そう感じるだけなのだが。
「駆、もーすぐ着くぞーってイヤホンしているのかよ。おもんねーやつだな」
イヤホンからは音が漏れ、蝉と横切る車のエンジン音。緒々井からすれば雑音にしか聞こえないこんな夏にもう呆れていた。
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