"マルタ"収容施設建築中止
令和5年3月末から4月上旬にかけて三重県を中心に大きな被害を出した"マルタ"を閉じ込める建屋の建設計画が、正式に中止となったと複数の関係筋から明らかになった。建設計画の中止は大きな被害を出した"マルタ"災害の封じ込めにとって、大きな後退となる。
今回の"マルタ"災害は、過去に例の無い特異なものであった。その最大の特徴は多くの犠牲が事前の警告により避けられるはずのものであったにもかかわらず、避難や対策の遅れが被害を拡大させたことである。我々はこの事実を重く受け止め、今後の災害対策に生かさなければならない。
列島を恐怖におとしいれた"マルタ"は直径約60cm、長さ約3mの丸太で、時速10kmの低速で移動しながら通過地点にある自動車、家屋などを破壊し多数の死傷者を出した。
すでに広く知られている通り、"マルタ"の接近を知った住民や自治体では当初は避難や対策を検討したが、検討を重ねるほど関係者全員が何故かその脅威を軽視しするようになり、対策が取られなかったことが被害を拡大させた。
内部構造などは明らかにされておらず動力源は不明だが、"マルタ"は坂を転がり上がる、破壊した障害物を乗り越えるなどの様子が確認されており、単純な位置エネルギーによる落下などではないと考えられる。緯度の低い地点では若干の加速が認められたため地球の自転との関係が指摘されている。
通過後に残された破片のDNA 分析から、ヒノキ科スギ属の丸太であることが判明しており、95%の確率で吉野杉とされる。
"マルタ"の移動はほぼ直線であり、破壊できない障害物に衝突するとそれを乗り越えるか進路を若干変更した。進路の予想は比較的容易であり、奈良県吉野郡での発見直後から常時観測され、通過予想地点の自治体に通報された。しかし、避難の遅れにより家屋や車両などの物的な被害のみならずこれまで確認されているだけで86名の死者を出した。
内陸部で発見されたことから国外から持ち込まれた可能性は低く、海外で同様の事例も見当たらない。科学的な説明もつかないことから、地球外生命体による侵略の始まりという噂まで出るほどであった。
三重県松阪市では24時間前に内閣府からの連絡で"マルタ"の接近を知り、市内全域に避難勧告を出したが、同市住吉町の田中さん宅の母屋に"マルタ"が衝突して破壊され、祭りの打ち合わせに集まっていた住民5名が死亡、12名が重軽傷を負った。
四日市市では12時間前に消防庁から連絡により自治体から避難勧告が発令されたが、同市釜裏町の化学工場に衝突し、工場の従業員と周辺の住民18名が死亡した。
被災者の多くが自治体からの避難指示や勧告、警告を知っていたが、実際の避難行動に移ることなく犠牲となった。生存者は一様に「まさかこのようなことになるとは思わなかった」と証言している。
所管官庁も当初の内閣府から、総務省消防庁、農林水産省林野庁と次々と変遷して対策の遅れを招いた。林野庁では当初、双腕重機ASTACOによる捕獲が計画したがリース費用の決済が下りずに頓挫した。
対策が遅れる中、最終的に"マルタ"は伊勢湾にぶつかって進路を変え、伊勢市元岡の名林小学校の空のプールに転落して、それ以上移動できなくなった。
"マルタ"が鉄筋コンクリート造の建物を破壊できないことが確認されていることから、政府は同校のプールを鉄筋コンクリート製の構造物で囲む計画を立てた。しかし多額の費用がかかることと、地元自治体の反対があり、また与党内からも慎重意見が相次いだことからこの度、計画の正式な中止が決まった。
プール内に転落した"マルタ"は、プールの壁を乗り越えることができずに、今日まで底面を往復するように運動を続けている。これまでに、障害物の衝突による破損や、プール底面との摩擦による摩耗が観測されており、いずれ"マルタ"は縮小もしくは消滅することが予測されている。また、増殖あるいは他の木材による同種の現象も今のところ確認されていない。動力源などの解明も進んでいないことから、焼却などの破壊措置にも反対意見が多く、プールに転落防止の網をかけた状態で監視されている。
前述の通り移動は直線的で低速のため、万が一プールから出ても進路の予測、監視は容易である。一般の人の対策としては、自治体からの情報に注意して、接近時には破壊されない鉄筋コンクリート造の建物に留まるか、直前でも左右1.5m移動するだけで被災を回避することができ、人的被害の予防は容易である。
また、"マルタ"の実体はスギの丸太であり、火炎放射器や様々な物理的手段による破壊も有効と推測されている。移動速度の時速10kmはジョギング程度の速さであり、遭遇した際にも回避は容易。つまり"マルタ"によりこれ以上に深刻な被害が生じることは予想しづらい。"マルタ"の対策よりも、近年増加している大型台風などへの対策が優先されるべきであろう。
有人による24時間体制の監視も、現場の負担となっていることから、センサーとカメラを使った遠隔での監視に切り替えられる。多額の費用のかかる封じ込め施設の建設は必要無いが、今後も定期的に監視される必要くらいはあるだろう。