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これがあるからやめられない  作者: ニシザキ
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07

   城慧一・4


「はあ~、やっぱ写りいい」

 オレがVIDAを眺めて呟くと、濱は「またですか」と呆れた。

 なにが、またですか、だ。この古さと新しさが同居した佇まい、ひかえめにも主張する日々果という名前、バックの青空とのコントラスト、最高だろ。

 VIDAはタウンルミナスと同じ出版社のフード系女性誌だった。今回はフルーツ特集らしく、色鮮やかでフォトジェニックなスイーツが多く掲載されている。

 タウンルミナスの出版社から再度の依頼が来たのは正直予想外で、それを轍が了承したのはさらに予想外だった。編集部が違うと依頼を断ったということを知らないこともあるそうだ。

 共同経営者の轍に報告すると、また昭和親父のように目を閉じた後、轍が顔を出さないことを条件に頷いた。

 しかし、本人もどう店が取り上げられるのか気になっていたようだ。撮影当日はロールカーテンの奥のスタッフルームで様子を窺っていた。こっちが不安になってしまって、結局、定休日だというのに濱に臨時手当を出して轍を見張ってもらった。

「城さん素敵ですから、とても絵になりますねえ」

 と、おだてられてオレはめちゃくちゃ顔を出した。仕方ない。嫌じゃないけど。

「ひっ」

 カウンター越しに笑顔をつくっていると、カメラマンの女性が恐怖の悲鳴を上げた。視線はオレの背後を捉えている。

 振り返ると、ロールカーテンの細い隙間から大きな瞳がこちらを覗いている。よく見ると、それは巨大な熊の着ぐるみだった。

「ス、スタッフの方でしょうか?」

「調理人です。顔出したくないのに気になるみたいですねー。あとで殴っときます」

 にこやかに謝罪すると、カメラマンは気味悪がりながら納得した。

 完成した雑誌の写真は、もちろんロールカーテンの隙間を切り落としたものだった。

 VIDAの掲載効果か、雑誌発売の翌週末から日々果はさらに忙しくなった。秋サンドの売れ行きも好調で、イートインではフレーバーティーとともに食べられる。SNSの書き込みは増え、夕方に売り切れるサンドの種類も多くなった。

「すみません、フルーツサンド、まだありますか?」

 平日の夕方に顔を見せたのは、いつも寄ってくれる女子中学生だった。痩せっぽちだったのに、少し頬がふっくらしてきた。育ってるなあ。

「はい、現在キッチンでつくっております。五分ほどお時間いただきますが、よろしいですか?」

「あ、はい。あと……」

 女子中学生はもじもじと恥ずかしそうに俯いた。お?

 女の子の視線は背後、店の入り口へと向く。オレもそれを追う。そして、不覚にも大口を開けて絶句してしまった。

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