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「さあ、晒しなさいな。お前の全てを」

六話連続更新、終わり。

お付き合い頂きありがとうございました。

これから更新は不定期になります。

「晒しなさい」と言いつつ、晒す前で終わっています、すみません。

それほど長くするつもりはないので、なるべく早く更新出来るように頑張ります。

「……愚かなのは、お前よ、マウ。この駄猫が。生意気に小難しいことを考えているんじゃないわよ」

「え、ここで私、罵倒されるの?」


 思った言葉ではなかったのか、私の言葉にマウは冷めた顔の仮面を外し、いつもの間抜けた表情に戻る。




「ええ、馬鹿なのはお前よ。馬鹿猫が。

 いい? その日差しに溶けた頭でも分かるように話してあげるから、よく聞きなさい。


 お前は全てを壊す化け物だなんていうご大層な存在にはなれないわ。

 私と美味しいお茶を飲む為に大きな力を使う、お前はそんな大馬鹿猫なの。


 それにね? お前の力は壊す為だけにあるのではないのよ。

 夢は見るもので叶えるものではないと諦めていた私に、お前は夢を叶える蒼い薔薇をくれた。

 お母様を亡くした悲しみで流れた私の涙を、お前はコンペイトウの雨で止めてくれた。

 第二王子との婚約による重圧に潰れそうな私を、お前はジテンシャに乗せて慰めてくれた。


 それだけじゃないわ。お前の与えてくれた書物のお陰で私だけじゃない、領民達の生活も笑顔が多くなった。

 お前の力は多くの人の悲しみをなくすものなの。


 私はそれを知っているから、どれだけの人間がお前を化け物と謗ろうと、私だけはお前の全てを肯定するわ。

 何があろうと、何が起ころうとね。


 だからお前は安心して私に飼われていればいいのよ」




 マウの顔を両手でしっかりと包み、口付け出来そうなほど顔を近付けて捨てられそうな子猫のように怯えて揺れる瞳としっかり目を合わせる。


「あ、ぐ……で、でも、むぅぅ……」


 マウは自信に溢れた私の言葉に言い返したそうで、でも言葉が出ないのか間抜けで愛らしい鳴き声を出しながら唇をむにむにと波打たせている。


「その可愛らしい態度は何なの。お前は私に唇を吸われたいのかしら」

「うわぁ、だいなし。ソマリお嬢様、さっきのいい台詞全部だいなしですよ」


 理性で押し止めるよりも早く溢れた欲望の声を聞いて、熱を持って潤んでいたマウの瞳が一気に冷める。

 仕方ないではないか。積もり積もってこじらせ過ぎた恋心は、ここ数年で芽を出した性衝動と混ざり合ってひどいことになっているのだから。


「うるさいわよ、駄猫。己を貶しめる言葉を吐く唇なんて塞いでしまった方がいいでしょう」

「ははは。お嬢様ってばイッケメーン」


 マウは猫のように目を細めて、にんまりと笑う。私に触れていた手を首へと回し、抱きついて耳元に囁いた。


「……ね、ソマリさま。もっかいゆって」

「マウ?」


 耳にかかる息といつもより舌足らずに聞こえる声がくすぐったい。

 ぎゅうっと幼子のように首にしがみついているせいでマウの顔は見えないが、視界に映る白い耳は紅に染まっていた。


「あなたに拾われた(マウ)が、誰のものなのか。

 ばかな猫にもわかるように、もっかいおしえてよ」


 体の奥が切なくなるほどの甘い痺れが耳から脳へ届き、全身へ広がる。

 ぞわぞわとした熱で何かが爆発しそうになるのを抑える為に、マウの体を強く抱き締める。苦しいのかマウの漏らした小さな声が焼けるように甘く聞こえて、これ以上、私を深みにはめるなんて、なんて愚かな猫なのだろうと思う。




「これから何が起ころうとも、未来永劫、お前は私の馬鹿で愛しい、大切な猫よ。


 覚悟なさいな。たとえお前が逃げようとしたとて、離したりはしないわ。

 頭から爪先まで……いいえ、涙の一雫から魂の一片まで、お前は私のモノよ。


 ……これで足りないならば、ねだりなさい。

 体だけじゃなく、心にも魂にまで、首輪をつけて縛って欲しいと」




 火傷しそうなほど熱くなった舌を動かし、負けじと赤く熱を持った耳へと言葉を吐く。

 離しはしないと示すように、骨が軋むほど強くマウの柔らかい体を抱き締める。


「さあ、今ここで宣言なさい。

 お前、マウは、このソマリ・スノーシューの馬鹿で愛しい……

 大切な大切な、愛する(ひと)なのだと」


 小さく、本当に微かにマウの体が震える。震えに合わせて私の首が熱く濡れていく。

 背中に回した手を緩めると、離れないように私の首に絡むマウの手に力が籠もった。


「離れなさい、マウ。顔が見たいわ」

「ううぅ……だめ、だめですよぅ……今、めっちゃ放送禁止な顔してっ」

「ぐだぐだとうるさいわね。何が禁止か知らないけれど、私が見たいと言ったら心の奥底まで全て見せるのがお前の仕事よ」


 腕を掴み、引き剥がす。いやいやと駄々をこねて泣き顔を隠す仕草が可愛らしくて仕方ない。

 この馬鹿猫はどれだけ私を煽れば気が済むのだろうか。たまらなくなって服をめくり上げ、白くて柔らかそうな腹を剥き出しにしてやると、顔を隠していた手で私の腕を掴んだ。


「ぎゃーっ!? な、なんで!? 何で脱がすの!?

 今、そういう空気でした!?」

「お母様が言っていたわ。目の前の料理がベッドの上で『どうか食べないでください』と愛らしく震えている時は、『どうぞ、召し上がれ』の意味だと」

「それ問題しかないから改めてくれません!? 『押すな押すな』じゃないんだよ!」


 にゃあにゃあと喚くマウの顔は涙で濡れていたが、もう新しいものは流れてはいないようだ。

 掴む手に指を絡め、まだ熱を持って潤む瞳を見つめると、ばつが悪そうに顔を反らす。

 これでは先ほどの二の舞だ。私は絡めた指に少し力を込める。マウはびくりと指を動かし、おずおずとこちらを見つめ返した。


「ソマリさま?」

「言ったでしょう? お前の仕事は私に心の奥底まで見せることだと。

 ……全て話しなさい。お前は駄猫だけれど、いいこだから出来るでしょう?」


 微笑んでそう言えば、マウはむぐむぐと口を動かしてから、やっと全てを私へ打ち明けた。


「うぅぅ……じゃあ、恥ずかしいけど言いますよ……」

「いいこね」

お読み頂きありがとうございました。

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