ギルド組合員と国の騎士
その日、私は運搬の仕事を請け負っていた。
二人でないと受けられないといわれて、ギルドに増員を要請したところ、呼んでもいないのに、またもやロイ・アデルアが派遣された。
余計な人員を増やしてまでこの仕事を受けたのは、依頼人の圧もあったが、何より仕事の目的地が私の故郷に近かったからだ。
仕事のついでに、長年離れて暮らしている養母に会いに行けるかもしれないという下心もある。
その点、ロイとは付き合いが長いし、私の育ての親とも面識がある。
彼が来るのならば、抜け出すのも気が楽だ。なんだったら荷物を届け終わったら、そこで解散にしてもらおう。
奇妙な依頼ではあった。
荷物を二人で交互に持ち、どちらが持っているかわからないようにして運べだなんて。二人しかいないんじゃ、あまり意味がないのではという疑問も残る。
きっと、攪乱したかったけれど、資金的に二人雇うのでやっとだったのだ。
依頼人の事情をとやかく言うのもなんだし、つべこべ言わず、その通りに努めよう。
ギルドへの依頼は決して安いものではない――とは言っても、決して法外な値段な訳でもない。ギルドへの依頼は、仕事に見合った値段が設定されている。
(普通に運送屋さんに頼むのでは、ダメだったのかな?)
不自然な依頼に首を傾げる。
小国、ドルカトル王国が、ギルドによって守られる国になったのは、私が生まれるより前からだ。老人からすれば、ついこの間とも言えなくはない。
かつて、この国を守る組織は、王家が指揮する騎士団のみであった。
しかし、そういった力を持つ者たちが守るのは、王都だけに偏っており、国の境や魔物が出る田舎などでは民が身を守る術はなかった。
どこからともなくこの国にやって来たギルドマスターと呼ばれる男は、「ギルド」を設立した。ギルドは瞬く間に国民に受け入れられ、王家を取り残すようにして国の守りの要となった。
ギルドは貴賎を問わず、金銭で公平に民を守る機関として、この国の人々に根付いた。それどころか、国防そのものがギルドに委託されるようになってからは、国の守りの要にすらなっている。
怪しいとは思っていた――にしても、初日から剣を抜くことになるとは思わなかった。
王都をでて半日ほど歩いた街道で、数人の騎士が我々の道を塞いだのだ。
「中を検めさせてもらいたい」
一番上等な騎士服を着た赤銅色の髪の騎士が、緊張した表情で私が背負った荷物を見る。
私の顔もジロジロ見る。
なんだったら頭のてっぺんから爪先まで刺すように見る。
残念ながら今はロイが荷物持ちなので、私の荷物を開けられても目的のものはない。しかし、下着などの私物を見られるのかと思うと、げんなりする。
「騎士様、これはギルドに依頼された仕事です。荷物を開けることは出来ません」
無理強いすれば反撃も厭わない事を知らしめる為に、抜刀して距離を置く。
国の騎士に狙われる仕事だというのなら、確かにこれはギルドに依頼すべき仕事に相違ない。
「騎士様はこれを開ける為の権限をお持ちですか?」
「……」
美しい、とも表現出来そうな端正な口許をきりりと引き結んで、力強くこちらを見る。
返事がないところを見ると、誰かの勅命として許可されたものではないのだろう。しかし、こちら側にも騎士の要求をまるっと無視出来るほどの根拠も無い。――国の利益を損なうような物でないという確証はないし。
「私たちの旅程は長くても三日ほどです。どうしてもと言うのであれば、同行して受け渡した後に受取人と交渉してご確認いただけると思いますが」
私の仕事は荷物を受け渡すまでだ。その後、受け渡した相手と騎士が交渉すれば良いことだ。
もっとも、依頼主やその関係者に無体を働こうとするのなら、それを守る義務もあるのだが。
「略奪するとおっしゃるのなら別の対応をとりますが」
ロイは茶番に付き合うつもりは無いらしく、木陰で木の幹に背を預けて高みの見物を決め込んでいる。
「いや、ギルドと事を構えたい訳ではないのだ。同行する。どうか、受け渡す相手を確認するまで同行させて欲しい」
少し面倒なことになったが、騎士がいれば撹乱目的でなら役に立つだろう。
国に仕える騎士は品位を重んじる。
弱きを助け悪を挫くし、女性や子どもを軽んじない。
国に姫がいれば付き従い、守り敬う――あいにくこの国には姫はいないのだが――とにかく、男子が一度は憧れ、娘達が一度は夢見る英雄的存在なのだ。過去には姫に仕えた騎士の献身が物語として発売されたくらいだ。
そんなわけで、この国では騎士は好かれる。私は除く。
もし荷物を狙う悪者がいたとしたら、ギルド職員より、騎士が大切な荷物を持っていると勘違いしてくれる確率が高い。利用しない手はない。
「付いてくるのは勝手です。邪魔はなさらないようにお願いします」
この場合、ロイに否やはない。私が受けた仕事なので、ギルドの要員とはいえ命の関わること以外は口を出さない。決定権は私にあるのだ。
「心得た。道中の警護は任せてもらって構わない」
おとぎ話に出てきそうな美しい赤毛の騎士は、誠実そうに騎士の礼をしながら、キラキラと嬉しそうに微笑んでみせた。
「私は国の騎士、ニコラ・モーウェルだ。お会いできて光栄だ、ひ……」
「ひ?」
(ひ、ひ?……ひもの?)
「いや、貴女の名前は?」
「ギルド組合員のタリムです。家名はありませんので、名は一つです。皆、タリム組合員とよびます。あちらは、ロイ・アデルア、ギルド職員です」
ギルドの職員は通常ギルド内部の仕事を行う。書類の処理とか人事とか、訓練などもする。
ロイが外仕事に出ることは少ない。
「タリム、タリム嬢だな」
なんだろう、この騎士、一瞬、犬が盛った時みたいな気配がした。
「タリム組合員です」
組合員はギルドに雇われた状態の者たちで、ギルドの厳しい規則に則って依頼をこなす。
騎士といえどそれを妨げるなら容赦はしない、と言う意味での名乗りだ。
「心得た。宜しく頼む」
そういうと、モーウェル騎士はやけに近い距離で私の手を取り握りこんだ。
間合いに入られるのは苦手なのに、全然、避けられなかった。
(あ、なんか鳥肌立った)
嫌な道中になりそうだと、こっそりため息をついた。




