95+必勝! 体育祭!/前
気温二十八℃、湿度四十%、降水確率五%。
朝の天気予報のお姉さんはそう言っていた。だからこそ今――
『《次は、全学年による障害物競争です》』
とまぁ、――晴々とした今に体育祭が行われている訳で。こんにちは、アサキです、とりあえず――帰っていいですか?
「よーし次俺様の出番だぜー!!」
其の台詞今日だけでもう四回目だけど。そう思わすのは横で騒ぐカイトその人以外に誰も居ない。
こいつどんだけ出るんだよ、たかが体育祭で何盛り上がってるんだっつの。ってぐらいテンションが上がっているカイト。え、ユウヤ? 係の仕事に行っていますが何か?
「あれ、そういえばアサキ、君は保健委員の仕事があったんじゃなかったのかい?」
「ユウヤにパスった」
「酷いな君は」
そういうことです。だって暑いもん、動きたくないんだってば。あっついあっつい、皆何でそんな張り切れるのかよく分からない。
ユキは苦笑しながら此方を見るが、特にお咎めはないらしい。僕は被った帽子を被り直しつつそう言えば競技に行ってしまったカイトの後ろ姿を見送った。
「あともうひとつそういえばなんだが。――カイト、出場回数多くないかい?」
「嗚呼、ユキは知らないんだっけ?」
ユキがこれはまぁ可愛くキョトンとして僕を見る。ふっ、純粋な方に教えるのは忍びないが――僕は顎で斜め前を差しす。
「カイリ! テメェ負けたら承知しねぇぞ!!」
其処には真っ赤な旗を持ったジャージ姿のサクライ先生。普段のラフなワイシャツ姿から打って変わってだ。
「……先生が燃えているだなんて私は初めて見るよ」
「安心しろ、僕もだ」
なんでも、
「最下位になったらアヤメとキクカワに奢らなくちゃいけなくなるんだからな!! 最下位だけは絶対阻止!!!!」
とのこと。
――この先生達生徒をダシに使って何してるんだか。
「ふむ、だが心配せずとも三組が最下位なのではないか?」
「そう思ってたみたいだよ、先生も。だけど今年は団体種目が多くてやばいらしい」
そう、団体種目の首位を練習の時から三組が掻っ払っていってるのだ。個人でカイトや僕が取っても微妙なラインらしい。
「嗚呼、大変だね、先生も」
「嗚呼、大変だな、先生は」
僕等は気楽にサクライ先生を見ただけだった。
午後。
昼休憩。辺りにカメラを設置して、我が子を撮らんとする父兄が目立っていた場所には、無防備にカメラだけが残されている。勿論その中に、うちの父兄のがある訳ないが。来る訳ないし。
――と思ってたのに。
「アサキくーん!!」
見知った声に振り向く前に、背後から抱き着かれた。
「ぐは」
「あら、感動のない悲鳴ね? 其処が可愛いんだけど!」
「ウミー、それ以上やるとアサキが羽交い締めにされいだだだだだ!!!!」
「何か言ったかしらん?」
「よ、弟」
うちの兄貴も含めた仲良し三人組でした。何してんだよアンタ等。
「痛いよー、アサキ助けてー」
「暑苦しいから離れて下さい」
ウミさんが離れたと思ったらセツさんが纏わり付いてきた。マヒルが一番マシって凄いことだよ此れ。ウミさんにアイアンクローを喰らっていたセツさん、何時もこんなのかお前等。つかセツさん髪色何時から銀に?(※一斉に疑問が爆発中)
「私はカイちゃんの勇姿を見に来たのよ!!」
「俺はつられてお前等を見に」
「付き添いー」
セツさん存在意義ゼロだ。
しかし午前中から居たらしい三人は午後授業の為に早々に帰って行った。暇潰しかコラ。
体育祭の方はというと、順位は赤青黄の順。言い換えれば一組が首位だということだ。しかし青こと二組とは僅差だし、残りの黄、三組は午後の団体種目が残っている。
……どうなるやら。
そろそろ委員会の手伝いを押し付けたユウヤのところにでも行こうか、なんて考えて、午後の種目まであと数分しかないことに気付く。まだ居ないか、なんて。そう思っていたら前から見慣れない男子生徒達が走ってきた。
「「ヒコク!!」」
ベタに背後を見てみる。
「いや、お前だから!!」
「ベタなボケかましてんじゃねぇよ!」
「うわ、駄目出しされたよ」
ユウヤだって可能性も無じゃないだろうが。彼等は誰だ? 見た感じは同学年の青ハチマキ、二組の生徒二人だが。
「んなことより大変なんだって!!」
「何が」
「――ユウヤが倒れたんだよ!!!!」
――耳を疑った。
あの馬鹿が? ありえないだろ、だけど、必死な彼等を見れば、尚必死に僕を探していたのは一目瞭然で。
「――は」
「え……?」
「あの馬鹿の居場所は、って聞いてんの」
どうせ寝不足とか、手違いとか、そんなだろうけど。彼等に言われた場所に僕は向かう、
肩に下げていたハチマキが落ちたことにも気付かずに。