94+悲惨な前日。
「あーした天気になーあれ!!」
カイト君はそう言って、自分の靴を遥か前方に素晴らしい角度で蹴り上げた。ブランコからの投球――いや、投げてないから蹴球?――のタイミングもピッタリ! 数m先まで飛んで行った靴を俺は見つめた。ユウヤでっす!
「記録、木」
「よーっし! 俺の勝ちー!!」
「しかし靴の向きは横向きさ」
「うぉおおおお……!」
そんな遠くからユキちゃんが言えば、カイト君が唸る。畜生負けた、俺の記録は鉄棒だったのに!!
配置を言えば鉄棒の奥に木、だ。
「曇りかよ~、折角なのに燃えねぇな……」
靴取ってー! とカイト君が言うと、……お、其れを拾ったのは珍しくアサ君だ。
「先程の発言、僕に対しての宣戦布告とみた」
ぽーん――
「ちょ!!!! アサキのばかー!!!!」
アサ君は鬼畜にも、カイト君の靴を公園の外、即ち――車道に投げた。車に気付かれないカイト君の靴は車の下を何度か逝く。
「明日晴れろと願うだなんて、僕に喧嘩を売っているとしか思えないな」
「だからって靴を車道はないっしょ、なぁアサキ?」
靴を片足で取りに行ったカイト君。ベンチに座って物語るアサ君に精一杯の引き攣り笑いで応対している、頑張ってカイト君。
「ふふっ、皆元気ですね」
「そーお? 何時もこんなだから分からないやー!」
と、声をかけてきたのはアスカだった。今までニコニコ顔で見守ってたから急にびっくりしたよ。
「其れもそうですね。でも、ユウヤも明日が楽しみなんでしょう?」
「そりゃーもう! 勉強嫌いだけど、体育祭は大好きだしね!!」
「ユウヤらしいです」
アスカがまた笑う。会話から分かって頂ける様に、明日は体育祭だ。だからアサ君はあんなにアンニュくて、カイト君がハツラッてる訳だよね!
「アスカは明日、出れないんだっけ?」
「あ、はい。幾分体調が優れなくて……ごめんなさい、ユウヤに変わりに出て貰うことになっちゃって……」
「安心するといい! 此の、体力に関しては右に出るものが数人しか居ない俺に任せろ! アスカの分もみるみるカバーだぜ!!」
ふっ、決まった。其れはそうと、本当に俺がカバー出来るから、アスカは余り心配しないでね?
「半サボりな癖に」
「バレました?」
「アサキ、アスカ。ユウヤ聞こえちゃうから」
何か聞こえたけど俺には何もキコエナーイ!!
「体育祭か……さしずめ、私達のクラスと二組の一騎打ちだろうね!」
そして聞こえてきたのはユキちゃんの言葉だった。……うん? 三組は?
「ユウヤかカイトが居ないクラスは論外だろ」
「「えへへ!!」」
「褒めてねぇよ人論外」
人論外って初めて聞く単語だぞアサ君。
「天気予報的には晴れなんだろ? じゃあ出来るだろうなー」
「僕、途中から熱中症という名の自分探しの旅に出るから」
弟は一体何処に行こうというのか。
「大丈夫だろ! アサキが抜けても支障は…………――出る! お前リレーアンカーだろうが!!」
「テメェがやれよ馬鹿」
「一番速い人がやんだよ!」
アサ君は単発競技じゃ期待の星だもんねぇ。抜けたらもう俺達の勝利さ!!
「ま、今年も二組が勝つもんね!」
「去年も二組が優勝だったのかい?」
ユキちゃんの問いにもっちろん! と頷いた。ふっふっふ、今年も優勝貰うんだからな!!
「よーし! とりあえず前祝いにケーキを買おう、アサ君何が良い?」
「他クラスと祝ってどうする、ショートが良い」
ツッコむ癖にちゃっかりしてるわこの子。