93+ませた少年、馬鹿な青年。
――此れは一体何なのだろう。
……ああすまない、ユキです。今私はもしかしたらピンチなのかもしれない。
「あーだりィ……」
「マジシケてんなぁ……」
そんなことを言う高校生程の集団が、私の進行方向に数人居る。しかも道一杯に。今から引き返す? ――逆に怪しまれるだろう。あからさまに良くない学生、不良だなあれは。このまま行くのか私は、そして絡まれるのか私は、というか先に誰かが絡まれているではないか……!!
「シケた金額しか持ってねぇなぁ?」
「はっはー、大学生なんてそんなもんスよ?」
しかも相手大学生!? 最近の大学生は弱いのだな……いや、高校生が強いのか?
「……はてさて、どうしたものか」
「――何だテメェは」
――考えてる内に着いてしまった。
最近、私は馬鹿なんじゃないかと思うのだがどうだろう。アサキにはよく言われるが、認めたら負けなのではないか?
「いや、そのー」
「あん? テメェ中坊か? 今日は大学生やら中坊やらに絡まれる日だぜ」
絡んでる訳じゃありません、だから帰して下さい。
「あ、君学校に居た」
「え? あ、貴方……」
火事場の馬鹿力か何かで逃げようかと思ったが、何やら声をかけられたのを聞いて其方を見た。声をかけてきたのは絡まれていた大学生。……ああ、この前学校に居た……
「ユウヤの知り合いの」
「セツだよ、ユウヤの友達君や」
セツさん、ユウヤも確かそう呼んでいたな。そうかそうか、この人があの――って何でこの人絡まれてるんだろうか。
「いやぁね、この高校生達がお金に困ってるっていうから」
「確実に困っているのは遊び金じゃ――」
『あぁ゛!?』
しまった口が滑った。
「とにかく君、こんな怖いお兄さん方に絡まれたら大変だから何処かに行きなさーい」
「もう遅いと思うのですが……」
高校生の不良方々の視線は全て、私に向かっているのですが。うわー、もうどうすれば良いのやら。
するとセツさん――とお呼びすることにしよう――は、はぁ、とため息をついてにこり、と笑った――数人の視線は全て私に向かっているから、彼等にはきっと其れは見えていないのだろうが――。
「年上にガン飛ばすのは良いかなと思って大人しくしてたけど――年下相手にそんなことする人には容赦しねぇよ、おにーさん」
笑顔の其の手に見えたのが、木片だったのは私にも分かった。
「二度とカツアゲなんざすんじゃねーぞ! わーったな!!」
『はい、兄貴!!!!』
「わーったら解散!!」
不良方々が本当に解散していった――一部血まみれで。
「ふー……。君、大丈夫?」
「え、あ、はい、ありがとう、ございます」
「へっへー! そう畏まるなよー、痒くなるぜ!」
私としたことが……本気で驚いた。さっきまで財布カツアゲされてた人が、木片ひとつで数人の不良をのしてしまった。木片って……三十cm弱の木片で……え、此の人何でカツアゲされてたんだろうか。
「あの、セツさん」
「ん、何さ」
「何で黙ってカツアゲされてたんですか?」
「え? ――あ! 財布取り返し忘れた……!!」
……真面目に聞いたにも関わらず、なんかもう検討違いのことで目茶苦茶落ち込んでしまった。ああもう、さっきまで不良を蹴散らしてした貴方は何処に行ったんだい。
「畜生……グッバイ、今月の生活費……!」
「生活費と言ってもシケた金額しか入ってなかったんじゃないですか?」
寧ろさっき不良方々を手なずけるんだから呼び戻せばいいのでは。しかし何言っても聞いてくれはしなさそうなので、私は愛想笑いでもしておくことにする。
「仕方ない、今月もあいつの家に泊まるか……それじゃあな、君」
「結局何も言わずに去る気なんですね」
人の前で衝撃的光景を見せておいて何もしないのか。木片だけで人々を殺到させておいて……!
「ふむふむ、じゃあ君名前は?」
嗚呼自由だこの人、馬鹿なのかもしれないな、ははっ! しかし馬鹿は扱い慣れているからね、私は。普段共にしているだけあるよ。
「サキネユキ、と言います」
「ユキちゃんね、ユキちゃん、覚えた覚えた」
じゃあね、ユキちゃーん! と言って、結局彼は去っていってしまった。
なんというか、不思議な人。
「ぴーんぽーん!!」
「口で言うなよ」
「マヒルー、また金取られちゃった☆」
「ぐふっ!? またかよお前!! どんだけカツアゲされる回数多い訳!?」
「つー訳でシロに言えないから今月も泊ーめて、そして腹減った」
「はいはい。……で、今回は何したの」
「適度に血祭り」
「サツ行って来い」
「平気平気! あいつ等はもはや俺の子分だぜ!」
「どんだけ不良を子分にするんだテメェ。ヘッドにでもなる気か」
「さぁな。でも今日はシめてやったんだよ、不良共が可愛らしい年下の女の子にまでカツアゲしようとしてたから」
「は、正義の鉄槌もまぁいいが、お前が財布取り上げ忘れてたかられる俺の身にもなれよ」
「肝に銘じまーす」
結局ユキは女の子に間違われているが、間違えられた本人も間違えた当人もそこんとこは未だ知らない。