8+買い物に行こう。/後編
ふっ、燃えちまった……完全に燃え尽きちまったぜ。何に燃え尽きちまったかって?
「母さん! 此れどうかな?」
「あらユウちゃんったら……こんなに可愛くなって……」
「本当にお似合いですね~」
とか何とか僕の前で言ってる人達について行く事に燃え尽きちまったんだぜ俺は! …………と、何か聞いた事のある台詞でこんにちはアサキです。……ダメだ! ツッコミが此れでどうする! 世界がボケで埋まる前に僕はツッコむんだ!!
……変な決意すいません、只今洋服売場の試着室前で一時間立ち尽くしています。
「アサ君! どう? 似合ってるー?」
「あー似合ってる似合ってる」
浅はかな肯定を送って其の場を乗り切る僕。さっきからこんな感じです。ユウヤを素で女と思っている店員さんは乗り気だし、何時終わるんだか分かったもんじゃない。僕の本屋は未だ……?
「お客様、本当にお似合いです、可愛いって良いですよね~」
店員さん、其れは可愛くても男です。
「ですよねっ! 親としても可愛くて可愛くてもう馬鹿になっちゃいまして~! もう可愛過ぎな娘ですみません!」
娘じゃない。
「可愛い娘さんに息子さん、羨ましいです~」
だから娘じゃな――そして僕は可愛くない!
大人がそんな話をして、僕がユウヤと服を選んでいる今の状態。
「あー君、どれが似合うと思うー?」
「此れで良いよ」
「ん~、確かに~」
なるたけ早く終わる様に、適当に良さそうなのを手に取る僕。ユウヤも満更ではない様なのでちゃっちゃと片付けたい所だ。
「んぁ、アサキー?」
「ん」
少しして。
僕を呼ぶ声がした。ショッピングモール内にある其の店から出た直ぐの通路に、見慣れた影を発見した。なので、
「あ、カイトく――」
バシッ!
ドカッ!
「え? ――キャー! ユウちゃん!?」
危ない危ない、とりあえずユウヤを蹴り飛ばして奥に追いやった。何やら母親の悲鳴も聞こえたが気にしない。
「やっぱアサキだ」
「何だ、赤の他人」
先程の惨劇を目撃していないそいつは、スタスタと僕に歩み寄って来てはニヘラッとしている。学校での僕の唯一の知り合い、カイトだった。
「いやあ奇遇だなアサキ、何してんの? そして赤の他人言うな」
「買い物。そして黙れ赤の他人」
ははははと笑い合いながら何やら火花が散る僕等。ふむ、何時も通りだ。
「ちょ、アサちゃんユウ君にな――あらお友達?」
「違うよ母さん、これは赤の他人だよ」
「お友達でーす!」
素っ頓狂な声を出す母親。まぁ僕に友達が居るとか勘違いしてんだろうな、違うのに。
「あらー、アサ君のお友達だなんて素晴らしいわ! 初めて見た!」
どれだけハードな家庭だ僕は。友達出来ない程に暗い家庭で育った覚えはない。
「聞いて下さる? 息子に初めて友達が――」
そう言って再び親馬鹿開始。店員さんもノリ気で会話発展させちゃってるよ。
「あー君何するのー」
「馬鹿! 来んな!」
「およ、アサキ何だよ其の子」
戻って来るなド畜生、折角蹴り飛ばしたのにあっさりカイトにバレてしまった!!
どうする、此れがユウヤだなんて口が裂けても言えない。……よし、知り合いの子という事に……
「知り合いのユウ――」
――って僕! ユウまで言っちゃったよ! どうしよう、オゥマイガット!(※英語的発音で)
「――従姉のユウリです!」
――誰だ。
冷や汗を掻きながら頬に人差し指を突き立ててユウヤが言った。っておいユウヤ! ユウリって実在する従姉の名前じゃなかったか!?
「そっかーユウリちゃんかー、やっぱ血縁か、通りで似てる訳だよな、可愛いし」
騙されたよ此の馬鹿。
「そ、そうそう、ユウリだよ」
此の時ばかりはユウリにしとく。そしてごめんなさい本物のユウリ、今だけ名前を貸して下さい。
「そっか、ユウリちゃんの服選びで来てるんだな。楽しそうじゃん」
何処ら辺が。
「楽しかったです~。今買い終わった所なんで」
心なしか声のトーンを上げて喋るユウヤのナイス判断に落ち着き、何時買ったか分からない服を持ってさっさと退散した。というかカイトは何をしていたんだ……?
「何でカイト君にバレちゃいけないのー?」
「そうよアサ君、お兄ちゃんが恥ずかしいの?」
「恥ずかしいよ、とにかくバレたくないよ」
普通だよ其れが。だって女装趣味のある――ただただ少女趣味なだけなんだけどさ――双子の兄って普通どう思われるよ、ねぇ。
まぁ……嫌いな訳じゃないけどさ、ぎりぎりで。
そして次なる本屋にて数冊の本(漫画)を買った僕は、何やら満足して家に帰りました。めでたしめでたし。
……ユウリに名前借りた事バレなければこのままめでたしめでたし。……バレない、よな……?