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78+雨、雨、雷、そして。


「やっぱ俺、アサキ探しに行く」


 そう言ってユウヤが立ち上がったのは、マヒル兄ちゃんやお母さん達が出て行ってから一時間以上経った頃だった。――空が轟き始めてから、ちょうど一時間くらい。


「あ……危ねぇから止した方良くね?」


「そうだよユウヤお兄、お母さん達に、任せるべきだよ」


 あたしとオトワが止めるのを聞いても、ユウヤは元通り座る気はないみたいで。


「だってだって、あんな近場の山なのに、母さん達まだ帰って来ないんだよ!?」


「でもお母さん達は大人だし――」


 空が光った、数秒後には五月蝿いくらいの轟音が。


「大人だって雷に撃たれたら死んじゃうだろ!!」


「だったらユウヤも同じだ!!」


 もはや喧嘩の勢いで言い合いをしていたあたし等。五月蝿い雷に負けじと大声で喧嘩してたから、オトワが部屋を離れていたことにも気付かなかった。




「ユウリお姉」


「何だよオトワ、今忙しい――」




「お母さん達から、電話」


 はたと立ち止まったあたし等。そして、雷と大声の合間に聞こえた電子音を聞き逃さないでいてくれたオトワに、少し感謝と謝罪。

 慌てて差し出された受話器を手に取れば、そんな調子のまま「もしもし!?」と声を荒げた。


『あ、ユウ? そっちは大丈夫?』


「平気! もう全然全然! ママ達は!?」


『平気よん♪ でも視界が悪くてね~。しかも兄ちゃんと義姉ちゃんがもー使い物にならなくて』


 ケラケラ笑うお母さんの背後から、物凄いテンパり様で『あ、アサちゃんはもう居なくなっちゃったのかしらね? あれ? えへへっ!!』とか『はっはっはっは』とか、もう何か駄目じゃん、と言いたくなるくらいの音声が聞こえた。家じゃああれだけのんびりしてたのに親バカは此れだから使えないね。


『落ち着け馬鹿親共!! あのアサキがこの雷雨の中慌てて走り回る訳ねぇだろうが! 平凡に雨宿りしてる確率百二十パーだっつーの!!!!』


 ママの声じゃないコレは、マヒル兄ちゃんか。ブラコンな癖に冷静な声音が、凄いなぁとあたしを感心させた。


「ユウリ、俺に変わって。マヒル兄出して貰って」


「え、あ、うん」


 手は差し出してくるし何時になく真剣だから、つい格好良いじゃねぇかコノヤロウとか思っちゃったじゃないか。あたしはお母さんにマヒルを出す様に言ってから、ユウヤに受話器を貸してやった。








『兄貴、そっち大丈夫なの?』


「あー、雨うぜぇし母さんうぜぇし父さん壊れてるしハザラさん笑ってるが大丈夫だ」


『それ大丈夫じゃないよ』


 言うな弟。

 ハザラさんから電話を代わられて、その先からする弟の声に悪態を漏らした俺。大丈夫、親にもハザラさんにもこの雨の中じゃ聞こえてねぇ。


「なぁユウヤ、今お前達が言ってた場所の近くに居るんだけど、土砂がぬかるんでてあんま早く進めねぇんだ。んなところにアサキが雨にうたれながら立ち止まってると思うか? もしかして歩き回ってたりしてな」


『思わない』


「だよな」


『――とは思うけど。もしかしたら立ち止まってるかも』


「え?」


『兄貴と一緒だもん、アサキは』


 慌てふためく母さんを横目で見つつ、俺は何時になく冷静なユウヤの声に耳を傾けた。俺と一緒、何がだ。


『マヒル兄さ』


「おう」



『雷苦手だったよね』


 ゴロゴロゴロゴロ――ピシャン!!!!


「――!?」


 ――ついしゃがみ込んだ。

 ……嗚呼、其の通りさ、今年で二十歳になりますけど? 


 ――雷、超嫌いです。



『……マヒル兄?』


「な、何だよ、ちょい雷うぜぇなぁとか思っただけだし」


『……』


 電話越しに冷めた弟の視線がある気がするのは気の所為であって欲しい。


「まぁ、もう何でも良いから何?」


『アサキは雷大嫌いだよ。雷鳴ると、しゃがみ込んでずっと耳塞いで固まっちゃうもん』


「……おい、じゃあ――」


『――鳴り始めた頃から、ずっとその場にいる可能性が高いんじゃないかな』


「そか、じゃあ歩いてないんだな。其れが聞ければもう良い」


 俺は電話を切った。そのままハザラさんの携帯電話を閉じると騒ぐ奴等の元にズカズカと歩を進める。


「ハザラさん、此れ」


「あ、うん」


「ああああアサキー!!!!」


「母さん、冷静になれっつーの」


 自分が冷静になれてないのに何を言うのか。俺は素で苦手な雷の音に怯みながらも、真面目にそう言った。


「早く捜そうぜ? 早く見つけてやんねぇと、アサキが凍死する」


「え、あー君は雨宿りとかしてないのかい?」


 ハザラさんが驚いた様に言うもんだから、ユウヤが言っていたことを簡潔に伝えてやった。一番反応があったのは、ぶっ壊れていた父さんで。


「アサキ、雷苦手でしたもんね……」


「忘れてたのかよ、父親の癖に」


「マヒルが雷苦手なのは覚えていたけ――」


「わーわー! 俺は良いから!!」


「じゃあ、もしかしたら近場に居てもアサキが気付いてないパターンが大きい訳……か」


 今度は母さんが。やっと精神の不安定から帰って来た様だ。


「だな、つか最初っからユウヤに聞けば良かったんだよな。アサキの行動パターンはあいつが一番知ってるから」


「そうねー、というか家族の私達は知ってたはずよね。――アサキがこんな雨の中、こんな奥地まで歩かない」


「我が息子ながらあっぱれ」


 ははは、と笑っていたらハザラさんが「じゃあ少し戻りましょう!」と歩き出した。


 戻って少しすれば居るよな、アサキ――?




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