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77+独り、雷雨の下。


「「……」」


「ユウリ、ユウヤ、兄ちゃんに言いたいことは……?」


「「ご、ごめんなさい」」


 ユウヤです、ただ今正座をする俺とユウリを見下すは実兄マヒルさんであって。仁王立ちをして凄く素敵な笑顔を見せているけれど、其の笑顔は感情が無くとても無機質で、俺達を見下ろす普段はとても優しいお兄ちゃん。嗚呼――絶対怒ってる。其れじゃなくても容姿はそこそこ恐ろしいのに。


「ユウヤには何時も言ってるよな? 遊ぶのは覆いに結構、だが、ちゃんと周りを見ろ、って。なのによりにもよって――弟置いて来ました、だ……?」


「「……」」


「ふざけるのも大概にしようか、ユウリちゃん、ユウヤ?」


「ひぃっ!!!!」


「は、はい!! ごめんなさい! 今後、いや、今から気をつけます!!!!」


 怖い! やっぱり怒ると一番怖いよマヒル兄!!!!

 しかし……よし、と一言添えれば説教は終わりらしく、へにゃへにゃとした笑みで俺達を見ていた両親へと話は移される。


「で、父さんも母さんもなーんでそんなに余裕の表情してるんだ?」


「「アサキだから平気かなぁと」」


「去ね」


 マヒル兄、先程から口調が更に荒れている様子。そりゃそうだよね、もうこんな時間な訳だし。


 時刻は夜八時。どんなに遅くたって普通は帰って来る、そんな時間。

 俺とユウリは野生動物を追い掛けている間にアサ君と逸れてしまった。なかなか奥地にまで広がっていた俺達の遊び場だから、もしかしたら呆れて先帰っちゃったんじゃないか……という見解に至って帰って来たら――こんな状態でして。


「うーん、田舎の山の天気は荒れ荒れだからねー。雨とか降らなきゃいいけどねぇ……」


 へにゃへにゃ両親の横に居るハザラ叔母さんが空を見上げて呟いた。大丈夫、だよね……。――雷なんて、鳴らないよな?







「真面目に迷ってしまった」


 アサキです、が、悠長に話してる場合じゃねェ。とりあえず――本気で何処だここ。

 山に居たんだ、家から数キロも離れていない少しだけ荒れているそんな山に。ユウヤとユウリと……だが今はひとり。ひとり一人独り。


「……」


 真っ暗で視界がはっきりしない。しかしユウヤやユウリに悪態を尽くことも出来ない、僕が勝手に先に帰ろうとして、誤って道を間違えてしまったのだから。間違えただけなら未だしも――


「……いて……」


 ――足までくじいたとなりゃあ歩く気にもなれない。

 ええやりましたよ、木の根に足を引っ掛けて、そのままどーんとずっこけましたよええ。……元々運動には向いてないんだよ僕は、え? 運動出来るじゃないかって? あんな瞬発力的な力なんて歩き疲れた僕じゃあ何にもなりませんって。

 ……こんなことになるなら仕方なくてもユウヤ達に着いてきゃ良かった……、と、今更悔いても仕方のない。さっきから歩けば歩く程奥地に追いやられてる気がする。


「……」


 よし、探されるのを待とう。







「ユウヤは、ユウリちゃんとオトワ君と留守を頼みますね」


 父さんがそう言って、俺はふて腐れながらも頷いた。



 ――空からは案の定、雨が降り始めた訳で。



 アサ君は未だ帰って来ない。流石に父さんも母さんも心配し始めたみたいで、アサキを探しに行くことにしたらしい。俺も行きたかったけど……ユウリとオト君を二人には出来ない、とも思った。


「あたしがしっかり案内するよっ! あの山はあたしの庭だかんね!」


「宜しくね、ハザラ。それじゃあ行ってくるね」


 ハザラ叔母さんが意気揚々と言えば、両親とハザラ叔母さん、マヒル兄が家を出た。

 アサ君のことだから、完璧既に捜索を待ってるんだろうなぁ……。迷ったら歩かない、もう迷子の鏡だよ。


「……アサキ、平気かな」


「ユウリ?」


 ふと、ユウリが呟いた。珍しい、ユウリがそんな心配を。


「此の空、雨が降ったから多分……雷雨になると思う」


「ユウリお姉、ユウヤお兄に要らない心配かけちゃ駄目だよ」


「仕方ないじゃないか。こんな時間までアサキが帰って来ないんだ、あたしが悪い」


「別にユウリの所為じゃないって。俺だって周り見てなかった訳だし」


 こっちでうだうだ言ってたって、どうにかなる訳はないんだけど。言ってないと、五月蝿く響く地面を叩く雨の音に呑まれそうだから、俺達は何かと話をしていた。

 ユウリは知ってるのかもしれない、自然の恐怖を。俺達みたいな都会っ子――そんな都会でもないんだけど――には分からないくらいの――最低な結末を。



 ――空が鳴り響く。酷く、大きく轟いて。




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