72+苦労、そして苦悩。
カッカッカッカッカッ――カタッ
「はい、この応用解け。当てずっぽうで当てるからな」
よう、ハジマシテ、じゃねぇか? イツキだ。……は? 誰だか分からねぇ? ナメてんじゃねぇぞコラ。一組担任のサクライイツキだっつーの。
今は聞いての通り数学の時間だ、選択教科で物好きにも数学を取った生徒共に数学を解かせてる訳だ。ちなみに言うが、さっきの音はチョークだからな。……選択なのに数学……ある意味馬鹿の集まりって訳だ。
「んじゃあ……カトウ、前来て解け」
「あ、はい!」
ずっと立っての授業なんざ怠ィだけだからな。生徒に解かせて俺ァ座る。
……ふむ、カトウリョウコ……キクカワのクラスの奴だったか? 数学で数少ない女子生徒の中じゃあ一番出来るとみた。答えも合ってるし、こいつァ伸びるな。
「よし、正解」
「ありがとうございました!」
礼儀もなってる、素晴らしい生徒だ。評定Aランク間違えなしってな。
俺は立ち上がって更に黒板に問題を追加する。基本俺が喋ってない時は五月蝿くなければ喋っててもOKな俺流授業。其処に聞こえてきたのがこんな喋り声。
「――サクライ先生の授業ってさ、凄く分かりやすくて良いよね」
「うん! 数学、好きになれそう!!」
女子生徒か、まぁ好きになってくれれば嬉しいが、それに比例して成績が上がるか、と言われればそうでもない。
「え、でもうちのクラスの授業だと先生ちょっと怖いよ~」
「そう?」
「あ、確かに……」
「たまに先生怒ってるもんね……」
……一、二組の生徒の話だなそりゃ。
仕方ねぇじゃねぇか、一、二組には――少々問題児が居るんだから。しかももうひとつ言ってしまえば――
「ね、何で2をかけるの」
「知らねぇよ、気分ってことでいいじゃねぇか」
「――……」
――この選択授業には、その問題児が三人共揃っちまってるって話だ。
「2はいいとしてもさ、Bの筆記体の意味が真面目分からない」
「くるーんって感じな奴か? あー、確かに。どれがどうなってアレなのか分からねぇ」
「あれー? カイト君英語得意じゃーん」
「得意だからって分かると思うなよ!!」
数学なのに英語の話始めやがった。英語やりてぇならアヤメのところにでも行きやがれってんだ。
窓側一番前から――ユウヤ、カイリ。そしてユウヤの隣にアサキ。……あっそこが問題なんだよなァ。
「あ、カイト君見て見て。カイト君居るよ」
「え、嘘……あ、マジじゃん。俺様教科書デビュー! カイリだけど!!」
「おいこらテメェ等、問題を解け」
問題を書き終えて、早急にコイツ等のところに来る俺。問題やらせなければいけないんだ。
「サックラ先生、俺にゃこんな高度な問題出来ません」
「同じく!」
「周りに聞いて良いっつってんじゃねーか」
「「周りが寝てます」」
――そうなんだよ。一、二年の時はそうでもなかったのに、三年になって新たに授業をあまりにも受けなくなった奴が居るんだよ。その名もヒコクアサキ。頭は良い、はずなんだが。
「――……」
あーらまぁ両腕を机一杯に組んで気持ち良さそうに眠ってくれちゃって……。
「――はぁ……」
「先生! ため息は幸せが逃げるらしいよ!!」
「誰が逃がしてるんだ誰が」
アサキは結構頼みの綱なんだがな……。この馬鹿共を黙らす為には。……よし、起こすか。
「起きろ馬鹿野郎、誰の授業だと思ってやがる」
――スパンッ
強めに殴ってみた。
「ん……指輪の力は抑えられた……?」
――何の夢を見ていたんだコイツは。
「ああ、抑えられたから横二人にあの問題を教えた後、前出て答え書け」
「抑えられたのか、なら良かった」
「アサキ、寝ぼけてないで此れ教えろ」
「ああ? ……此れ√使って有理化、とか」
「んなアバウトに言われても~」
アサキにとって今のひと言でヒントは終わりだったらしい。とっとと前に出て、答えを書いてしまった。
「……テメェ、寝てた癖に問題は解けるんだな」
「頭良いから」
激ムカつく。しかし本当なので何もいうことはない。ひらり、と手を振ってアサキは席に戻ってしまう。……ってまた寝るんかい。
「――じゃあ、今日は此処まで」
しかし授業時間も結局ギリギリだったので、此処で終わりとした。――今後此の選択で、俺はキレずに済む日はあるのだろうか――?
予断。
選択後の職員室。
「あ、選択ごっくろ~」
「お疲れ様です」
「チッ、厄介者が全部俺に来たからって……!!」
厄介者が居ない授業の国語と英語がニコニコして俺を迎えやがった。……畜生。