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66+好きの数だけ勘付けるってね。/前


 漫画よし、お菓子よし、飲み物よし!


 此れだけ買えばアサキも文句を言うまい! こんちはユウヤです! 買い出しに来て、やっとこさ終わったのでチャリンコチャリチャリ帰宅中!

 ただいま買い込んだのは、全て自分のものではない。家で寝込まされている弟のものです。寝込まされている、というのは昨日帰って来た父さんの所為。


 熱だからと言って本人は元気なつもりなアサ君は、冷静に本屋に行こうとしたが止められていた。そりゃ父さん医者だし、職業柄止めない訳にゃいかないし。つか、父さんだろうが何だろうが普通摂氏三十八度強ある人を止めない人は居ないだろう。そしたら、


『ユウヤ、新巻買って来て』


 と、ふて腐れて俺に言うものだからふたつ返事でOKしました。なんか可哀相だから――というか可愛かったから――。……したら、


『ついでに菓子と飲み物』


 と調子乗ってきやがった。

 ……まぁOKしてしまったが。家に居ても父さんと話すくらいしかやることないしさ。父さんも父さんで、


『あ、ユウヤ、今日は僕が夕食作るから遅くなっても構わないからね』


 なんていうから素直に遊びに出た訳さ。嗚呼、久方ぶりの自由だ。普段は夕飯の為に六時には家に居なきゃだからね、アサ君は何か最近、作らないし……作れないし?


 午後三時程に家を出て、ただいまの時刻は六時程。立ち読みしてたらこんなになっちゃったよ。まぁ、そろそろ帰って久方に父さんのご飯が食べたいなー、なんて考えていれば――通り掛かった公園に、見知った影を見つけた。


「あ、おーい!」


「――? あ……な、何よヒコクユウヤ!」


 相変わらずなフルネーム呼びで俺の名を呼んだのは、勿論リョウちゃんです。なんか久しぶりに会った気がする。

 自転車から降りて公園に侵入すると、リョウちゃんが座ってたブランコの近くに自転車を止めた。


「奇遇っすー」


「……そーね、奇遇ね」


 リョウちゃんはブランコに乗っているのにブランコを漕いではいないらしい。


「一人で何してるの?」


「それは私の台詞よ、アンタ何してる訳?」


「愛しの弟の為の買い出し」


「体よく使われてんじゃない」


 まぁね。というか愛しに反応してくれないリョウちゃん。ツッコんで欲しかった。


「で、リョウちゃんは?」


「私は……まぁ、何もして無いんだけどさ」


 リョウちゃんは本当に何もしてなかったみたいで、何時もの慌てふためいた雰囲気とは違く笑っていた。


「何もしてないのに此処に居たの?」


「悪い? 私だって物思いに耽りたい時だってあるのよ」


 中学生が何を言うんだか。

 俺はリョウちゃんの隣のブランコに足を乗せ、思いっきり漕いでみた。リョウちゃんは何も言わないし……良いよね。


「でさ」


 そして、ひとつ思ったことを言ってみた。


「何よ」


「リョウちゃんって――アサ君絡まないと大人しいね」


「ばっ!!!!」


 前を見ていたリョウちゃんが、こちらを見た。まっかっかー。


「な、な、何言ってるのよ! 私は別に普段から大人しいわよ!」


 ほら、騒がしくなったよー。


「と、というか! ヒコクアサキが何で出てくるのか分からないわ!!!!」


「……え? 気付かれてないとでも思ってるの……?」


「……え?」


「リョウがアサ君のことす――」


「わーわー!!!!」


 そうだったみたい。悪いことをしたよ、はっはー。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。何で知ってる訳……?」


「寧ろ分からない人が重症だよ」


「ま、まさかヒコクアサキも気付いてるとか言わないわよね!?」


「言わない言わない、アサ君は自分に向けられた好意には一切気付かない鈍感野郎だから」


 ブランコ漕ぎつつ右手で否定の意味を示してみたら、立ち上がって抗議したリョウちゃんはホッとしてまたもブランコに座り込んだ。


「――でもアサ君以外皆知ってる」


 ガタンッ!


 ――再び立ち上がったけど。


「モモちゃんもカイト君も、多分アスカも知ってるんじゃない? ついでにタッ君とかハジメ君とかセイタ君とかも――」


「もう良いわ!!!!」


 指折りに言ったらリョウちゃんは再び真っ赤になりました。まっかっかー。

 そして両手を自分の頬に当ててぶつぶつ呟き出した。


「うそ、そんな軽いモブ達にまでバレてるだなんて……!」


 タッ君達モブ扱いですかリョウちゃん、いや俺もだけど。


「何で……?」


「や、リョウちゃんの態度でモロバレだよ」


「何ですって!?」


「言い忘れてたけど、ユキちゃんは出会った瞬間気付いたみたいだよ?」


「ナンデスト!?」


「カタカナ表記!?」


 リョウちゃん落ち着いて! だってユキちゃんが言ってたよ!?


『私を女性と勘違いしたらしくってね、アサキと三人で出会った時に、恋仲として宣戦布告されてしまったよ』


 って。リョウちゃんにそのまま伝えてあげたら、


「ぎゃー!!!!」


 発狂された。


「リョウちゃーん、落ち着いてよー」


「無理! アンタそんなこと言って私が落ち着けると思ってるの!?」


「思ってないよ?」


「思いなさい!!」


 どっちよ。


「ま、アサ君をす――」


「言うなっ!」


「えー、表現しづらいんですけど」


「そ、其処は頭を捻りなさい」


「――想ってることに対しては、凄いと思う」


「よし、それなら――って、え?」


 リョウちゃんはキョトンとして俺を見た。何やら呆気って感じ。


「何よ、アンタ何時もアサ君アサ君五月蝿いのに、弟に自信無い訳?」


「無いよ」


「……無いの!?」


 無いに決まってるじゃない。リョウちゃんは少し考えてから叫んだ。


「だってアサ君だよ? 素直さ零優しさ零だよ?」


「酷いわね」


「――でも、本当は零じゃないんだよ」


 うん、零なんかじゃない。全然見えないだけ。


「零……な訳ないじゃん。アサキだよ、本当は友達思いだし家族思いだし、雨に打たれた猫が居たら、絶対連れて来ちゃいそうなアサキだよ。あんなお人良し、そう居ないってー」


「……連れて来たの?」


「比喩だよー、でもアサ君実は猫好きだよ」


 寧ろ、そんなのに遭遇する訳ないじゃん。人生そう広くはないよ、ははっ。


「――そんなの、知ってるわよ」


「……」


「自分が泣かせた訳でもない、其の日会ったばかりの人追い掛けてきちゃうくらいのお人良し、知らない訳ないじゃない」


 ……ふむ、リョウちゃんは其れに気付いたから、


「アサキが好きな訳だね」


「すっ、好きじゃないわよ!」


 あれ?


「好きじゃないの?」


「ないわよ! ない、ないわ……よ!!」


 情報信頼度零。


「べ、別にあんな奴好きじゃないわよ! あんなお人良し何時も見てないわ! 何時も見てないから、何か最近元気なかったのも知らないし、前学校休んだことなんて知らないんだからね!? 心配とか、してないって言ってるでしょうが!!」


「うん、聞いてもないね」


 うわー、リョウちゃん面白い。すんごく面白い。


「か、隠れてみてなんて居ないし、モモに会いに行った時ヒコクアサキの方見て、最近何か元気ないのが心配になって、ついこんな時間まで此処で考え耽ってなんて……無い、わよ」


「リョウちゃん?」


「……してないから」


「……」


 どうやら、本気で心配だったみたいだ。

 其れよりも、最近知り合ったばかりのリョウちゃんが――アサキの様子がおかしいことに気付いたことに、ちょっと驚いた俺。


「……」


 こんな健気な子、心配させたまま帰したら、男が廃るーって、カイト君なら言うかね。……俺は別に良いんだけど。



「……リョーウーちゃん」


「……何よ?」


「時間あるなら、俺の話聞くー?」


 俺はブランコから飛び降りて振り向き、座ってるリョウちゃんを見てはとりあえず、ニコーっと笑ってみた。



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