64+そんなチョークの痛みなど。
「此の問題の証明を書け、分からない奴が居たら聞くだけ聞いてやる」
相変わらず横暴な授業だ。サクライ先生の素晴らしき授業は今日も絶好調である。こんばんは、良い天気ですアサキです。という訳でお休みなさい。
「何がこんばんはだ、未だ朝だっつーの、寝てる奴この前のテストの点数バラすぞ」
何という横暴。数人の生徒が凄い勢いで起き上がった、おはよう。僕は気にせず寝るのだけれど。というか今心読まれた気がするのは気の所為か。
「畜生……何でお前数学出来んだよ、起きろよ」
「バラしても構わないんで寝かせて下さい」
寝たい。眠い。しかし馬鹿言ってると殴られるので起きておくことにした。
「先生!」
「何だカイリ」
「証明って何スか!」
「果てろ」
スコーン。
中三になってもカイトはカイトだった。三角形の証明とかやったじゃないかよ。見事カイトの額に白チョークをぶち当てた先生はシレッとして他の真面目な、真面目な生徒の元へ向かった。(※大事なので二度言いました)
「先生、白チョークの減りが早いって苦情が来――」
「んなの来ねぇよ」
「――てます」
来てんのかよ。遠くからの先生の声も多少びっくりしている、そりゃそうだ。
サクライ先生は、
「今度から赤チョークにする」
と、何の解決にもならない解決法を述べて先生らしく教えに戻った。先生らしく。(※大事なので二度言いましたパート2)
「ユキー」
「ふふっ、仕方がないね、私が教えてやろう」
どうやらカイトはユキに助けを求めた様だ。ちなみに言ってなかったが、ユキの席は僕の前。此の前がっつり机に座ってたしな。ん、何故僕に聞かないかって? ――僕にやる気がないからです。
「まず、証明する内容を――」
春って本当に暖かいな、と不意に思った。窓際の席をフル活用して外を眺めるが、桜の満開時期は過ぎてしまったから見えるのは青々とした空だけで。
――誰の声も遠ざかる。此の季節になると――どうしても思い出してしまうんだ、あいつの名前が――彼の笑顔がそうさせるのか。
もう、三年も前の話になるのか。酷く懐かしい、既に過去になってしまう奴の存在。
「――き」
たった十二の餓鬼の時の話。たった三歳違うだけで、どうしてあれだけ餓鬼だったのかと笑えてくる。あいつは――あいつは元気なのかな、元気なら良い、僕のことなんか須らく忘れてたくれていればと――希うんだけれど。
「――アサキ?」
はっと。
我に還った其処に居たのは――色素が薄いのかと、最初は思った茶髪の――少女な少年がひとり。
「……ん?」
「此れで合っているよね?」
僕に公式の確認を取りたいのか、声をかけてきたユキと、横のカイトが僕を見ていた。頬杖をついていた僕はぐるりと視線をそちらに持っていき、正しく書かれた其れを見る。
「合ってるよ」
「なぁ、アサキー」
答えだけ確認して視線を戻そうと思ってたのに、今度はカイトに声を掛けられた。何なんだ、未だ分からないのか。
「何」
「や、別に何でもねぇんだけどさ」
何だよ、何でもないなら呼ぶな。
つーか寝る、起こすなよ。
「これ分かる奴ー……って、寝るなよ」
「せんせ、良いじゃん、何時ものことじゃん」
そ、何時ものことだよ先生。最近何か上の空な、アサキは何時も通り。
だからこそ、聞いて良いのか駄目なのか、良く分からないから聞けないんだけど……さて、どうしようかなぁってな。
「じゃあ代わりにお前が解け」
「先生鬼畜!!」
ま、それくらいは受けるっきゃねぇよな。
……うん。何にも……分からねぇ。