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63+春の現と桜の舞。


「――眠い」


 無意識に僕は呟いた。

 ……こんにちは、アサキですが眠いです。


「……ふむ、眠いというのも致し方ないのではないか? 春の現に浮かされている、と言ったところだね」


 放課後、だというのにも関わらず、僕はユキと共にグダグダと教室でたむろっている。欠伸をした僕を見てかクスリと笑えば、ユキは読んでいた本を閉じて僕に向き直った。


「春は良いよね、とても暖かい。其れに生じて開花した桜の吹雪が宙を舞えば――心底素敵な光景だと思わないかい?」


「――ユキはさ」


 僕の前の席の机に座り、三階の高さから窓の外を一瞥したユキ。そんなユキの前で机で頬杖をついていた僕は、相変わらず眠そうに聞いてみた。


「ユキは、何時からそんな話し方してる訳?」


「……」


 ……返答がない。只の屍の様だ。

 変な質問だから呆れていたりして。


「……」


「……おーい」


 相変わらず返事がない。……何か気に障っただろうか。


「……ふふっ」


「……?」


「アサキが不思議そうにこちらを見るものだから可笑しくてね」


「……お前な。お前が返答しないからだろ」


「すまないすまない、何時からだったか考えていたのだよ。しかし……思い出せなかったさ」


「……つまり、昔からと?」


「だね」


 ほう、昔からそんな喋り方の餓鬼なんか居たら僕は嫌だ。


「昔からえらくませた餓鬼、とは言われていたからね。其の度に私は、早く大きくなりたいと願ったよ」


「僕等は未だ中学生だけどな」


「尤もだ」


 自分でも分かる程度に薄く笑う僕に、ユキは苦笑で答えた。……普通に笑えば只の中学生なのになぁ。


「じゃあアサキ、君はどうなんだい?」


「……何が」


「君はいつからそう――ませた餓鬼をやっているのか、という事さ」


「……」


 ませた……餓鬼、ねぇ?

 やってるつもりはない。只の一中学生のつもりだ。でもやはり僕をはたから見たら――ませたクソ餓鬼に見えるのだろうか?


「……昔から」


「それじゃあ私達は、昔から大人を怒らす名人だった訳だね!」


「何だよ其れ」


 大人びた餓鬼なんて本当の大人が愛でる訳ないから、ユキはそう言うんだろうなぁ。春の現に浮かされているからか、僕はろくに思考を回さずにつらつらと喋るユキの話を鵜呑みにした。


「二組のアスカも入れれば、三人揃ってませ餓鬼隊だと思うよ私は」


「アスカ君か、戦隊ものの色分けで言ったらブラックだね」


「其れ以外彼に何が似合うというのだい?」


 僕等大爆笑。ごめんアスカ君、テレパシーとか持ってないことを僕は願っとくよ。



 でも、僕の分岐点を考えるなら、やっぱり小学生最後の年だったんだと思う。あの時と比べると、僕は少し暗くなったとユウヤは言う。自分が無自覚だから何とも言えないんだけど――引きずっている証拠と考えて良いのだろうか。


「――後、アサキについて思うのは、人と距離を置こうとしていることかな」


「……距離?」


「あぁ! 名前で呼び捨てているのなんてユウヤを抜いて私だけではないのか? もっともっと友情を深めねばとは思わないのかい? 私のことだって私が言わなければ、今頃苗字呼びだっただろうに……」


「……」


「少しはカイリを見習いたまえ! カイリの様に、“今日の敵は明日の友”、“君の友達は僕の友達”精神で日々友情を育むべきさ!」


 カイトが何時そんなエキセントリックな精神をしてたのかは知らないが、僕には無理だろ。


「アサキ、君に問うが、かつて君個人から進んで呼び捨てた者は幾人程居るんだい!?」


 おおう、何時の間にかユキのテンションが最骨頂だ。ついてけねぇが考えてみよう。


「……カイトを入れるなら二人」


「うん? カイトとは何かのあだ名ではないのかい?」


「いや、単純に一年の時に呼び間違えたのをあいつが訂正しなかっただけ。一年は呼んでたから今更直すのも癪だしな」


「ふむ。――……では、もう一人は?」


「もう……ひと、り、は……」



 ザァ――――


 僕とユキは外を見た。大きな風が吹いて、舞い散る桜を取り纏めて吹く。


「――僕がもう――……名前では呼べない人、かね」


「――……アサキ?」


 風に紛れて呟けば、見事にユキはキョトンとした。よく聞こえないでくれていたら本望、聞こえていても、其れはまた其れで。


「くだらない話はさておき、後何分待てば良いんだ?」


「……さて、どうだったか」


 溜息を吐いてユキが言った。もしかしたら聞こえていたのかもしれないな。








「悪い! 遅くなっ、た……?」


 やばいやばいやばいやばい、数分で終わるから待っててくれと言ったクラス委員会が見事一時間かかった。というカイリです。ユキはともかくアサキはキレてる、確実にキレてる……!! だから急いで教室に駆け込んだのに――ユキが口に人差し指を当てて微笑んだのが目に入っただけだった。


「……?」


 ユキは無言のまま視線を落とす。そこには絶対キレてると思ったアサキの姿が……あれ、寝てる?


「春の現は素晴らしいね、鬼をも眠りにつかせてしまったよ」


「ユキ、今の台詞色々勇者だな」


 ユキは絶対勇者だ、危ない橋を自ら渡る勇者だ……!


「鬼、は正しくなかったかい? それじゃあ悪魔、いや、罪を侵して地に堕ちた堕天使なんてどうだい?」


「ユキ、最近ボケのスキルが上がってるぜ」


 元々ボケスキルしかない俺様にはキツイボケだ。天性のツッコミよ、起きろ!


「――というか、待たせて悪かった! アサキ起こして帰ろうぜ?」


「それもそうだね、暗くなってしまう」


「ほらアッサきゅーん、起きなさーい」


 ※ノリで起こしました。


「――其の堕天使を救ったのは其の片割れと、地に住み着いていた一人間だった……という訳かな」


「ユキー、ボケてないで帰るぞー!」


「……」


 起きたが覚醒していないアサキを引きずってユキに声を掛ける。何時までもボケてそうだからなー。


 そんで俺は、待っててくれたことに感謝と謝罪をもう一度述べてから、クラスを後にした。



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