62+馬鹿だと言われる俺だけど。
新学期ですこんにちはっ! ユウヤですよ!!
やっと新学期だよー、アサ君とユキちゃんと皆のおかげで珍しく宿題は終わってるし、何やらハッピーなユウヤです。ひとつ残念を言うのなら、マヒル兄が帰ってしまったことかな。今日の朝一で部屋に戻ってしまいました。
『また来るぜ!』
『来るな』
……違う違う、これはせっちーとアサ君の会話だ。思い出すの間違えた。
『またGWに戻るって。暇だったら出掛けよーな』
なんだかんだでマヒル兄のことは嫌いじゃない――寧ろ大好きだ――のでちょっと悲しいよぅ。ま、仕方ないよねー、大学生だし。社会人になれたら家から通うらしいです。……何で戻って来るんだあの人?
「――という訳で皆さん、これから未だ一年間宜しくお願いしますね」
ぐだぐだと思考をぐるぐるさせていたら、あーや先生の話が終わっていた。うん、クラス替えないもんね、何でだろう。
「せんせー! 何でですかー!」
「ヒコクユウヤ君、先ず何に疑問を抱いているのか言ってから聞いてくれると助かるんだけど?」
おお、口に出すのを忘れていた。
「何故クラス替えしなかったんですかー!」
「サクライ先生の傍若無人さと、キクカワ先生の唯我独尊が原因です」
あーや先生の表情は、笑顔なのに幸薄かった。此の話題に触れるのは止そう。
「じゃあ、質問がない様なので委員会決めちゃうから、皆少し考えといてね」
勝手に質問時間削りやがったちくしょー。んー、今年は何入ろっかなー、前は体育だったしー、その前も体育だったしー……ん? 体育ばっかりだぞ?
そうだ、アサ君と同じになれるか少し考えてみよう。アサ君は確か前が奉仕委員。缶回収の日に凄く柄の悪い回収の人が居たから良く覚えているよ、はっはっは。
「ユウヤは何やるんですか? やはり体育?」
「そりゃユウヤ以外誰が体育委員なんてやるんだよ、なぁ?」
「だよなー、僕嫌だしねー」
其処にやってくるは我が親友にダブルス野郎共。久しぶりなまともな出演。口には出さないでおこう。
「んー、俺は何でも良いからさ、暇だしアサ君と被るにはどれに入ればいいかを考えていたのだよ」
「アサ君? 嗚呼、弟か」
ライテめ、我が弟の名を忘れていただと? 締め上げてやろうか。
「いたたたたたた締まるマジ締まる」
「あ、ごめんごめん、締めようかと考えていたら本気で締めちゃってたよ」
ぱっ、と手を離すと再び考え出す。
「んー」
「ユウヤの弟ってあのー、ユウヤの弟とは思えない程真面目な奴だろ?」
「嗚呼、凄い真面目そうだよな、格好良いよな」
「――テメェ等人の弟馬鹿にしてんじゃねェぞゴルァ!!」
「「馬鹿にしてねぇよ褒めてるよ!!」」
――叫びが届いた一組。
「……アサキ、黙らせに行きたかったら――」
「続けて下さい」
「何だ、馬鹿にしてなかったのか、ごめんね」
「寧ろ馬鹿にしてたのはお前のことだよ馬鹿」
「馬鹿」
そうだったのか、初めて知った。それはさておき。
「アスカー、アスカは何やるの?」
「俺は監査委員が良いかと。人気ない割にやることもないですから」
「そっか」
相変わらず腹黒さが滲み出ているけど、其処が良い。
「ダブルは」
「「ダブルじゃねぇって」」
「久しぶりに聞いた。――まぁ何でも良いから何やんの?」
「俺は図書」
「僕はやらないつもり」
ふむ……じゃあどうしよっかなぁ……。
「弟に聞いてくりゃ良いじゃん、何入るか」
「此処で予想するのが楽しいんじゃないか」
「はは、ユウヤらしいですね」
むむむ、考えろユウヤ……! アサキだよ、あのアサキだよ?
「面倒な委員会には絶対入らないし、かと言って委員会入らないという選択肢は成績的にありえない。体育とクラス委員は無しと見て、風紀委員もないな。監査は……楽さ的にやるかもしれない、奉仕は前やって面倒だと気付いたから無いな……」
「おお、ユウヤが今まで以上に頭をフル回転しているな」
「頑張れー。……そんなに弟と一緒がいいのかね」
「ユウヤはアサキ君が大好きですからねぇ……」
「真面目な弟が居ると、普通馬鹿な兄貴って嫌いになるもんじゃないのかな?」
「――だからアサ君馬鹿にすんなぁ!!」
「だから馬鹿にしたのはお前のことだよ!」
――またも一組。
「――アサキ……」
「続けて下さい、とにかく続けて下さい」
「何だ、馬鹿にしてなかったのか、俺ならまぁ良いや」
「「良いのかよ」」
良いんだよ。馬鹿なの自覚してるんだから。
「ねーアスカー」
「そうですね、ユウヤはこれから頑張るんですもんね」
「うん!」
今年から受験生だもんね。俺、絶対頑張るって決めたもん。高校生になる為にね!
「まぁ、まともな弟の為に頑張れよ」
「まとも!? アサ君がまとも!? 無い! 有り得ない! アサキがまともな訳ないでしょうが!!」
「え、そうなのか? じゃあ何で――あ」
「そうだよ! アサキはゲームばっかりだし鬼畜だし毒舌だしやる気ないしダメダメなん――」
「――誰が?」
「だからアサく……ん……あれ?」
「俺が?」
……わー――何で本人が居るんだ? 気付けばダブルは立ち去った後、畜生逃げやがった……!
「隣のクラスまで、声が響いて五月蝿い。黙れ」
「は、はい」
「とにかく黙れ、とにかく消えろ、とにかく召されろ朽ち果てろ」
「ご、ごめんなさいごめんなさい怖いから、とにかく怖いから……!」
ちょ、クラスの皆がシィンとして此方を見ているじゃないか! とにかく其の笑顔止めてください!!
「あっ君! く、空気を読むのだ!」
「うるせぇカス。扉開いてんだから会話全て聞こえてるんだよ、うるせぇよ真面目で何が悪いテメェも少しは真面目になりやがれ馬鹿野郎」
其れだけ言うと、アサ君はスタスタと戻って行きました。……いっちー先生止めといてよ……。あれだけ言われると流石に凹む。嫌われてるんじゃないかな俺。……あ。
「――アサ君!」
「あ? まだ何かあ――」
「委員会! 何入ったの!?」
「……何だと思う?」
廊下に慌てて飛び出ると、アサ君はクラスに入るところだった。聞いた内容を理解するなり、アサ君は挑発的に口許を吊り上げる。ふーむ、悪い顔。
「……保健?」
……間。……間違……た?
「……」
アサ君は、何を言うでもなく無言を貫き通したかと思うと、俺を見て――クスリと笑った。
「――よく分かったな」
「……」
教室に戻って行くアサ君。……うん、大丈夫だね。未だ笑ってくれる内は……嫌われてるなんて考える必要はないみたい。
「お帰りなさいユウヤ、どうかしましたか?」
「ううん、何でもない! ――せんせっー! 俺、保健委員やる!!」
そう言った俺に、珍しくも優しく、アスカがクスリと笑った。




