58+勉強会、出動。/午前の部
「いらっしゃい、さぁ、入ってくれたまえ」
家に着くなりユキちゃんが迎えてくれました。こんにちは、ユウヤです。
とりあえずひと言――ユキちゃん家でけぇ。何じゃこりゃ。
「何を言ってるんだい? ユウヤ達の家だって充分大きいじゃないか」
「そう、だけどさー」
うん、家も大きいよ? 父さんがそれなりの仕事してる訳だし。でもさ……ねぇ?
「アサキ、感想をどうぞ」
「三階良いな」
――という訳です。三階建てですってよ、奥さん! 何ですか三階って! そんなの一般家庭にはないよね普通! ……え、ある? 俺の家はないんだってば!
遠慮もクソもない俺達はそのままズカズカと入り込みました。
「ユキちゃんユキちゃん、ユキちゃんの部屋は何階だい?」
「ふふっ、そんなこと聞いてくれなくても分かっているよ、しかと三階にて勉強会をしようじゃないか。皆先に来ているからね」
「「よっしゃ」!!」
だって行きたいじゃん! 三階あるなら三階行きたいじゃん!! 見つけた階段をドタドタと上ると、三階唯一の部屋だと思われる部屋に入った。
「よーっす!」
「遅かったわね、ヒコクアサキにヒコクユウヤ」
「おはよ~アサキ君、ユウヤ君」
中に居たのは最初から順にカイト君リョウちゃんにモモちゃんだった。まぁ全員て言われたんだからそうだよね。
「皆来た訳だし、さぁやろうじゃないか」
最後に部屋に入ったユキちゃんは、ひとつ手を叩いてそう言った。そうそう! 勉強会だもんね! 休み開けのテスト勉強!
「とりあえずユキ、やってないってとこ教えてやるよ」
「そうだね、すまない」
お? 珍しいな、アサ君が率先して動くなんて……。
「其れまでにユウヤ」
「うん?」
「どれでもいいから宿題終わらせろ」
「そんな無茶な」
ガツンッ
「痛ッ! 今の何!? 痛いよマジで!」
「チッ、頭か……外した」
「おや、アサキ。今のは私の筆箱じゃないかい?」
「ユキちゃんの筆箱だと!? つか頭で外したって君、何処当てる気だったの!?」
「目」
此の弟は的確に急所を狙うし何なの本当。
「失明したらどうするのさ!?」
「ユウヤが失明ごときで大人しくなるとは思っていない!!」
「こんな事で声張り上げるなよ!」
こういうどうでも良い事に対して声張るんだから……。どんな時も無表情な癖に。
「あのな、お前。どんだけ宿題終わってないと思ってるんだよ」
「……六つ」
「全体の宿題の量は」
「……六つ」
「全部じゃねぇかしねばいいのに」
「ごめんなさい」
相変わらず酷いよ。春の現に浮かされて少しは緩和されないかな、此の毒舌。
「ほらユウヤ! 英語だけなら俺様が教えてやんよ!」
「私もー、国語なら得意だよ~……時間があれば」
「化学は任せなさいよね!」
「皆……何て良い人なんだ……! アサ君とは大違――」
「刺すぞ」
「いではないですはいごめんなさい」
怖いよ、何か何時も以上に怖い。……いや、最近優しかったのかも。うん、多分。
という感じで午前の部が始まりました。ユキちゃんとアサ君を抜いたら無論、俺の宿題潰しで終わったんだけど。