53+口下手、だけど狡猾じゃない少年は。
「カイリ、アサキ達の家は此処なのかい?」
「おう。何千何百回と来てるから間違えやしねぇぜ!」
「俺も久しぶりに来ましたね、ユウヤ達の家にはー」
「わ、わわわわ私も初めてよ……! 外から見るのは二度目だけど……」
「リョウちゃん、落ち着いて……」
ちーっす、カイリだ。
ただ今俺達はアサキとユウヤの家の前に平々凡々と佇んでいる。発端はというと何でもユキが、
『アサキとユウヤが双子にも関わらずあれだけ性格に変格が訪れた、という事実は実に興味深い。是非お宅拝見といきたい所だね』
と語っていたから連れて来てみた。今日は半日だったから、二人を先に帰らせてから学校帰りにちょちょいとな。
んで、二人だけじゃつまらないなー、と。たまたま会ったアスカを誘ったらニッコニコでオーケー、自分から、
『あ、私もアサキ君達のお家行ってみたいな』
そう言ってモモがついて来て、連れにてリョウコがついて来たって訳だ。
「何で私がアンタに呼び捨てされなきゃいけないのよっ!」
「未だ呼んでねぇよ」
俺様にさん付けとかいうキャラ設定はねぇ、最初だけだそんなの。ま、それはさておき、とっとと乱入しましょうかねー。
俺は勝手にインターフォンをプッシュ。
ピーンポーン――
「突然お邪魔して平気なんでしょうか……」
「アスカは常識があるんだね、私は全くお構いなしで来てしまったよ」
アスカは多少苦笑しているが、ユキは完璧に爽笑。実に良い笑みだと思うよ。何時仲良くなったんだお前達。
「リョウちゃんリョウちゃん、アサキ君家だよ!」
「そ、そーね! ご家族に挨拶しなきゃ……!!!!」
さっきまでユキが男だと知ってほっとしたりアサキん家ってんで緊張したりユキが男だと知ってほっとしたり(※大事なので復唱)してたリョウコが、モモとひそひそ話している。相変わらずで悪いんだが――駄々漏れ的に聞こえてるんだけど。
カチャ――
「《はい、どちら様です――何だカイト君、はいはい待っててー》」
ガチャン!!
「「「「……」」」」
「早いよ、恐らくマヒルさん……」
カメラ付きインターフォンなので名前を聞かずに切られた。後何故か勢い良く。
……マヒルさん、帰って来てたんだな……。
「ま、マヒルさんってどなたよロクジョーカイリ!!」
「え、二人の兄ちゃん」
唖然としていたリョウコが急に俺に聞いて来た。
「おに、おに、お兄様ですって!?」
「何か今の“鬼☆鬼☆お兄様”みたいだったね」
「黙りなさいサキネユキ!!!!」
ユキって実はボケなんだよな、絶対ツッコミだと思った俺爆笑。
と、くだらない事を話していると家の方から足音がひとつ。玄関の扉が開き、其処からマヒルさんがやって来た。マヒルさんって怖いんだよなぁ、見た目がかなり。髪で隠れてても目付き悪いし、マジでアサキ達と血が繋がってるのかって感じの人だから――
「――悪ィ、今アサもユウも買い物行ってんだ……って、……?」
あ。
マヒルさんは――実にだっるそうな調子でパジャマ姿だった――地味な半袖半ズボンだ、寒くねぇのかな――。そして大人数な俺達に驚いている。……あ、隠れた。
「てめ、ダチ連れてんなら先言えよ! うわー、マジショックじゃん、ダサい兄貴マジショックじゃん」
「言う時間すら与えてくれなかったじゃないッスか」
「うるせ」
俺を抜けばアスカを抜いて三人が唖然としていた。寝起きなのか目付きがかなり悪いマヒルお兄さんは、ダサい格好でも普通に恐ろしかった。……まぁ、始めは俺もそうだったし。というかダサいはずなのにイケメンだからダサくねぇし。
「何か少し遠くまで行くとか言ってたけど、どうすんだ、待つか?」
「待ってて良いなら!」
「じゃあ入れ。俺ァ着替えてくっから」
そうして俺達五人はマヒルお兄さんだけのヒコク家へと潜入した。……いや、深い意味はないんだけど。
「へぇ……此処がアサキとユウヤの家か。一見何も変わらないじゃないか」
リビングでうろうろするユキ。モモとリョウコはちゃんとソファで大人しくしてるというのにユキは凄い好奇心だな。
「変わらないだろ、普通の家なんだから」
「まぁ、そういう事みたいだね。仕方ない、大人しくお兄さんを待つとするよ」
そして結局ソファへと座った。
ソファに座りきれないので、俺とアスカは普通の食卓机に座る。
暫くがやがやしていると、二階からマヒルお兄さんがやって来た。先程とは違いしっかりと今風の黒基調の私服を着て、ワックスで綺麗に整えた髪は凄く様になっている。……髪質はアサキ寄りなんだなマヒルお兄さん。
「マジ悪ィ、今日に限ってあいつ等出掛けちまってよ。あ、アスカ君お久ー」
「や、俺達が約束もなく来たのが悪ィんス」
アスカがお久しぶりです、と返してからマヒルお兄さんはそんな俺の言葉にニッと笑い、キッチンへと入っていった。
「冷たいんと温かいんどっちがいい?」
「冷たいの。皆はー?」
そう聞いたけど、皆頷いただけだった。女子(※ユキ込み)共はまだ緊張してる様だな。
しかしマヒルお兄さんはお構いってのがない。麦茶を持ってやって来るとガンガン喋り出す。
「なな、君等ってモモちゃんとリョウコちゃんとユキ君?」
「ふぇ?」
「は、はははい」
「何故、私達の事を?」
「ビンゴ。いやぁな、弟達から色々聞いてるからよ、俺。あ、マヒル、俺マヒルっつーから気軽に呼べな?」
実に楽しそうにそれだけ言うと、ソファの方から戻って来て向かい合う俺とアスカの隣、一角の食卓席に座った。
「二人のダチが家に遊びに来るんなんて久しぶりだなー」
「え、俺が来てるじゃないスか」
「お前抜いてだよ馬鹿。アスカ君も最近来てなかったからなぁ」
「ええ、少し体調が言うこと利かない時が多くって。其れにマヒルさんが一人暮らしを始めた影響もあるんじゃないですか?」
「違ぇねぇ!」
こっちだけ盛り上がりモード。
ソファの方の人達がシラケてそうだ……! しかしそんな所に気を遣えるのはマヒルお兄さんの特殊スキル。
「じゃさ。ユキ君は転入生なの知ってるけど、モモちゃんとリョウコちゃんは何でアサキ達と仲良くなったんだ?」
そんな話題をモモ達に振って話題を広げた。
「え、えと……色々ありまして……」
「私が、ヒコクア……アサキ君に喧嘩仕掛けました」
流石に身内前じゃあフルネームは止める様なリョウコ。しかし其の言い方凄いぜおい。……つーか、俺も其の話は知らないんだけど。
「喧嘩? リョウコちゃんがアサキに? はははっ! ……普通に面白ぇよ其れ」
「あぁ、確かカイリ君が出席停止の時でしたね」
「そうそう、騒ぎを見逃すなんて俺様としたことが……!」
本当に惜しいことをした。
「わ、私達が走っていたらアサキ君にぶつかっちゃって……」
「それに私がカッとなっちゃってアサキ君悪くないのにキレちゃって……」
マヒルお兄さんは腹を抱えて笑い出した。……笑い過ぎだよマヒルお兄さん。続けて続けて、と言っているから、何か話す度落ち込んでいく二人は続ける。
「アサキ君に言葉で丸め込まれたのが悔しくなっちゃって……つい、酷いこと口走っちゃって……ユウヤ君とも喧嘩になっちゃって……」
「私がユウヤ君叩いちゃって……」
「私逃げちゃってユウヤ君もアサキ君も何も悪くないのにしかもアサキ君慰めてくれちゃってなのに私ああああもうごめんなさぁあああいいいぃい!!!!」
リョウコ発狂。
……マジで何があったんだろうか、居なかった俺には分からない。
――と、何時の間にかマヒルお兄さん、笑い止んでいた。
「まぁまぁ、リョウコちゃん落ち着いて」
「す、すみませんマヒルさん」
「いい、いい。結構波瀾万丈な出会いだったことは分かったよ。……アサキと口喧嘩なんて二度としない方が良いぜ?」
「私も、そう思います。……彼が話す言葉って、間違いがなかったから」
「あぁ。アサキは自分が悪いと思ったら口答えなんてしねぇからな。……ちなみにリョウコちゃん、何口走ったんだ?」
「……」
リョウコは流石に吃った。そりゃあな、ユウヤがキレた台詞を言う訳にもいかないだろう。するとその場に居たのであろうアスカが変わりに答えた。
「“こんな性格悪そうな奴に負けたくない”……でしたっけ」
リョウコやモモの無言が、正解を差す。
「……」
マヒルお兄さんも黙った。表情は見えない、いや、見ない。怒ってたら嫌だから。
「……まー……見事にユウヤの地雷踏む様な台詞だな」
「……」
「ユウヤはキレないよ」
「……」
「でも例外で。――大切な人を傷付ける事は許さない、止まらない」
俺はアスカを見た。何時もの笑顔が少し曇っている気がした。
「だから、モモちゃんがユウヤを叩いたのは大正解。其れくらいやらないと、ユウヤは止まらねぇよ」
「マヒル、さん……」
マヒルさんが笑顔だったから、モモは少し泣きそうだった。確かにマヒルさんは怖い風だけど、決して酷い人じゃない。物事をしっかり第三者の立場から見れる、凄く真っ直ぐで優しい人なのは、知り合ってそう経たない俺も良く知ってる。
「つか、寧ろ其れだけじゃ止まらなかったんじゃないか……?」
「其の後、ユウヤの事をアサキ君が思いっきり扉までぶっ飛ばしたんですよ」
見ていた中立者、アスカが語る。
「嗚呼、そんだけやりゃ流石に止まるか。モモちゃんにも被害が行っちゃうのを防いだんだな、アサキは」
「……」
やり過ぎなのが否めないが。
「でも、やっぱあれだな。そんな騒ぎが起こってもダチになれたんなら……一件落着ってことなんじゃねぇの? ぶっ飛ばしたって兄弟やってられる訳だし――」
「アサキだからな。本当はユウヤがキレた事についても嬉しかったんだろーなー……って、俺は思う」
きっと、いや、絶対。口には出さないけどアサキだって人間だ、傷付いたはず。ユウヤが怒ったことで少しは――和らいだんだろうな。
「つーかなカイリ君、テメェが居れば喧嘩とか起こらなかったかもしんねぇぞ? 親友が止めないで誰が止めんだっつーの」
「そりゃないッスよマヒルお兄さん。俺、未だアサキに他人呼ばわりされる時あるんスからー」
…………ん?
何か、皆にキョトンとされた。……え?
そんな時。
「「たっだいまー」」
このタイミングで帰って来るとは、ナイスな奴等だ。
クイッ
およ、アスカに袖を引っ張られた。何だよ?
「ひとつだけ、教えてあげますね」
「……?」
「アサキ君がリョウコさんとの言い合い中に――アサキ君が漏らした言葉です。アサキ君はあの時、ある人がインフルエンザで休んでいたから、其の人の机からプリントを取り出そうとしていたんです。其の時モモさんとぶつかってしまって……それで、何故其処に居たのか、という問いに対して、こう言ったんですよ?」
『親友の席の近くに立ってて何が悪い?』
「――……え?」
――“親友”? そん時インフルエンザで休んでたのって。
「たっだいま、っておろ、皆。何してんの」
「お邪魔してますよ、ユウヤ」
「わ、アスカが家に居るの久しぶり! ユキちゃん達って初めてだよね?」
「ふふっ、実に興味深い話を聞かせて貰っていたよ」
ユウヤが色々話してる。何話してるかなんて知らん。やばい、とにかく、
「……何やってんだカイト」
「や、えーと、その」
「うるせぇ吃んなカス」
普段がこんなだからか、目の前のアサキがそう言ったっていう話が信じられない。
「――あ、俺用事思い出した! 先帰るな!」
俺はそう言って慌ててリビングを後にした。皆ポカン、としてたのは分かる。でも何か、今此処に居たら――素で泣きそう。
「カイト!」
後ろを向く。案の定アサキだ。
「明日、本屋付き合え」
呑気な事言いやがってる。俺様は忙しいんだぜ? そんなの勿論――
「おう! 任せろ!」
――行ってやんよ。だから今日はとにかく帰る。
嬉し過ぎて嬉し過ぎて。何か其のたった一言が嬉し過ぎて。馬鹿みたいだな、俺。そう思うけど、やっぱり唯嬉しくて。
「カイト君、どうしたんだろうねー」
ユウヤがそう述べました。
少し刺激が強かったですかね、カイリ君? でも貴方には伝えてあげたかったんです、アサキ君にとっての貴方の存在について、気付いてなかったみたいだから。
「んー? アスカ何笑ってんの? 何時も笑ってるけどさ」
「あ、分かりました? ――ユウヤくらいですよね、俺が笑ってるのに気付くのって」
普段から笑ってる所為ですかね。
「もっちろん分かるよー。アスカは親友だもーん」
「――はい」
カイリ君、アサキ君だって素直じゃないだけなんですよ? 俺にとってのユウヤがそうである様に、ユウヤだってそう言ってくれますから。だから貴方にとってアサキ君がそうである様に――アサキ君だってそう感じているんですよ?
本人は、無自覚かもしれませんけどね。