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498+最後の日。


「なんかさー……」


「うん、何かね」


 アサキだけど卒業式だった。いや、別にどうということは無く寝てたら終わったんだけど。うちの両親にしては珍しく仕事で式に出席しなかった、高校ともなればそういうものなのかも知れないとも思った、が……いや、普通高校だからこそってのもあるんだろうか、僕には良く分からない、寝てたから。

 明日からもう来ることのない一組の教室で――といっても既に長期で休んでたんだけど――、何故かゼン君とユウヤがぼうっとしている。お前等どうした。ユウヤなんかは卒業って言ったら大抵泣いてるイメージがあったんだけど、今回はそうでも無かったらしい。






「「卒業感が無い」」


 口を揃えて言ってるところ悪いが、それどんな?


「中学の時俺なんかすっごいボロ泣きしたんだけどな!」


「あー、確かにボロ泣きだったなー……、シギが」


 フドウがかよ。

 僕が覚えてる限り、卒業式の時に泣いてる人は知り合いには居なかった。まぁ、あの卒業式で泣けっていう方が無理な話だけど。一言で説明すると滅茶苦茶騒がしかった、主に在校生の送辞と卒業生の答辞的な意味で。送辞と答辞は大抵前生徒会長と新しい生徒会長がやるものらしい、よって答辞はゼン君、そして送辞を行ったのは。


「――でもさ、あのナツメが送辞読むとは思ってなかったよな」


「ねー。ぎりぎりまでシノ君だって聞いてたのに」


 しっかりと台上に立ち、真っ直ぐに前を見据えるそんな姿、奴に出会った去年……というか、昨日から予測なんて出来る訳が無かった。あのユウヤが寝てる僕を後ろから叩き起こす程には驚かされたらしく、この僕ですら、その後は全く睡魔がやって来なかった。



『――今思えば、先輩達には沢山の迷惑を掛け、同時に掛けられたように思います。何時だって僕たちを先導してくれたその背中を追っては、色んな意味で怪我をさせられました。今となってはとても良い思い出です』



「何というか、ナツメらしくない斬新さがあったけどね?」


「あははっ、本当に! 体育館が沸いたよね一瞬、……でも――」



『そんな思い出の数だけ、優しさを貰いました。……毎日の様に馬鹿らしく生きる先輩達は、色んな意味での秀でた才能を持っていました。けれど決して僕達を、――僕を、置いていきはしませんでした。遠くで見ているだけで毎日が楽しかった、あなた達の破天荒な行いの全てが――僕に真っ直ぐ前を見据える勇気を、与えてくれました』




「ナツメ君、格好良かったよね」


「あはは、……だね」


 卒業生よりも、在校生が涙を流す卒業式で、涙も見せずに僕等を見据えるムラサメの姿は、なかなか格好良かったと僕も思った。言われてることは結構散々だったのに。


「シキちゃんにお礼言われちゃったもんなぁ、今までで一番可愛く笑ってたね、シキちゃん」


「弟の成長が嬉しかったんだろうね、でもゼン君そんなにキリッとして言わなくても」


 元よりムラサメ姉が弟を生徒会基GC部にぶち込んだのは、あいつの性格強制の為だったし。僕等、というか主にカイトとシノノメを含めた前方の二人が騒ぎ散らかしてただけな気もするけど、仮にも後輩がああやって真っ直ぐ、背筋伸ばして前を見据えられるようになったキッカケを作れたなら、それはそれで素直に良かったと思う。


「ま、俺としてはその後のゼン君の答辞もなかなか格好良かったと思ったけど!」


「そう? まぁ、ゼン君格好良いからね」


 これが無ければ。というか、これがあっても変わりなく格好良いと思えるくらいにはイケメンなんだけど本人には言わないのが僕等の暗黙のルールである。


「あいつ等なりの本気には、ちゃんと応えてやんなきゃでしょ?」


「あははっ、それが先輩の役目だもん!」



 ――何となく、本当に何となく。

 中学の頃もそうだったけど、卒業したところできっと、高校生活で知り合った奴等とはこれからも共に生きていくんだろうって、僕は思う。世間でそう言われてるとか、そういう意味ではなくただ何となく。ユウヤなんかは家に居るんだから当たり前に、カイトやカトウは大学も一緒で、ゼン君やユキ、フドウやアスカ君とだって久し振りって言ったところで、さも昨日会っていたかのようにどうでも良い話をしてその時を過ごすんだろう。


 これからも変わらない日々が続くんだから、悲しむ必要が何処にあるんだか。これ、僕の素直な感想。





「よーっし! 今日は打ち上げ行くよー! もう皆は誘ってあるしね?」


「えっ!? ゼン君行動が早い! 勿論行くけど!」


「ゼン君を甘く見ちゃいけないんだぞ☆」


 何時も通り謎に煌めくゼン君を見遣っていたら、ふと僕の方を見たゼン君が、にっこりと微笑みつつ首を傾げた。


「モチロン、あっ君も行くよね?」


 ゼン君にしては珍しく、ほぼ強制送還の一言。隣のユウヤがそっと様子を伺うように僕を見ているが……ユウヤ、一言だけ言っておくからな。





「――行くよ、そこまで空気読めなくない」


 こう見えても今、少し機嫌が良いんだよ、僕。



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