494+案外そういうもの。
「おう、リョウコ」
「あら、ロクジョーカイリ」
リョウコです、寒い毎日が続き過ぎてお母さんと妹が買い物に行きたがらない毎日が続いています。最近の買い出しは専ら私が行っているんだけど……行くスーパーが近所な以上、知り合いに会うことだってあっちゃうのよね、こんな感じに。
「おうおう、一人で買い物か姉ちゃん」
「何キャラよそれ、っていうかアンタこそ一人で買い物って……」
「あん? 俺は買い物よく来るけど? 休みん時は特にな」
「……宿題は?」
「え、宿題終わんねぇと買い物来るのも駄目なん……?」
期限も近いだろうにこんなところで油売ってる場合じゃないと思うんだけれど。まぁでも、ラフなパーカー姿に似合わず手に持ってるかごの中は夕食の食材みたいだし、そういう親孝行は良いと思うわ。学校で毎日のように会ってた顔だし――大学行っても見るのよね、地味に付き合いが長いわ――、別段ここで話し込むようなことは無いかなと思ってそのまますり抜けようと思ったけれど、その瞬間にロクジョーカイリが「あ、」だなんて声を漏らしたものだから、つい何時もの調子でツッコミを入れてしまった。
「何よ」
「ほれ、アレ」
アレ、と言われ顎で指された先を見れば――つくづく近所って怖いわ、と思わざるを得なかった。
「――ちょっ、アサ君これが良いの?」
「カレーなんて全部一緒じゃん」
「まぁそうだけど……この中辛全然辛くないっていうか凄く甘いんだよ、だったら辛口が良いなー」
「……」
「あ、交換してきてくれるの? さっすがアサ君優しいね!」
「大声でうっさい」
「「……」」
見知った双子を発見、何時見ても仲良しなことよね。
「あ、リョウちゃんにカイト君」
「よう」
「こんばんは」
何処かに行った弟の方はさておき、隠れる気も無かった私達はあっさりヒコクユウヤに見つかった。カートを押す姿が制服なら未だしも私服なもので、ただの主夫にしか見えないことは言わないでおくわ。
「二人共買い物?」
「以外にスーパーで会うなんておかしいでしょ」
「珍しいな、アサキがついて来てんの」
「やってたゲーム終わって暇だったんだってさー、自分でついて来たのに寒いってずっと文句言ってるけど」
そんなことをのんびり話すヒコクユウヤ、近所のスーパーで卒業間近の高校生が三……四人も集まるって何なのよ。私はともかくアンタ達どんだけ良い子してるのよ、男の子ってそういうものだったかしら。
「あ、俺さっきそこで帰り際のユキちゃん見たよ」
「え、俺は母親と買い物来てるアスカ見たぜ?」
「……」
――アンタ等全員良い子ちゃんか! あまりにも久し振りに聞く名前に寧ろ見てみたかったとか思ったわよ!!
「アスカ居たの? 会いたかったなー」
「あいつちょっと見ない内に背ェ伸びたよな……俺抜かれてそう」
「そう考えるとリョウちゃんも伸びたよね!」
「え、そ、そうかしら……?」
「そろそろアサキ超えそうだなお前」
「余計なお世話よッ!!」
コイツ本当一言も二言も多いわね! 地味に気にしてるんだから言うんじゃないわよ!!
「アサキとユウヤはほとんどちっせぇまんまだよなァ」
「俺とアサ君だって少しは伸びてます~、た、たい…………」
「――大器晩成型って言いたいの?」
「そうそれだから! ……ってアサ君何時の間に」
「……ふ、ふふ……」
「どしたリョウコ」
身長だって心だって嫌って程成長してるんだから、ほら、こうやってヒコクアサキが急に現れても叫ばなくなったんだから! ……い、訝しげな視線を向けられてるから完璧には隠し切れてないみたいだけど。
「そこでランに会った」
「え、モモ? 来てたの?」
「中学メンバーオールスターじゃねェか」
帰るところだったみたい、とヒコクアサキは続けたけど、確かに皆居るってこのスーパーどうなってるのかしらね。確かにここらのスーパーっていうと此処くらいだけど、同じ時間にこれだけ揃うって凄くないかしら。さっき話してたっぽいカレーのルーをヒコクユウヤの押してるカートのかごにシュートしてから(投げるんじゃないわよ)、ヒコクアサキはまた何処かに行ってしまった。……あいつ今会ったばっかなのに冷静ね……。
「ありがとアサ君!」
「え、アイツ何処行ったの?」
「多分飲み物か何か見に行ったんじゃないかな、基本自分の買いたいものをかごにぶち込むのがアサ君の役割だから」
どんなやりたい放題の買い出し当番よそれ。
「にしても、そういや俺達卒業なんだよな」
「そうよ、知らなかったの?」
「いや、実感的なものとかがだな……」
「アサ君卒業だって!」
「その前にお前は受験な」
「……」
卒業って言っても四人中三人同じ大学なのよね、しかも今同じクラスの奴ばっか。
ロクジョーカイリ程ではないけど……確かにあんまり自覚が無い私だった。