484+変わらない安らぎというやつかも知れない。
「うおおおおおもらったあああああッ!!!!」
バシッ
「誰がさせるか」
「くっ、ゼン貴様ァ!!」
「大学で鈍った身体でゼン君に勝とうだなんてそうはいかないよサチ?」
「ゼン君ナイスカーット!」
「キャー! ゼン君カッコイー!(※裏声)」
「ちょっ、カイ君やめて……! その声笑い殺される……!」
「隙有りィ!!」
「あ! んだと待てコラァ!!」
「――で、これは一体」
「あら、ちゃんと来たのね。見ての通りだけど」
アサキだけど理解する時間を下さい。
ええと……今日はテスト中日だから? 明日の勉強するとか? 言って? ……。
「それで何故バスケしてるんです?」
「ヒコクアサキ、口調変わってるわよ」
つい。
「――悪かったな、俺たちが急に来たからだ」
「え……あ、ハヤ先輩」
呆れ顔のカトウの横に、何時振りかに見るハヤ先輩風の男の人が居た。……うん、ハヤ先輩だ。
「久し振りです」
「嗚呼、久し振りだな」
服装こそ制服ではなくなったけど、記憶上に未だ残っているあのストイックな笑みがそこにあった。道理でその馬鹿共に紛れてサチト先輩が見える訳だな。
「テストだっていうのは分かってたんだが、サチトが勉強教えに行こうと言い出してな」
「まさかのペーパーテストでない体育だったとは」
「……俺達もテスト近いんだけどな」
「ちなみにさっきまではバレーだったのよアレ」
完璧に諦観に徹しているカトウの冷めた視線に捉えられている馬鹿約四人は、実に楽しそうにこの寒空の元でワイシャツ姿を晒している。こっちはコートだぞコラァ。ちなみに何故僕が此処に居るかといえば、部室の机に見慣れた字で『校庭に集合!!』と書かれた紙を見付けてしまったからである、見なきゃ良かった。
「そういえばフウカ先輩はどうしたんですか?」
つられてそっちを見ていた視線をハヤ先輩に戻し、僕は尋ねる。
「フウカか? フウカは――ゲームの発売日だ」
「「……」」
あの人も本当に変わらなかった。
「あー! 久し振りに動いたぜー! 暑いから窓開けね?」
「開けたらツブす」
「何を? つーかアレ? 俺先輩だよな?」
小一時間遊び倒した奴等は、部室に戻っても清々しい顔をしていた。上着を肩に掛けたままに楽しげに笑うサチト先輩が馬鹿なことを言い出したから釘を刺したけど。寒いだろうが馬鹿め。
「やっぱり動くの楽しいですよね! 気持ち良い!」
「何か燃えるしな」
「あっはは、ゆっ君とカイ君は何で文化部なのかな?」
本当だよ、キラキラした目でこっち見んな。
「やっぱ高校って良いよなぁなんか、大学生は大学生で良いんだけどよ」
「サチはどっちでも変わんなくない?」
「あんだと? お前が大学生になったって一緒だろうが!」
「ゼン君が大学生になったら女の子にモテるだけだよ、だってゼン君格好良いから」
「うぜぇけど否定が出来ねぇ悲しさ!!」
幼馴染の言い合いに皆生暖かい視線を流していたけど、個人的にはサチト先輩のツッコミがあると労力が減って助かるってことだった。やっぱりツッコミって大事だ。
「折角遊びに来てやったってのにこいつは……!」
「別に家裏だし何時でも会えるじゃん」
「そういうこと言うこの子!!」
「俺は来てくれて嬉しいよサチ先輩!」
「ほらゼンこれくらい言ってみやがれ後輩可愛い」
「えー……じゃあ、――べッ、別に来てくれなんて頼んでないんだからねッ! ……でもアリガト」
「ツンデレキター!!」
「何でアンタのテンションが上がるのよロクジョーカイリ!」
「皆元気そうで良かった」
「……ハヤ先輩の方こそ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ部室で穏やかに微笑む我等がハヤ先輩、元気そうも何も、先輩以上に健康に難ある人なんて居ないですけど。
「そろそろ受験シーズンだからな、ナイーブになってる奴でも居るかと思ったんだが……、」
それもそうだと笑い飛ばして、先輩は再び騒がしい皆の方を見る。サチト先輩とゼン君の言い合いは恐らくゼン君の圧勝なんだろうな。
「お前達にそんな心配、要らなかったな?」
「揃いも揃って能天気ですから」
「違いない」
随分失礼な内容だけれど、笑う先輩につられて僕も若干笑った。別段そういった理由で来た訳では無いらしいが、何だかんだで気に掛けてくれている様子。
テストの中日だと言うのに浮かれてはしゃぐ馬鹿共にはそろそろ文句を言ってやろうと思っていたけど、久方に見た先輩達の楽しげな表情を見てたら、何となくどうでも良くなった僕だった。
約二人、先輩達に感謝しろよ、……点数次第では許さないけどな?