48+寒さ際立つスキー林間。/埜
………………。
響くは動くバスの音、バスの中は――無音。
ちわ、カイリッス。スキーとか来た後の帰りって、大体皆こうなってるよな。俺達のバスも案の定で、耳を澄ませばすやすやと寝息が聞こえてこなくもない。
「……」
俺の隣の方――勿論アサキだ――も例外ではなく寝ていらっしゃる。しかも俺達の席は一番後ろand二人だけだし前も居ないといった超孤立空間。何故って? だってアサキが、
「五月蝿いのは嫌いだ」
とか言い出すんだもん。俺様偉いからそんな友達の要望聞いてやったんだぜ、偉くね?
それはそうとして――暇過ぎる。
一つPA越えて次にもう着くけど、それから二時間程またバスらしい。アサキも起きないし起こしたくないから(※怖いから)暇ー!!!!
ユウヤが居れば何かあるだろうに、何故あいつと俺はクラスが違うんだ! ……や、アサキと同じクラスの方が良いからいいんだけどさ。双子って必然的に違うクラスだし。
――暇潰しに、此の三日を振り返ってみよう。
行きのバスは皆テンション高かった――アサキはずっと低かったな、この低血圧――、菓子をがつがつ食っては騒いでた。俺は騒ぎに参加しようか迷ったけど、山道は揺れて今食うと大変だってアサキが言ってたから騒がないで大人しくしてみた。
案の定皆山道でダウン。一部を抜いて青白い顔した奴等を嘲笑えて楽しかったぜ。皆の傍ら、モモが平然としてたのが一番面白かったかもしれない。
スキーは……あれ、余り思い出がない。雪だるさんの思い出しかないってどういう? リフトに突っ込んだのは……思い出にしたらサックラ先生に殴られそうだ。
――にしても、あの反省文は死ぬかと思った。先生を目の前に延々とシャーペンを動かす。普段二分も集中力が続かない俺にとっては――……あははははは! もう二度と思い出したくねぇぜ!!!!
アサキは寝ちゃうし、あーあ、つまんなかったなー、スキー。
……でも、つまんなかった理由、少しだけ分かる。だって俺の日常って――他愛無い毎日の方が楽しいから。横で眠ってるこいつと仲良くなってからの毎日、つまらない日の方が少ないし。ただただくっだらない日々が楽しいんだ、其れなのに此れ以上楽しい事を求めるなんて罰が当たるぜ。
俺は――アサキと友達になれて良かったと思ってる。……まぁ、未だに他人とか言われるけどさぁ!
でも、楽しい毎日が送れるのって、アサキやユウヤ達のお陰だって思ってるし。……楽しいだけじゃないってのは分かってるぜ? 未だ無いだけで、絶対何かが起こるとは分かってる。でも俺は、其れだって真っ向から受けるつもりでいる。
自分が五月蝿いのとかは分かってるし。五月蝿い、とか言われたのはアサキ達が最初じゃないし、でも――こんなに楽しい気持ちになる友達は初めてだから。
「――……」
「お?」
道を曲がったバス。どうやらPAに着いたみたいだな。其の振動でアサキが俺の方にもたれ掛かってくる。……これは起こすべき……?
「集合は十五分後だからなー! 遅れたら置いてくぞー!!」
サクライ先生のそんな声で、クラスの一部起床。ふっ、甘いなサクライ先生。アサキが其の程度で起きると思うな! つーか寝てる人起こさなくてよくないか先生!?
「……アサキー」
「……」
――ごめんなさい、俺に起こす勇気はありません。怖いもん、こんなに安らかに眠ってるのに起きたら絶対悪魔だもん。此れ以上声張れないって……!!
「ロクジョーくー……ん?」
クラスの女子より俺達と仲が良いモモがやってきた。
「アサキ君、起きないの?」
「起きないし、起こしたら後が怖い」
「そ、なんだ」
苦笑してモモが言う。
嗚呼、出来ればどうしたら良いのかの具体案を下さい。
「あっ君居るー!?」
具体案くれそうな奴来ました。
「何処だい何処だい、どうせアサ君が直ぐバスを出るなんていう元気な事してないだろい」
其の通りだユウヤ。
「……お」
「ユウヤ様、此れを起こして下さい。俺身動きしたら起きそうで」
「じゃあ動けば良いじゃなーい」
「だって殺されるでしょ!?」
此処で起こしたら確実に殺られる、逃げられる気がしねぇ……!!
モモはニコニコしてるし……ってユウヤもニコニコしてる。
「じゃ、動かないであげてよ」
……けど、何か何時もと違って柔らかい笑顔な気がする。
「アサ君昨日、十二時過ぎまで起きてたみたいだから眠いんだよ、多分」
「普通じゃねぇか」
「普段十一時前に寝ちゃうアサキだよ? 結構頑張った方だよ~、だからいじけないであげてねカイト君」
ユウヤは俺達の前の席から立て膝でこちらを見て、寝ているアサキの頭をポンポンと叩いた。勿論起きないけど。
「ほら、アサ君お子様だからさ!」
「そんな事言ったら殺され――「コロス」――起きてる!?」
……寝言みたいです。タイミングが恐ろしく丁度良い。
ユウヤは最後にボケたけど、やっぱりアサキの兄貴なんだなぁ……と、俺は思った。
「そういえばモモ、お前何か用あったんじゃねぇの?」
「あ、そうだったね」
ニコニコとアサキを見ていたモモは、席から持って来た小包を数個取り出した。
「此れを渡そうと思ってね」
「?」
「三人のあるよ~。はい、ユウヤ君とロクジョー君」
それはきっれーいにラッピングされていて、小さなカードにはこう書かれていた。
「……ヴァレティン?」
「ユウヤ、どんだけ英語苦手だよ――“バレンタイン”だろ」
俺様唯一得意科目英語でそう書かれていた。
「うん、遅くなっちゃったんだけどね、スキーの時に渡そうって、リョウちゃんと作ったの」
「うわぁ! ありがと、モモちゃん!」
ユウヤはキラキラした目でペコペコしている。……甘い物って偉大だな。
「アサキ君にはリョウちゃんが渡したかったみたいなんだけどさ」
「あー……だろうな」
「だろうねー」
ユウヤも俺も流石に気付くわ。流石にリョウコちゃん……だっけ――余り面識がない俺ってどうよ――はあからさま過ぎる。
「でも勇気が無いみたいだから、来年頑張るんだって」
ほう、受験中に頑張るのか彼女は。
「ユウヤ君、もう一個、ニカイドー君に渡してもらえるかな?」
「うん、分かった。モモちゃんからだって伝えとくね」
「うん」
ニコニコと笑うモモは楽しそうだ。アサキは一向に眠ったままだから、鞄の上に置いておいた。
「ユウヤ君、そろそろバス出る時間だよ?」
「あ、本当だ」
モモが腕時計を見る。ユウヤはピョンと席から飛び降りてバスを後にする様だ。
「帰り、マヒル兄が迎えに来てくれるらしいから一緒帰ろーよカイト君!」
「おう、そうさせてもらうわ」
ユウヤは其れだけで満足みたいで、バスに戻って行った。
「ユウヤ達って元気だよね」
「だな」
それじゃ、とモモも席に戻って行った。
そんなに思い出ないスキー林間だったけど、
「――うん、楽しかった」
肩に多少の重さを感じつつ、手に持った小包を弄びながら俺は呟いた。
バスが出発する――楽しかったスキー林間から、より楽しい毎日へと。




