469+日本の素晴らしき慣習。
「何でこんなに暑いんだよ!!」
自分から好き好んで外に出てったユウヤが帰って来て早々にそう叫んだが弟には無視されていた、マヒルだ、バイト無ぇから自宅で何をするでもなくぼうっとしている。……暇人とか言わない。
「お帰り、ユウヤ」
「あ、ただいまー父さん! じゃなくて、」
そして何かすっげぇ久しぶりに見た父さんもひたすらに読書を続けている。アサキは無論ゲームだが……うちの人間皆暇だな……。
「今残暑じゃないの!? 何でこんなに暑いの!?」
「残暑は毎年暑いものですよ」
「というか残暑って何なのさ! 残った暑さって何なのさ! 何時から残暑なのさ! 何時まで残暑なんだよおおおおっ!!」
普段滅多なことでは参らないユウヤがこれだけ言うんだから暑いんだろうな、外。買い物は夕方に行こう、今行ったら溶ける。そしてそんなことを考えてる俺とは違い恐らくこのクーラーの効いた部屋を出る気なんて無いのだろう父さんは涼しい顔でユウヤを見た。
「残暑っていうのは立秋から八月終わりくらいまでを言うんだよ、まぁ、九月まで暑さは続くんだけれどね」
「父さん父さん、立秋って何時ですか」
「立秋はマヒルの誕生日です」
「ん?」
そういや誕生日立秋だったな、俺。そしてユウヤ、兄ちゃんの誕生日何時だったかなみたいな顔してるけど八日な? 俺八日な?
「その間に残暑見舞いなんてものを出す人も居るね、……うちは無縁みたいだけど」
「そんなん送る時間があったら寝る」
「僕はゲームする」
「えー、俺はそういうの好きだよー?」
「「お前は宿題やれ」」
「おやおや、手厳しい兄弟ですね」
本当はあんたが言わなきゃいけないんじゃねぇの? という疑問は浮かべるだけ無駄だし黙っておくが、このにっこにこしてやがる父親は基本父親を職務放棄してるから……いや、父親は父親だけど、父親じゃないというか……アレ? 何が言いたいか分からなくなってきたぞ?
「でもさぁ、暑中見舞いとか残暑見舞いとかって、結局何時出せばいいのかいまいち分からないよね」
「まぁ、今出すんだったら少し遅いけど残暑見舞いだろ」
「八月末までといっても残暑は続くからね、そして暑中見舞いは土用の丑の日くらいから立秋までだね」
「暑中見舞い出そうとしてたら何時の間にか残暑見舞いになってるとか」
「アサ君なんでそれを」
「昔ユウヤがやってた」
「ぐっ」
暑中と残暑は残暑の方が長いからそうなることも少なくないんじゃねぇかなとは思うけど、暑中はだいたい十八日間くらいしか無い訳だし。
「確かに季節のお見舞いを差し上げるのは大事だけれど、暦の行事は沢山ありますからね。全てを把握することや実行することは難しいですよ」
「でも父さんとかマヒル兄ってほとんど把握してるよねそういうの、暇なの?」
暇とか言うなお前は。
「アサキだって知ってんじゃねぇの?」
「駄目だよ、アサ君は学校が休みなる祝日のこと以外はあんまり知らないから」
「そうですが何か! 立秋とか興味無いですけど何か!」
「声を張るな声を」
本当に歪み無ぇなお前。というか俺は詳しいというよりは気になった時に調べたりしてたからってだけなんだけどな、基本暇人だか……結局暇人なんじゃねぇか俺。
「何はともあれ、日本の慣習な訳ですから、知っておく分には悪いことではありません。アサキもユウヤも知っておくと良いでしょう」
「はーい」
「左脳の片隅には入れとく」
父さんはそれだけ言って、満足そうに読書に戻っていった。
さて、俺も何かすっかな。




