45+寒さ際立つスキー林間。/伍
「ひゃっほーう!!」
「へーい!!」
……。
「インストラクターさん、彼等は置いていきましょう」
「え、えぇ? だ、駄目ですよ! とりあえずインストラクターですから私!」
銀世界を滑走する二人。……インストラクターさん無視で。
……え? 誰何なんて聞かないでよ、言わなくなって分かるでしょうよ。
……こんにちは、昼になりましてスキーを始めた僕等ですが、案の定インストラクターの方に迷惑をかけること山の如しな我が兄と赤の他人。他の人唖然としてるからさ、帰って来てよ、いやマジで。
「いや、あの二人に関してはさっきサクライ先生からお言葉を言付かっています」
「え、そうなの?」
「《ユウヤとカイリは放っておけ、どうにかしようとしてもどうにもならないから》」
「……」
インストラクターさん――女性で、ピンクのウェアがとても似合う方――は唖然として、そして二人を見て納得した。そして結局Sクラスの僕等にこう言いました。
「皆、あれくらい滑れるみたいだから、好きに滑っちゃって良いわよ☆」
……わぁ、思い切った決断。
ズザァッ!!!!
「……」
「ちょっ! アサ君こけた! アサくーん!!」
「はっはっはー! 雑魚いぜアサキ! 俺様に着いて来れないってかー!?」
……こけたよ、嗚呼こけたさ、だから何だっつんだよ、初心者だもん、始めてなんだからこけたっていいじゃん!!
「アサ君立てる? 大丈夫?」
斜面で倒れたまま動かない僕の元に心配そうにユウヤが来る。お前もそんなにスキー来てないだろうが、何でそんなに上手いんだよ馬鹿野郎。
「平気」
「そか! じゃあお兄ちゃんと一緒に下まで直滑――」
と言って行ってしまった。つか直滑降って言いたかったんだろうけど滑って行っちゃったから聞こえなかったよ、もう嫌だよスキー……。あいつ等体力無尽蔵だし嫌い……!!
「……はぁ……」
「ほら」
ため息をつく僕。
そんな僕に手を差し延べたのはカイトだった。……何だ、お前も滑ってって居ないかと思った。
「俺がアサキを置いてく訳ねーでしょ」
「あるだろ」
無いとは言わせん。
「まぁまぁ。行きましょーやアサキ君」
「……へいへい」
でも、そんな奴等に付き合っちゃう僕も、相当な物好きだ。
「……」
「おーい、ニカイドー?」
「――はい?」
下に滑るユウヤ達を見ていたら、ついぼうっとしてしまっていた様です。三人乗りリフトにコウスケ君達と乗る俺、アスカです。
「何かボーッとしてなかったか?」
「いえ、平気ですよコウスケ君」
「ならいいんだ、なっ、ソウ」
「まーね」
そんなに心配して頂かなくても……でも、感謝ですね。
「ユウヤに『アスカに何かあったらお前等地獄の果てに突き落とすからな☆』って言われてんだ、体調不良とかになったら直ぐ言えよ?」
「大丈夫ですよ」
「俺達が駄目なんだよアスカ!」
コウスケ君もソウ君も大変ですね……。
でもユウヤの笑顔が浮かぶ様で面白いです。
「あ、ちなみにコウスケ君はセイカ君でソウ君はライテ君ですからね?」
「「……?」」
嗚呼、皆様への説明に二人がクエスチョンが。
「でもよく来れたなーニカイドー」
「はい?」
「だって学校すら一週間普通に来れないお前が来れるなんて誰が思ったよ」
「……」
まぁ、それはそうでしょうね。俺だって来れると思わなかったし――来たいとも思わなかった。
昔から学校なんて煩わしいと思う場所でしかなかったですし、元々スキー林間だなんて来る気もなかったです。
でも俺が来る気に、来たいと思えたのはきっと――
「――アスカー!!」
「あ」
下からの声。勿論それは――
「――ユウヤー!!」
其の人の声で。
滑ったと思ってたのに何やら戻って来たらしいユウヤの声。下から俺に向けて叫ぶ声に、つい大声で答えてしまう。
大きく手を振って――そのままこけた。よく見えないけど、周りは恐らくアサキ君とカイリ君でしょう。
「ニカイドーでも叫ぶ事あるんだな」
「え?」
「確かに。俺そういうイメージなかったからよー」
彼のお蔭ですよ、其れは。
俺はコウスケ君とソウ君とリフトに乗りながら、クスリと笑った。