446+ということで聞いてみた。
「俺? 大学院行ってるけど」
何処ぞから帰って来た兄貴に直球で尋ねてみたら、あっさり答えが帰ってきた、アサキです。
「なあんだ、大学院行ってるんだぁ。大学院……大が、……大学院!?」
「何の驚きだマイリトルブラザー」
「あ、今の発音馬鹿にしてる、マヒル兄が馬鹿にしてる!」
苦手教科は本人曰く日本語な兄貴は――最早教科じゃねぇ――英語の発音などお手の物。よってユウヤでも聞き取れるような発音は馬鹿にしてるも同然という訳だ、……ユウヤの大いなる偏見は放っておくことにして。
「てっきりフリーター的な何かなのかと」
「それやってんのはセツだよ」
「就職難ってやつかいマヒル兄……!」
「いや、あいつの場合はする気が無かったんじゃねぇか? 早々の内からやりたいこと無ぇから鳥になりたいとか言ってたし」
やはりあの人は僕が理解出来るだけの人物では無さそうである。勝手になってろ。
「でも、マヒル兄も大概だよね」
「ん?」
「――大学院に残って何するの、勉強なんて俺信じられない」
終始笑顔だったユウヤの顔からそれが消えた。勉強嫌い率が百パーセントを遥かに越えていることはずっと知ってたことだけども。
兄貴が苦笑してユウヤを見る、それの兄貴だとは思えない程賢しい頭脳を持つマヒルの考えてることなど考えるだけ無駄な気もするけど、世辞抜きにしたって兄貴程の優れた人間が大学院に残るメリットが分からない。優秀だからこそか、教員に唆されたのか。
「ドンマイ」
「……え、今何でアサキに励まされたんだ俺」
しかし院に行っていると分かった出前恐るべき勢いで興味が失せた、これはゲームするしかない。ということで急いでハードをセッティングする僕。
「父さんと母さんは知ってるの?」
「勿論、あの不登校ならぬ不帰宅野郎には言いに行ったし、母さんも話してくれたらしいしな」
世界で初だろうな、家に帰るのが面倒臭いで本当に凄い帰って来ない父親。そしてそれを了承している母親。
「大学残りますっつったら、何か喜んでたっけか。医者が稼ぎ口だとどんだけ大らかになるんだっつの」
「良かったね! うちがある程度裕福で!」
「まーな」
確かにそうだ、父さんが頑張って……頑、張っ……て……る? ――ってことにしておこうこの際。で、そんな父さんや母さんが頑張って働いてくれているから今こうやってゲームをしていられる訳だ。ユウヤなら未だしも僕にバイトなんてやらせたら勉学どころの話じゃなくなるのは目に見えているからな、瞬間人間をナメないで頂きたい。
「お前達も、もう少し大人になったら親孝行考えろな」
「え? 今は?」
「今は良い、特にユウヤはな」
「?」
「何よりの親孝行は――」
「勉強しろ」
「正解」
「アサ君聞いてたのか!?」
お前受験生なんだからそろそろどうにかしろよ、けらけらと楽しそうにマヒルが分かっているが――笑っている内に頑張らないと、何時か怒られるぞ、いっちばん恐ろしい兄君にな。
今言っても効果はあまり無いだろうから、テスト前の切羽詰まっている時に言ってやろうと思った僕だった。
それを追い討ちと呼ぶ。