428+二月の催し!
リョウコです!
「む、……んー……」
今私はデパートに来ています。……え、学校? 学校帰りによ! 帰り! 何処かの馬鹿達じゃないんだからずる休みなんてしないわよ!
「んー……」
「――リョウコさん」
「ひゃあ!!!!」
一人とある売り場で頭を悩ませていたら、後ろからトン、と肩を叩かれ、つい素っ頓狂な声をあげてしまった。ばっと身体ごと振り向けば、久しぶりに見る笑顔が其処にあった。
「に……ニカイドーアスカ!?」
「相変わらずのフルネーム呼び、恐縮です」
何でアナタが恐縮するのかは分からないけれど、まぁ良いわ。
「久しぶりね、高校入ってから何処かで会ったかしら?」
「ユキ君共々、文化祭や体育祭には行かせて貰ってますが……?」
そうだったわ。
名前の上がったサキネユキとは違い、比較的柔らかな笑顔が特徴的な彼――サキネユキは何か……胡散臭いのよね――。中学の時に比べたら其れなりに伸びた身長、やっぱり男の子って違うのねぇ……なんて、おばさん臭いことを考えた。
「買い物か何か?」
「ええ、母に連れられて。……此れは夜遅くなるパターンです」
わざとらしく溜息を吐く彼。親御さんの付き添いだなんて偉いわね、なんて思いつつ、私もつられて苦笑を漏らした。
「そういうリョウコさんは――聞かずもがな、ですね」
話題を自分から私へ移せば、だ。ちらりと背後を一瞥し、今度は彼が苦笑を漏らした。さっきまで見てた癖に何となく流れで振り返れば、其処には今の季節には何の不思議もない特設コーナーがあった。
「今年は手作りじゃないんですね、――バレンタイン」
「…………はっ」
――今一瞬だけ、思考回路が止まってた。
「ち、ちち違うわよ!? ……いや何が違うのかは知らないけど!!」
「とりあえず落ち着きましょう、リョウコさん」
久方振りの反応です、とニカイドーアスカは楽しそうに笑った。何よコイツ……!
という冷やかし(?)を受けたのは良いとして、私は今、確かにバレンタインに向けたピンク一色の特設コーナーを眺めていた。……うん、そう、眺めてただけなのよ。決して買うつもりなんてないの! ……本当なんだからね!?
「リョウコさんのことですから、毎年せっせと手作りに励んでいるものと思いました。中学生の頃……月日の流れは残酷なものですね……」
「遠い目しないでくれる!? ねぇ何で遠い目してるのかしら!?」
斜め上を見上げて何言ってるのよ! というか何処見てるのよ……!
「俺も歳を取りましたね……」
「二年で老け込み過ぎなのよアンタ! ――ああもうやっぱり馬鹿達の仲間ねニカイドーアスカ……!」
「ふふ、嬉しい限りです」
……勝てる気がしないわ。
ひとつ溜息を吐いて、ちらりと彼の表情を見る。今更ながらに冗談ですよ、なんて言葉を返して来て、私はもう一度溜息を吐いた。
「本当に買いに来た訳じゃないのよ、ただ参考にしようと思っただけで」
「そうなんですか、……女の子は大変ですね」
「大変だなんて。――女の子なんだから、当然でしょ?」
女の子はこういうイベントで張り切る生き物なんだから、大変だなんて思わないわよ。其処までは言わなかったけれど、ニカイドーアスカは一度だけ瞬きをして、そうですか、とまたひとつ笑った。
去年は其の前より張り切った、だから今年も去年より張り切るの。こういう時しか、私は張り切れないから! ……ひ、卑屈にはなってないわよ……!?
「喜んでくれると良いですね」
相手が誰かは言わずもがな、冷やかしの含まれないそんな些細な応援に、普段なら「喜ぶなんて感情がゲーム欲以外にある訳がないわよ」とか返すのだけれど。
「――ええ、そうね」
たまにはそうやって、素直に笑うのも悪くない――なんて、単純にそう、思った。