427+氷河期って来るんですか。
アサキです、いきなりだけど寒い。
冬は寒いから嫌いで、夏は暑いから嫌い。だから四季がある国なんて嫌いだってマヒルにそう言ったら、砂漠は一日に暑さと寒さが同時にやって来るから其の寒暖差でうんたら言われた。ユウヤじゃないが、此れだから頭の良い奴の返しは嫌いだ。
「ただいまー! ……あり? アサ君、マヒル兄は?」
学校から帰宅後、リビングのこたつに入りつつゲームと洒落込んでいた僕にそう尋ねてきたのは無論ユウヤ。買い物にでも行っていたらしい、学校帰りに夕飯の買い出ししちゃう辺りがもう主夫だ、ハウスハズバンドだ。
「バイトじゃねぇの」
「あ、そか」
毎度のことながら、ひょいと帰ってきてはバイトに明け暮れる我が家の長男は今日も居ない。たまにリビングや玄関で死に掛けの干物と化して発見されるけど、ああなるまで働くってどんだけなんだマヒル。僕はお前を見ている所為で働くことに希望が持てない、切実にニートになりたい。
「寒いのにご苦労様だねー……」
「寒くてもマヒルは機能するよ」
「まぁそうだけどさ」
荷物を置いてから寒い寒いとこたつに入ってきたユウヤ、マヒルの扱いが相変わらずなのはさておき。
「最近、寒過ぎてしねる」
「確かに。何か急に冷え込んだよね」
「お陰でアシが無い」
「アシ? ……嗚呼、カイト君ね」
学校に行く為の交通手段と書いてカイトと読むものが相変わらずに風邪で休みやがる。期待を裏切らなさ過ぎてそろそろ殴り飛ばしてやりたくなってきた。
「友達をアシとか言っちゃ駄目だぞアサ君!」
「は? 誰と誰が友達?」
「え? 未だ言う? 未だ其れ言っちゃう? カイト君良くめげないよね……!」
あいつをめげさしたら大したものだ、とか何とか適当なことを考えてから。ユウヤが夕飯作りを始めるだろう頃まで、暫く会話は止んだ。
さて、そろそろ夕ご飯作ろかなー、なユウヤでっす。
「そういえば逆に聞くけど、アサ君が思う友達って誰なの? 寧ろ居るの?」
さっきの話の続きで、ひとつ……いや、ふたつ尋ねてみた。
「居るわカス、人をぼっち野郎みたく言ってんじゃねぇよ、……まぁ、一人でも構わないけど?」
「駄目だよアサキ! それじゃなくても見た目も中身も根暗なんだから一人で居たらもっと拍車が――」
ゴンッ
「――〜〜〜ッ!!!!!!」(※声にならない悲鳴)
「うるせぇだまれ」
久し振りにクリーンヒットした!! こたつに置いてあった木箱の角!! 的確に角!! というか何でこんなもん机の上に置いておくかな……!!!!
「あ、アサキ……殴るもんは考えよ……? 洒落にならねぇ……」
「お前が殴られるようなこと言わなきゃ良いんじゃねぇの」
「そーですけどね!」
半涙目でど突かれた頭を押さえつつ、詫びる様子は一切無い弟を見る。くっそ、ゲーム画面から全く目を離す気配が無い!
「今のは痛かったな! アサ君のばーか!」
「はいはい」
「そんな気の抜けた返事すると夕飯抜きにしちゃうよ!」
「はいはい」
「……食べなきゃ駄目だからね!」
「意志の弱さ天下一品だなお前」
五月蝿いやい! 其れじゃなくてもゲームやってたら知らぬ内にご飯抜いてるようなアサ君にご飯抜かせるなんて! 此の! 俺が! する訳ない!
「ってことで、今日はオムライスだぞ☆」
「……どういうことで?」
さーて、夕飯夕飯っと! 弟の的確なツッコミなんて、俺には聞こえなかった。




