42+寒さ際立つスキー林間。/弐
「何でスキー来たのにさー」
ズルズルズルズル
「んまい」
「だよなぁ。スキー来たんだからさぁ、スキーしてぇよなー。何で」
ズルズルズルズル
「んまい」
「「蕎麦食ってんのかね」」
ズルズルズルズル
「「んまい」」
「文句言いながら食べんの止せや」
「お二人らしいじゃないですか」
今晩は、アスカです。自分達で作った蕎麦をズルズルと食べる俺達。未だにスキーを引きずっているユウヤとカイリ君は文句を言いつつも美味しそうに蕎麦を食べています。アサキ君が居なかったら……こんな平和はなかったんでしょうね。
第一美味しいなら良いじゃないですか。
「此れは此れ、其れは其れ、蕎麦は蕎麦だぜ!」
「黙っとけカイト」
「スキーはスキー、そして蕎麦はそ――」
「ユウヤ、俺の蕎麦余ったので食べません?」
「食べます」
ズルズルズルズル
食べ終わって五月蝿かったので俺のあげました。そんなにお腹減ってないですし、何より食べさせてないと五月蝿いですから。
「良いなー」
「僕のをやるからとっとと黙れ」
「わーい」
カイリ君も黙りました。食べ物って偉大ですよね。
「アサキ君、あげちゃって良かったんですか?」
「別に。後数時間で飯だし」
「其れもそうですね」
此の二人は此れだけ食べても夕食はいけるんでしょうね……。
するとそんな所に――
「ひ、ヒコクアサキ!」
「あ?」
「リョウコさん」
が現れました。にしても柄の悪いアサキ君ですね。
「カトウ、ランならそっちだぞ」
「分かってるわよ! モモに用がある訳じゃないの!」
「ほう、……で?」
「……」
おや、だんまりですね。
俺は水を差してはいけないと黙る事にしたのですが何やらもじもじとしていらっしゃる。……嗚呼。
「「おかわりー」」
二人共、空気を読んで下さい。黙って下さい。
「言うのよリョウコ、此処は流れで行くのよリョウコ、大丈夫、義理なんだからね、日頃の感謝よ、いや、感謝なんかしてないけど。寧ろ謝罪的なね! ……いや、遅くなったけどちゃんと渡すのよリョウコ……!!」
何やら俺には筒抜けな独り言を仰っていますが聞こえてしまっていて良いのでしょうか。
リョウコさんは意を決した様にアサキ君を見ると、言葉を紡ぐ。
「あのね! 此れ――「「ごちそうさまー」」……」
だから空気を読みなさい馬鹿野郎共。
「……何?」
「な、何でも無いわ! あ、用事思い出したからまた後で!!」
そう言ってリョウコさんは走って行ってしまった。嗚呼、何やら馬鹿共に邪魔されてしまって可哀相に……。
「ふー、食った食った」
「元気百倍、アン●ンマーン」
こいつ等、人の気ってものを知っているんでしょうか。
「何だったんだあいつ……」
アサキ君は呆けた様にリョウコさんを見送りました。
……俺には、何か分かった気がしたんですがね。
――それから数時間後の自由時間。
「はぁ……」
「リョウちゃん、そんなに落ち込まなくても明日と明後日があるよ?」
「要するに、今日はもう無理って言いたいのかしらアンタは……」
ロビーからこんばんは、リョウコです。せ、せっかくチャンスだったのに私ったら……! 渡せなかった、渡せるチャンスだったのに……!!
「そ、そうじゃなくてだよ!? リョウちゃんならきっと渡せるよ! 大丈夫だよ!? さっきはタイミングが悪かったんだよ! やっぱりアサキ君と二人の時が一番ベストだよ!」
慌てながら訂正を入れるモモ。ふんっ、ヒコクアサキがロクジョーカイリかヒコクユウヤと居ない時なんてあるのかしら……!
おまけにニカイドーアスカまで要るし……私はこのスキー中にあるものをヒコクアサキに渡さなきゃいけないのよ!! 此の――一週間過ぎた――
「義理だって言ってね!」
「其処は素直にならないんだね」
「当たり前よ!」
そ、そんな恥ずかしい事言えないわよ、ほ、本命とかそんなの……!!!!
今まで好きとかそういうの気にしたこと無かったし、モモが渡せっていうから! だから渡すは渡すけど本命なんてそんな……だ、だって……恥ずかしいし……。
「リョウちゃんやっぱり可愛い」
「何か言った?」
「ううん何も」
最近モモは独り言が増えた気がするわ。
「リョウー、風呂行っちゃうよー?」
「え? あ! うん! 今行く!」
今の自由時間内に三組は風呂だったわね、すっかり忘れてたわ。
班員にそう声を掛けられ、ロビーのソファから私は立ち上がる。
「それじゃね、モモ」
「うん、お休みー、頑張ってねリョウちゃん」
モモはヒラヒラと手を振る。……私もあれくらい可愛かったらなぁ……――何考えてるのよ。
「明日、頑張ろ」
今日のところは敗北で決定。明日は晴れるらしいし、その時にどうにか頑張ろっと。
ね。