413+十月末に文化祭。/3
「いらっしゃいませー! アイスは如何ですかー?」
リョウコです、訳は無いけど一組の前でアイス食べてます。季節関係無くアイスって凄く美味しいわよね。
「アイス下さい!」
「はい! 味は何にするのかな、可愛いお嬢さん?」
一組前ということで、今一組でああやってアイスを売っている彼を見る。私の知り合い且つ一組であれだけ爽やかにアイスを売れるのは一人しか居ないわ。
女の子の前にしゃがみ込み、メニューを見易いようにしてあげているのはワタヌキゼン。他のクラスメイトが「あれをナチュラルにやれるゼンって神か」「あれでナルシストだなんて神様もしてやってくれる」「あれ神が神様にやられてんの?」「あれ?」「あれ?」なんて馬鹿をやっているけれど、アイスを食べているだけのただのお客である私や接客中のワタヌキゼンは全くの無反応だった。……いや違うわワタヌキゼンの目が笑ってない、後でどうなるのかしらあのクラスメイト達。
「アイスありがとー!」
「どう致しましてー、またねー!」
ひらひらと手を振りつつ女の子を笑顔で見送ったワタヌキゼン、……まぁでも、確かに私だって思うわよ。此れで髪の色さえ完璧なら、ただの爽やかな青年って感じじゃない? ――中身が若干伴わないことも承知済みよ。
「うん、小さい子は素直で良いね」
「あら、アンタにロリコン疑惑掛かってるけど本当だったの……?」
「其の疑惑の根源を絶てば噂って消えるっけ?」
笑顔で洒落にならないこと言ってんじゃないわよ……!
「ま、冗談はさておき」
冗談に聞こえなかったのは私の目が悪いからかしら。こう見えて両目とも2.0よ。
「リョウコちゃんは此の後どうすんの?」
「え、そろそろ時間だし、生徒会の方行くけど」
「……其れまでもしかして時間潰してた……?」
「えぇ、アイス食べたかったしね」
「……カトウちゃんも、大概暇だよね」
失礼ねコイツ。
「例えばだよ?」
テナと違ってウェイトレス姿で校内を歩く勇気なんて無い私は、普通の制服姿でアイスを食べてた訳だけれど――今考えると廊下でなくクラス入っちゃえば良かったわ――、ワタヌキゼンがヤケに真剣に人差し指を立てるから、怪訝に思いながらちゃんと聞いてみることにした。
「こういうちょっとした時間にあっ君のところ行こうとか、……思ったりしないの?」
「………………はい?」
つい、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だってあのあっ君だよ? 些細なアプローチなんか絶対気付かないしだったら少しでも献身さアピールがてら様子見にいくとか! 俺割と本気でリョウコちゃんの心配してるからね!」
「…………」
真剣なのは何と無く伝わってきた。けど、
「考えたことなかったわね」
よく考えたら、私ってそういうの全く気にしたこと無かったわ。
気付かれないというかもう彼の興味がゲーム以外に向く訳が無いから全然。というより、……あれ? 私本当彼が好きなのよね……?
「うん、頑張らなきゃね!」
「何でアンタが張り切ってるのよ」
「リョウコちゃんが見た目程向上しようとしてないからかな!」
振り向いてもらう努力ってことかしら……?
「ということでリョウコちゃんは向かう!」
「え?」
「丁度入れ替わりなんだから、一言お疲れ、くらい早めに行って言いなよね!」
「え、ちょっとワタヌキゼンアンタ――」
「いらっしゃいませー!」
接客に戻ってしまった彼を遠目に見つつ、私はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ溜息を吐いた。
アプローチにアピール、ね……。
――効果なんて多分無いと思うんだけれど、ね。