410+夜道にはご注意を。
最近日の入りが早くなったなぁ……、あ、リョウコです!
「もう真っ暗ね……」
「そうだな」
「うわあ、なあんにも見えないねえ」
部活は無いけど文化祭の準備とかで帰りがほんの少し遅くなっただけなのに、外は既に真っ暗で、テナの言う通り街灯の少ない道では何も見えない状態だった。
「でもお、テナもミノちゃんもリョウコも皆目が良いから大丈夫だよねえ」
「そうだな。目が悪いと余計ぼやけてしまうだろう、……アサキは大丈夫だろうか?」
「ヒコクアサキならどうせロクジョーカイリの荷台でしょう? ……あ、休みだったわね」
免疫力の無さ過ぎる馬鹿を思い浮かべて、私はひとつ溜息を吐いた。暗くなったと同時に最近は寒くなったしね……だからって空気読んで休むってどうなのよ彼。
――三人で学校帰りの道を歩きつつ、話題は何やらミノルの話になっていた。
「ミノちゃんってえ、将来小説家さんになるのお?」
「小説家?」
何よ其れ、初耳だわ。
興味があってミノルを見れば、ほんの少し恨めしそうにテナを見た。
「こら、あまりその話題に触れるんじゃない」
「ええー」
「え、何々? すっごく気になるんだけど!」
何の話か凄く気になって、渋々そうなミノルに長らく食いついていれば――ちなみにテナはずっと楽しそうに笑ってたわ――。
「――小説を書いてたことがあってな」
ぼそぼそと呟くように、ミノルがそう言った。
「小説といっても、本当に拙いもので読めたものでは無いんだ。あくまでも趣味、そう、趣味の範疇で昔書いていてだな――」
「あれえ? 最近また書き始めたって言ってたよねえ?」
「……」
ミノルの動きが止まった。テナってば面白いくらい空気読まないわね、……全然良いんだけどね?
「へぇ、良いじゃない。趣味があるって良いことだし、別に私は笑ったりしないわよ?」
とりあえず私が率直に思ったことを言えば、ミノルは私を見てそうか? と首を傾げた。いいじゃない文学的な趣味で、丁度此の季節にはピッタリよ。
「テナはちょっとだけ読ませて貰ったことあるんだけどねえ、難しかったなあ」
「そういえばそうだったな」
「テナに難しいって……じゃあ私も無理かも……」
どういう風に難しいのかは分からないけれど、私は漫画とかなら未だしも、活字は若干苦手。文学小説なんて一章の最初で疲れちゃうわよ、小説読むのって凄い時間掛かるのよね……。
「ミノちゃんの小説の読者はたあくんくらいだよねえ?」
「たあくん……?」
誰よ。
「私の兄だ、一度部屋に居ることに気付かずその話をしてしまってな、……あの文学野郎……」
「部屋に居ることに気付かれないお兄さんて……」
ミノルのお兄さん……どんだけよ。そして文学野郎、と言ったミノルの声に全く抑揚が無くて笑ってしまった。
「あんな拙い文を人に見せるなど私には堪えられないというのに……!」
あ、わなわなしてる。
「でもミノちゃん、小説家さんは沢山の人に見せるんじゃないのお?」
「……まぁ、そうなのだが」
自分の書いたものを他人に見せるのは確かに恥ずかしかったりするものね、だから私は何も言わないけど、もし将来の夢が小説家なら、ちょっと読んでみたいって気にもなるかも。
「ま、何時か読ませてよ、途中まででもね」
「……考えておく」
頬を掻いたミノルを見て、私とテナは顔を合わせて笑った。
あははっ、楽しみね。




